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藻類バイオマス産業化レポート   ISAP2021(第7回国際応用藻類学会)   オンライン開催 注目の発表から 伊那食品工業等(2021.9.28)

 ISAP2021(International Society for Applied Phycology  第7回国際応用藻類学会)が、2021年5月14日から8月13日、オンライン開催された。同学会は、1999年設立の藻類研究(海藻等の大型藻類、微細藻類)をテーマとした世界最大規模の学会。2002年のスペインでの第1回大会開催に始まり、3年ごとに世界各地で開催されている。初めて開催された日本では、一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム、国立大学法人筑波大学 藻類バイオマスエネルギーシステム研究開発センター(ABES)、㈱ユーグレナによる、ISAP2020 日本開催組織委員会が構成され運営された。
 当初の予定では、リアル会議として幕張メッセにて2020年4月20日~24日開催の予定であったが、新型コロナウィルスの感染拡大により、2021年、つくば国際会議場で開催に変更すると発表された。しかしながら、感染の収束が見込めず、オンライン開催となった。

(筑波大学)

 筑波大学内におかれた運営事務局によれば、「ISAP2021会議の参加者数は約350名、セッションやセミナーの発表者数では、スペシャルセッション約50名、オーラルセッションで約100名の発表がありました。フランスのナントで開催された前回の学会では30か国、500名を超える参加でありました。今回は、度重なる会場調整、そして初めてのオンラインでの会議となり、模索とコロナ禍の中で、新たなオンライン運営により無事に前回とほぼ同規模で実施できたことは、大きな前進と考えています。次回の2023年は、開催地等は未定とのことですが、研究開発を加速させる運営の方法も進化していくだろうと考えています」                               また、当レポートにおいては、運営事務局には情報・画像提供などのご協力をいただきました。御礼申し上げます。
 
 藻類の研究開発については、人口増加、気候変動対策面などでも実用化に向けたニーズが高まっており、ISAP2021 日本開催組織委員会を構成した3組織についても次の動きがある。藻類産業創成コンソーシアム(AIIC)は、藻類分野で日本最大のグループとして、大学の研究者や企業が主軸となり、藻類の産業利用を研究し、藻類産業の早期確立に取り組んできたが、コンソーシアムとしての活動は、2021年3月を以って締めくくった。基礎研究から実用化、事業基盤づくりに向けた動きに重点を移していく模様だ。ユーグレナ(株)は、企業フィロソフィーを、SDGsを反映した内容に全面刷新。「Sustainability First」を制定し、これを軸とした事業を展開すると発表した。筑波大学・藻類バイオマスエネルギーシステム研究開発センター(ABES)は、2021年4月より、学内の生命環境系リサーチユニットに加わった。


 オープニングセレモニーでは、上記のメンバーによる発表が行われた。

●ISAP会長セリーヌ・レブール博士の発表から~ISAP2021のテーマについて
 
 世界の人口が増え続けるにつれて、資源の需要も増える。さらなる枯渇を回避し、健全な地球を維持するために、気候変動と人為的影響を緩和するための新しいアプローチが緊急に必要とされている。2015年のパリ協定は、持続可能な開発への移行を国際社会の主要な優先すべき事項とした。
 資源効率が高く、持続可能なバイオエコノミーのために海洋資源を利用することは、増大する需要を満たすための重要な方法と考えている。藻類は十分に活用されていない海洋資源であり、今日の社会が直面している課題への対応に貢献する可能性が高く、この可能性を実現するためには、経済性をサポートする革新的な方法、新しいビジネスモデルの創造、新興企業のサポートなどが必要だ。すべての製品に対する既存および新規の市場の需要開拓に積極的に取り組み、国際貿易と消費者支援における新たな提携を模索する必要がある。一方、気候変動と自然資源の不足という課題は緊急であり、生態系に対する十分な注意を払う必要がある。
 ISAPの以前の会議では、藻類の応用と新しい藻類バイオテクノロジーの開発、およびビジネス、健康医薬利用、革新的な製品の開発について議論してきたが、2017年以降、ISAPのテーマは、私たちの地球環境・社会の変化を認識し、すべての人類にとって藻類の利点を探求する場を提供することを主眼としている。

●伊那食品工業の井上修会長による講演~「Seaweed Industry in Japan」から

 伊那食品工業(株)は、アルプスの山間部、長野県伊那市に本社を置く。海藻を原料とした業務用寒天メーカーとして1958年、業務をスタートして以来、開発型研究企業として常に用途や技術の開発を進め、総合ゲル化剤メーカーへと成長した。スープやデザートなどの健康食品のみならず、化粧品や医薬品など、ライフスタイルに沿った様々な製品を開発、販売している。同社のブランドの「かんてんぱぱ」は、日常生活の中で手軽に使っていただこうという願いから、家庭用デザートシリーズの名称。「手作り」こそ親子の絆のもとであるという考え方から「ちょっと手作り」がコンセプトだ。
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/
 また、海藻由来の可食性フィルムも開発、販売する。同製品は2019年に開催された海ごみゼロアワード(日本財団、環境省の共同事業)において、審査委員特別賞を受賞した。
https://www.kantenpp.co.jp/corpinfo/business/businessuse/ediblefilm

海藻由来の可食性フィルム(画像提供:伊那食品工業)

