G&Bレポート,藻類バイオマス
佐賀市・さが藻類バイオマス協議会の取組~ISCC PLUS認証取得で、CCU加速~協議会会員の熊谷組、ミゾタの取組(2024.11.20)
バイオジャパン2024は、パシフィコ横浜において、2024年10月9~11日に開催された。バイオの分野を地域創成の核とするコンソーシアムなどの活動は活発化しており、その中で先駆者となってきた佐賀市は、様々な取組を通じて地球環境の保全と経済的な発展を両立するサーキュラーエコノミーの取組事例を展示した。清掃工場から回収したCO2の産業利用、バイオマス由来CO2の付加価値化、藻類産業の推進、みどりの食糧システム戦略へ向けた施設園芸の取組等を紹介した。また(一社)さが藻類バイオマス協議会と会員企業4社が参加、それぞれの取組をアピールした。
また、佐賀市は、清掃工場の排ガスから分離回収したCO2について、持続可能な製品の国際的な認証制度の一つである「ISCC PLUS認証」を取得、展示ブースで紹介した。清掃工場由来のCO2の認証取得は世界初の取組だ。
ここで佐賀市のISCC PLUS認証取得について詳しく確認しておきたい。
佐賀市清掃工場の排ガスから分離回収したCO2について、バイオマスや再生品などの持続可能な原材料を使用して製品を製造する企業や団体を認証する国際的な認証制度の一つである「ISCC PLUS認証」(マスバランス方式)を取得した。
マスバランス方式は、物質収支方式とも言われ、原料から製品への加工・流通工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う手法だ。石油由来原料とバイオマス原料の両方を使っているが、第三者機関の認証を受け、一部の製品を100%バイオマス由来と見なすという考え方で、環境配慮型製品をよりわかりやすい形で提供できる利点がある。
この方式は既に紙(FSC認証)、パーム油(RSPO認証)、電力(グリーン電力証書)、化学品など多様な業界で適用されており、バイオマス・再生原料の割合を認証済みの手法で最終製品に割り当てることができる。これにより、佐賀市清掃工場由来のCO2が国際的にサステナブルCO2であることをわかりやすく示すことができ、この認証取得をCO2のさらなる利活用につなげていく考えだ。「この認証取得の意義と狙いですが、まず、佐賀市清掃工場由来のCO2を使っていただいている多くの企業が、その製品等がサステナブルCO2を原料としているということ、経済価値としてアピールしやすくすることが第一に挙げられます。また、カーボンニュートラルに貢献できるCO2、環境価値を佐賀市では入手できること、またカーボンクレジットビジネスなど様々な取組を広げていくなど地域活性化にもつなげていきたいと考えております」(佐賀市バイオマス産業推進課)
この認証については、10月22日、佐賀市に認証書が授与された。認証機関である㈱Control Union Japan(東京都港区)の大村次郎社長と判定員の齋藤千秋氏が来佐、佐賀市バイオマス産業推進課の江島英文課長に認証書を手渡した。大村社長と齋藤氏は、清掃工場とCO2を分離回収するCCU設備を視察。回収したCO2が㈱アルビータの藻類培養やJAの野菜栽培での活用や、焼却炉の熱が隣接する健康運動センターや発電に利用されていることについて、改めて現場で説明を受け、「今回の認証でCO2やごみ焼却炉に対するイメージが変わっていくでしょう」と期待を語った。
佐賀市のブースに話を戻すと、展示ブースにおいて協議会会員4社は、パネルを展示した。この中で㈱ミゾタは、亜臨界状態の熱水を使って有用成分を抽出する「加圧熱水抽出」によって、任意の物質を高純度で抽出できる技術をアピール。花王㈱は、清掃工場で回収したCO2を活用した植物工場「SMART GARDEN」や、廃PETを独自の化学反応技術によりアスファルト改質剤に有効利用していることを紹介した。
㈱熊谷組は、微細藻類の培養とアクアポニックス(水耕栽培と陸上養殖を掛け合わせた環境保全型農業)を組み合わせた新事業開発プロジェクトに取り組んでいることをPR。㈱東芝は、工場や発電所などの排ガスからCO2を分離・回収する技術を2009年に開発し、佐賀市清掃工場をはじめ環境省のプラントなど現在7基が稼働していることをアピールした。
