G&Bレポート,海洋の持続可能性,藻類バイオマス

食品素材と包装技術が融合する可食性フィルム、脱プラごみ対策へ開発進む。食品開発展2022セミナー・展示から (2022.11.9)

 食品開発展2022(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン)は、2022年10月12日~14日、東京ビッグサイト西展示棟で開催された。食品分野の研究・開発、品質保証、製造技術者向けの専門展示会であるが、2022年は、健康、美味しさ、分析・計測、衛生のコンセプトに加え、気候変動問題などの地球環境問題や人口増加に絡み、フードロス削減や、フードテック、プラントベースフードの潮流が起こる中、2022記念セミナーでは、「プラントベースフードの開発」「新食料資源の開発」と題したセミナー等が開催された。また、同期間、東京ビッグサイト東展示棟では、包装分野のTOKYO PACK2022も開催され、食品包装に関連する分野の展示も目立った。

 持続可能な食糧生産、健康志向への配慮から、次世代たん白として豆類・穀類たんぱく、培養肉、培養シーフード、昆虫タンパク、微細藻類などが注目を集めているが、グローバル市場での次世代タンパク質とその利用製品に関する最新事例が紹介された。その中で、「新たな代替タンパク質素材としての米タンパク質の可能性」と題したセミナーが新潟工科大学工学部・食品・環境化学系 准教授の久保田准教授より行われた。新たな植物性タンパク質食品素材となる可能性を秘めている米タンパク質について、基本的性質や機能性について紹介された。お米というとデンプンのイメージが強いが、日本人が各種栄養素をどの食品から摂っているかという厚生労働省の調査によると、タンパク質は、肉、魚に次いでお米が3位となっている。そのお米のタンパク質が、病気の予防など健康な体を作るという点でも効果があるという報告が発表されている。糖尿病の進行を遅らせ、糖尿病の合併症予防にも効果があり、また免疫系のバランスに関する研究も進んでいる。
 
 展示では、地球環境問題視点で動き始めた食品関連・周辺事業の取り組みの動きを追った。まず、食品と包装技術が融合する、可食性フィルム”edible film”だ。そのまま食べることができ、フィルムでありながらゴミにならない。植物素材をベースとしているため自然環境下においても生分解する。世界的に海洋プラスチックごみ問題対策が動き出す中、プラスチックの代替素材として、欧米、国内大手化学メーカーでも開発が進んでおり、容器も含めて新しい商品提案、用途開拓が進み出している。 

■伊那食品工業㈱

(展示ブースより)

 伊那食品工業㈱(長野県伊那市)は、寒天をはじめとする海藻由来、天然素材由来の可食性フィルムを展示した。同社の可食性フィルムは、「トンボのはね」と「クレール」の2種類の商品を展開している。
 「トンボのはね」は、海藻由来でヒートシール性をもち、包装資材がメイン用途だ。包装フィルムの最内層(シール層)を加熱し溶融、シール面同士に圧力をかけて密着させることができ、接着剤を使う必要がない。同社が今年3月に発売した「ぱぱっと雑穀米」はこの機能を活用した商品だ。この食べられるフィルムで雑穀米を包装、そのまま炊飯器へ入れることができる。包装を開封することなく、そのまま使用できる。フィルム自体は無味のため、風味に影響はない。同製品は、調味料やスパイス、これまで難しいとされていた油を包装することもできる。
 「クレール」は、多糖類などの天然素材由来で水分の移行を防ぐことができ、水分が多い食材をまとめるのに適している。調理に組み合わせることでこれまで難しかった食品表現が可能になる。溶解温度や強度などによって、冷水で溶解タイプ、50℃以上から溶解タイプ、80℃以上から溶解するする3タイプのラインナップをもつ。

(展示ブースより)

 同社は、海藻を原料とした業務用寒天メーカーとして1958年、業務をスタートして以来、開発型研究企業として常に用途や技術の開発を進めてきた、総合ゲル化剤メーカー。健康食品だけでなく、化粧品や医薬品など、ライフスタイルに沿った様々な製品を開発、販売している。同社のブランドの「かんてんぱぱ」は、日常生活の中で手軽に使っていただこうという願いから、家庭用デザートシリーズの名称。同社の可食性フィルムの開発着手は約30年前に遡るという。改良や用途開発を進め、2019年に開催された海ごみゼロアワード(日本財団、環境省の共同事業)において、審査委員特別賞を受賞した。

関連情報→https://greenproduction.co.jp/archives/3398

 