 寒天はテングサやオゴノリといった海藻から作る。寒天は世界ではほとんど食用にされることなく、細菌などの培養用の用途がほとんどだが、日本では古くから海藻を煮詰めた煮汁を冷まして固化させた「ところてん」に酢や蜜をかけて食べる習慣があった。「江戸時代初期に、ある「偶然の出来事」によってこのところてんから寒天が生まれました。寒天の起源として知られているのは、1685年、京都の伏見で旅館を営んでいた美濃屋太郎左衛門が寒い冬に、食べ残したところてんを屋外に放置したこととされています。夜の間にところてんは凍り、そして日中の日差しを浴びて干からびてしまった。カラカラに乾いたところてんを太郎左衛門は再び食べようと思ったのか、水に浸しておいたところ再びゼリー状になりました。それを食べてみると、何とところてんの海藻臭さが抜けていた。これはいいと作られるようになり、そして漢語で「冬の空」を意味する「寒天」と名づけられました」(井上会長) 

寒天原料の海藻(画像提供:伊那食品工業)

 寒い冬に凍らせ、そして天日干しにするという自然頼みの製法を同社が工業化した。品質が格段に向上、冬の間だけだった製造期間も通年になった。また、創業当時、寒天生産は、農家が冬場の副業にする程度の産業。天候次第で生産量が増減する上に、原料の海藻が不足すると価格が何倍にも高騰してしまう相場商品だった。オイルショックなどの荒波の中、原料の海藻を海外に求め、チリ、モロッコ、インドネシア、韓国等の現地の会社に技術指導者を派遣し、開発輸入を通じて、共に成長できる生産体制を構築した。
 同社は毎年少しずつ会社が成長する「年輪経営」を実践する。1983年に社長に就任した塚越寛最高顧問が提唱し、48期連続の増収増益を達成し、その優良経営にトヨタ自動車など多くの大企業が視察に訪れる。

 

特別セッションでは、9テーマ群のもと行われた。これらは、研究開発の潮流を示す課題ともいえるだろう。詳しくは、下記を参照ください。

https://isap2020-phycology.org/  (2021年10月まで開設予定)
https://www.appliedphycologysoc.org/

●食品と燃料のための藻類培養の次なる開発テーマ

 米国の藻類産業において、現状行われている規模、レベルでの培養では、必要とする大幅な成長に向けて限界に近い。光合成独立栄養による藻類の生産性は、燃料とより付加価値の高い副産物を組み合わせた生産、最適な条件や組み合わせに基づく藻類のバイオリファイナリーによって実現可能であると予測される。一方、世界人口の増加の中で食品や飼料用タンパク質に対する需要が高まっていることも、念頭に置く必要がある。
 生産性向上のための菌株選定、生産量を最大化するための生育条件の確立、培養・収穫システムのスケールアップ、藻類栽培システムへの廃水・煙道ガスの取り込み、多製品藻類バイオリファイナリーなどについて、Polaris Renewables のPhilip T. Pienkos,博士、国立再生可能エネルギー研究所のLieve Laurens氏、米国エネルギー省のDevinn Lambert氏によって発表、議論された。

 

●ボツリオコッカス ブラウニー(Botryococcus braunii)培養と新しい応用に向けた国際協力

 同種は、バイオ燃料、材料、健康、化粧品などの用途において長鎖炭化水素を生成し、細胞を取り巻くマトリックスに貯蔵できるユニークな緑色の微細藻類だ。現時点で、国際的には最も注目されており、2017年に開始された国際研究ネットワークの枠組みの中で、生物学(遺伝子導入技術、ゲノムおよび代謝分析)、太陽条件でのフォトバイオリアクターの最適化、グリーンケミストリー、化粧品またはバイオマスプラスチックの分野での廃水による栽培、炭化水素の収穫と抽出などが進められている。

 


●藻類ベースのバイオプラスチック

 石油系プラスチックの代替として、バイオマスプラスチックは、地球温暖化の原因となるCO2を固定し、石油資源の枯渇を防ぐという利点がある。藻類バイオマスは、将来の安定供給と様々なユニークな化学構造から、バイオプラスチックの食料と競合しない資源として期待されている。最新の藻類ベースのバイオプラスチックは、自然環境中での生分解性や製造工程でのCO2排出量の削減など、現在工業化されているバイオプラスチックよりも優れた機能をもつ部分もある。筑波大学の位地教授らによって発表された。

 


●藻類廃水処理の現状と将来の展望

 現在、数万の藻類廃水「酸化」池が世界中で稼働しており、都市、農業、工業廃水を処理し、低コストで使用されている。ただし、これらの排水には、高レベルの藻類バイオマス、栄養素、主に窒素とリン、及びその他の物質が含まれている。レースウェイと酸化池を統合した、浅い混合レースウェイ池方式は、使用する土地を減らし、藻類バイオマスを収穫し、栄養分を回収する効率性を重視している。廃水処理における藻類の状況と展望を紹介した。

 

          
   その他、生命体を合理的に設計、構築することを目的とした微細藻類合成生物学、効率的な応用のための菌株選択と評価に関する考え方、海藻の病害虫対策、有毒藻類の検出のためのツール、土壌の砂漠化を防止するシアノバクテリアによるバイオクラストについて発表、議論された。

 オンライン展示には、下記の出展者が出展、プレゼンテーションなどを行った。
ユーグレナ、デンソー、三菱化工機、AstaReal、DIC、国立環境研究所,Oroboros Instruments、Biorea, MoBiolグループ、Varicon Aqua、SCHOT           https://isap2020-phycology.org/exhibitor.html

 藻類の研究開発、生産・製品開発メーカーだけでなく、生産設備メーカーも多く連ねた。課題は多いが、国際レベルの持続可能な社会、脱炭素の潮流は大きな追い風となっている。出口となるマーケットに向けて、歩調を合わせて、いかに効率的な培養・生産システムを作るかがカギとなりそうだ。