この中で、㈱熊谷組と㈱ミゾタのご担当の方に詳しくお話を伺うことができた。
㈱熊谷組は、佐賀市において進める、熊谷組独自株を用いた微細藻類培養とアクアポニックス(陸上養殖・水耕栽培)を組み合わせた環境保全型ハイブリット農業の実証実験の概要を紹介した。
同社は、新規事業創出にあたり、基本方針の一つに「周辺事業の加速」を掲げており、コア事業にとらわれず取り組みを加速させているが、本プロジェクトはその一環として同社と佐賀市、佐賀大学、さが藻類バイオマス協議会、地元企業、自治会など、産学官連携により実用化や産業化を目指して今年5月に清掃工場西側で実証実験を開始した。
このプロジェクトは完全循環型による陸上養殖と水耕栽培の共生環境を形成するアクアポニックスに微細藻類を掛け合わせるもので、陸上養殖で生じる排せつ物、残渣由来の分解物である無機態窒素(アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素)を水耕栽培だけでなく、藻類の栄養源としても利用する。またその過程で生まれる栄養分を野菜の水耕栽培と魚の成長促進に使い、微細藻類で浄化した水は再び水槽に戻し循環させる、環境負荷の少ない「藻類×アクアポニックスシステム」を目指している。
また、佐賀市清掃工場で発生する排ガスからCO2のみを分離回収するCCUプラントからパイプラインを敷設し、同社が発見したバイオマス生産性が高い独自の微細藻類にCO2を供給することによって、安定・大量生産の技術開発を進めている。
「今後は当社独自株の藻類大量培養フェーズへと進め、さらに、藻類を添加した魚餌と藻類培養液の一部を水耕栽培の液肥として用いることで、産生物に対する有価な栄養素や食味の向上、野菜生長・魚成長の促進効果などを狙ったイノベーション創出に取り組んでいきたいと考えております。そして、サスティナブルな次世代農業の実現や世界的な食料生産危機の解決、第一次産業の再生に向けた地域創生プロジェクトとの共創などに取り組み、新事業ビジネス収益モデルの構築や実装化フェーズへとプロジェクトを推進してまいりたい考えております」(熊谷組技術本部 酒井氏)
佐賀市に本社を置く㈱ミゾタは、加圧熱水抽出技術について展示した。この技術を用いて植物系バイオマスから各種機能性成分を含んだ抽出粉末の製造を行っている。
同社は、もともと農業用揚水ポンプにはじまり、雨水排水ポンプ、水門、除塵機、水処理設備機械等を製造する企業として展開してきた。環境問題への社会の関心の高まりを背景に環境関連の技術に取り組み始め、加圧熱水抽出という技術の開発もこの流れからきたものだ。
水は、加圧・加熱し続けると、大気圧の221倍・374℃で液体でもない気体でもない超臨界状態となるが、同社の装置では大気圧の20倍・200℃以下の亜臨界状態を作り出しており、この亜臨界水を加圧熱水と呼んでいる。
加圧熱水抽出は、高圧条件下で100℃を超す熱水を使って有用成分を抽出する技術で、一般的には、圧力釜のような密閉容器で一定の温度に溶解する特定の物質の抽出(バッチ式)が用いられるが、ミゾタでは流通式を使っている。これによってポンプで水圧をかけて装置内部の圧力を保ち、目的とする有用成分が最も効率よく取り出せる温度を維持することで様々な成分を連続して抽出することができる。装置には反応器があり、内部に原料となる試料を封入するが、反応器の出入り口にフィルターがあるため、固液分離の手間がない。
抽出液は濃縮・凍結乾燥工程を経て粉末にして販売している。腐敗しにくく、軽量化できることが利点という。
「加圧熱水抽出は多糖類の抽出などには有効と考えています。微細藻類に含まれる有用成分に、この技術と合致するものがあれば、役立てられるのではないかと期待しています」(環境技術研究所所長 古賀氏)
佐賀市ブースでは、4社の展示だけであったが、多くの企業がCCUをベースとした、活発な活動を行っており、このたびの佐賀市のISCC PLUS認証取得と合わせ、今後の展開に注目だ。
また、当原稿作成にあたっては、佐賀市バイオマス産業推進課さま、さが藻類バイオマス協議会さまのご協力をいただきました。御礼申し上げます。