■ツキオカフィルム製薬㈱

(展示ブースより)

 岐阜県各務原市に本社を置くツキオカフィルム製薬㈱は日新製糖との共同ブースで、可食フィルムを展示した。同社箔押事業部は、同期間、東展示棟で開催されたTOKYO PACK2022に出展、金箔印刷事業を展示した。事業分野別出展といったところのようだ。
 同社は箔押し印刷事業を主軸として1966年創業、1994年には食用純金箔事業に、2002年には機能性サプリメントや可食印刷などの水溶性可食性フィルム事業に参入した。2017年には、食品関連分野の商品ラインナップを拡充、化粧品・医薬品などに応用した事業領域の拡大展開を図っていた日新製糖グループの傘下にはいる。
 同社の可食性フィルムは、配合成分や溶解速度を自由設計、使用シーンに合わせたオリジナルの製品ができることが特徴だ。フィルムの素材は、ゼラチン、プルラン、デンプン、アルギン酸、カラギーナン、寒天などの食品素材を用いており、使用シーン、使用用途によってフィルムのベースとなる素材の選定・配合を行う。フィルムの種類には、大きく分類して、数秒で素早く溶ける速溶性フィルムと口腔内でゆっくりと溶解または崩壊する持続性のある徐溶性フィルムがあり、用途展開として次の4分野(→1)口中清涼フィルム、2)機能性サプリメントフィルム、3)可食印刷フィルム、4)食品包装フィルム)で展開する。

(応用例 画像提供:ツキオカフィルム製薬)

 ゼラチン系の可食フィルムは、口の中で素早く溶ける特徴が評価され、口臭予防製品に採用されるなど拡大したが、コロナ禍による宴会の減少などが販売数に大きく影響。その技術を応用して乾麺結束フィルムやカップなど包装用の開発を進めており、ゼラチンよりも強度があるセルロースを主原料としている。一方、多糖類系は温度が高いほど溶けやすい特徴を持つという。プラスチックごみの削減につなげることができることや、また用途に応じて原料を組み合わせ、最適なフィルムを提案したい考えだ。

■アサヒユウアス㈱

 食品開発展やTOKYOPACKへの出展はなかったが、アサヒグループホールディングスは2022年1月1日、エコカップやサステナブルなドリンクの製造販売などSDGs関連の事業を進める新会社アサヒユウアス㈱(東京都墨田区)を設立した。そのサステナブルプロダクツ展開の中で、使い捨てから「使い食べ」へをコンセプトに丸繁製菓(愛知県碧南市)と2020年に共同開発した「もぐカップ」を販売している。

(エコプロ2021 アサヒグループ展示ブースより)

https://www.asahi-youus.com/products/index.html

追加情報→アサヒユウアス㈱は、日本バイオマス普及推進協議会が発表する2022年度の第12回バイオマス普及推進功績賞を受賞した。→https://www.jora.jp/activity/award-12/

■ヤンマーエネルギーシステム㈱

(展示会ブースより)

 食品関連の展示が主体となる中、異色の機器システム展示が注目を集めていた。ヤンマーエネルギーシステム㈱(大阪市)の展示だ。ヤンマーグループでは、SDGs・脱炭素社会の実現に貢献すべく、2050年の脱炭素社会の実現に向け、「YANMAR GREEN CHALLENGE 2050」を推進中であるが、これまで主に下水処理場や酪農家など向けにバイオガスコージェネレーションシステムの普及に取り組んできた。今回の展示会では、食品残さの処理や光熱費の削減、環境への取り組みなどに課題を持つ食品工場、食品流通業などへ、カーボンニュートラルの実現につながるバイオガス発電やエネルギーマネジメントシステムなどのトータルエネルギーソリューションを提案した。
 工場から出る食品残さや排水を活用してエネルギーを生み出す25Wバイオガス発電システムの実機展示に加え、省エネを実現するガス空調システムやエネルギーマネジメントシステムなど、顧客の課題にあったトータルエネルギーソリューションだ。また、同社では排熱発電、もみ殻ガス化発電にも取り組み中だ。

(同社商品システム資料より)

 また、エネルギー課題ではないが、下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けて、農林水産省、国土交通省の他、関係機関が連携して推進策を検討するため、先般「下水汚泥の肥料利用の拡大に向けた官民検討会」が設立され、検討がスタートした。肥料の国産化と肥料価格の抑制が国家課題となっているが、そういったソリューションにも連携できるか注目したい。