G&Bレポート

COPの行方~カナダ・モントリオール開催COP15、生物多様性「30by30」目標へ期待と課題(2022.12.1)

 11月7日からエジプトの沿岸都市シャルム・エル・シェイクで開催された、COP27(第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、会期延長となり、11月20日閉幕した。
 温暖化に伴う海面上昇による土地消失や豪雨などの気象災害で「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設を決定、運用化に関してCOP28に向けて移行委員会が設置された。また生物多様性の問題も議長国は議論を推進する一方、温室効果ガス排出削減においては、具体性のある進展はなく、削減の踏み込んだ対策については課題として持ち越すこととなり、2023年末までに各国が2030年の排出削減目標を再検討、上積みするよう求めた。
 COP27は、Together For Inplementationとして、実行への前進を促そうとしたが、難しい実態を露呈した。

 同時期、インドネシアではG20首脳会合、タイのバンコクではアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合が開催された。ウクライナ・ロシア情勢の中、決裂は回避したものの、エネルギー・食料価格高騰問題への解決策は見いだせず各国の立場や考え方の溝を示す結果となった。
 そういった複雑な情勢ではあるが、インドネシア・バリ島のマングローブ林で11月16日、20か国・地域首脳会議(G20サミット)関連イベントで、各国首脳らによる植樹が行われた。インドネシアのジョコ大統領のほか、米国のバイデン大統領、インドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相、日本の岸田総理らが参加した。

(G20各国首脳らが植樹、官邸サイトより)

 ※11月21日、インドネシア・ジャワ島西部の内陸部で発生した地震については、被害に遭われた方々へのお見舞い申し上げるとともに、1日も早い復旧、復興を願う次第です。
 
 さて、次なるCOP、生物多様性条約、いわゆる生物の多様性をどう守るかを話し合うCBD(the Convention on Biological Diversity)-COP15が、2022年12月7日~19日、カナダ・モントリオールで開催される。この会議では、2010年に採択された「愛知目標」に続く、2020年以降の生物多様性世界フレームワークの採択が重要な目標である。今後10年間の生物多様性と生態系の保全、保護、回復、持続可能な管理のための戦略的ビジョンとグローバルなロードマップを提供することができるか、大きな焦点だ。
 このCOP15は、2020年10月に中国・昆明で開催する予定だったが、新型コロナウイルスにより延期、2021年10月にCOP15の第1部が同市でオンライン方式により行われた。第2部については、中国で新型コロナが再流行したことを受けて、事務局は対面形式を重視し、今年3月頃への開催延期を発表した。しかし、中国国内で新型コロナウイルスの感染が広がる中、議長国の中国は昆明から国外のカナダへ開催地を変更することを決定した。開催地が変わっても中国が引き続き議長国を務め、会議の主要な要素は変更されないとした。
 この会合の決議内容に関しては、今年、2022年6月21日から26日まで、ケニア・ナイロビにおいて、ポスト2020生物多様性枠組、第4回公開作業部会(OEWG4)が開催され議論された。スイス・ジュネーブでのOEWG3に引き続き、本枠組の各目標案を中心とした議論が進められたが、多くの論点が合意されず、議論が持ち越されることとなった。議論が継続され、COP15、本枠組等が合意されることが期待される。
 
 環境省の発表によるとポスト2020生物多様性枠組に関する第4回公開作業部会(OEWG4)の結果概要は次のとおりだ。
■ポスト枠組の各目標等
 ポスト枠組の各目標案を中心に議論が進められた。主な目標案のうち、都市における緑地・親水空間に関する目標や、保全等に関する能力構築に関する目標案の書き方については合意することができた。他方、下記に挙げたものを含むその他の目標については議論が収斂せず、COP15第二部に議論が持ち越されることになった。
 2030年までに陸地と海洋のそれぞれ30%を保護・保全する目標案の「30by30」については、数値目標以外の部分の書き方に多くの交渉時間が費やされ、具体的数値(30%等)については議論の時間が確保できなかった。
 気候変動と生物多様性に関する目標案については、気候変動による生物多様性への影響を最小化することを、日本を含む多くの国が支持したが、数値目標の有無や細かな表現で修正案が多数提案された。また、目標に含めるかどうかで意見が対立している「自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)」という用語の扱いは今次会合では扱われなかった。
 ビジネスと生物多様性に関する目標案については、OEWG3のテキストを元に議論が進められた結果、どのような手法で企業に情報開示等を促進するか、数値目標の是非、といった論点等に絞られた。
 資源動員に関する目標案については、OEWG3での議論に加え、生物多様性に関する新国際基金設立の提案が議論されたが、必要性を主張する途上国と、既存の基金活用改善を求める先進国の間での対立が解消されなかった。

■遺伝資源に係る塩基配列情報(DSI:Digital Sequence Information)
 DSIの取扱いに関するCOP15第二部における決定案の要素について案がまとめられたが、引き続き下記を中心に更なる議論が必要な状況。
・ポスト枠組のゴールやターゲットにDSIについても明記すべきとするか否か。
・DSIの定義や対象範囲、追跡可能性、利益配分の仕組み等。
 
 日本バイオインダストリー協会の関係サイト情報によれば、DSI に係る議論は、バイオテクノロジー分野の技術発展と遺伝資源の所有権の保護問題が、論点の背景にある。主に途上国を中心とした遺伝資源提供国の主張は、遺伝資源から取得された DSI の利用から得られた利益も提供国に配分されるべきだとする。これに対し主に利用者である先進国は、あくまでも有体物としての遺伝資源が生物多様性条約の対象であり、DSIはそれとは別物であるという考え方で、アクセス規制や利益配分には反対の立場をとってきている。
 詳しくは、→https://mabs.jp/index.html
 
 愛知目標について環境省のサイトで確認をしておくと、2002年のCOP6において、「生物多様性の損失速度を2010年までに顕著に減少させる」という「2010年目標」を含む戦略計画が採択され、この目標の達成に向けた努力が世界各地で行われてきた。しかし、生物多様性条約事務局が2010年5月に公表した地球規模生物多様性概況第3版(GBO3)では、15の評価指標のうち、9つの指標で悪化傾向が示され、「2010年目標は達成されず、生物多様性は引き続き減少している」と結論付けられた。

(環境省サイトより)

関係情報→https://www.cbd.int/doc/publications/gbo/gbo3-final-jp.pdf
 全世界が危機感を共有する中、2010年目標の目標年にあたる2010年10月に開催されたCOP10では、目標の空白期間を生じさせることなく、2011年以降の新たな世界目標である「生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標」が採択された。生物多様性戦略計画2011-2020及び愛知目標は、2050年までの長期目標として「自然と共生する世界」の実現、2020年までの短期目標として「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する」ことを掲げている。あわせて、短期目標を達成するため、5つの戦略目標と、その下に位置づけられる2015年又は2020年までの20の個別目標を定めている。

(環境省サイトより)

 2010年12月に開催された第65回国連総会では、愛知目標の達成に貢献するため、2011年から2020年までの10年間を、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組むべき重点期間として「国連生物多様性の10年」とすることを採択した。

 重点期間となった10年の間に前進できたのであろうか。2021年6月、民間企業や金融機関が、自然資本や生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価し、開示するための枠組みを構築する国際的な組織である自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)が立ち上がった。TNFDは、気候関連の財務情報の開示に関するTCFDタスクフォースに続く枠組みとして、資金の流れをネイチャーポジティブに移行させるという観点で、自然関連リスクに関する情報開示フレームワークを構築することを目指しており、2023年に開示指標の提言を発表する予定だ。
https://tnfd.global/
 環境省は、2022年4月、「30by30目標」の国内達成に向けて、認定等の必要な取組をまとめたロードマップを策定した。また、30by30目標に係る先駆的な取組を促し、発信するため、環境省を含めた産民官17団体を発起人とし、企業、自治体、NPO法人等、116者を加えた計133団体の有志連合「30by30アライアンス」を発足させ、認定の仕組みを試行する実証事業を始めている。→https://www.env.go.jp/press/110887.html 

 生物多様性、生態系の保護と温暖化・気候変動の問題は、もともとは出発起点は別であったが、影響を及ぼし合う密接な関係になっており、COP15の結果は気候変動問題においても鍵を握る。ウクライナ・ロシア情勢や先進国と途上国間の利害対立は分断と停滞の危険も含んでいるが、乗り越えていかねばならず、G20首脳らのマングローブ林での植樹のように足並みを揃えられるか、どう前進していくか注目である。

<追加情報>

 12月19日、COP15は閉幕し、2010年に採択された「愛知目標」に続く、2030 年までに陸域と海域の少なくとも 30%以上を保全(30by30 目標)など、2020年以降の生物多様性世界フレームワークが採択された。その概要について、環境省が発表した。→https://greenproduction.co.jp/archives/8896

2022-12-01 | Posted in G&Bレポート |