G&Bレポート,海洋の持続可能性

海洋の持続可能性問題、対策の実行へ ~the Virtual Ocean DialoguesやJBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)等から(2021.8.6)

 2021年の日本の海の日は、東京オリンピック開催に絡み、7月22日となった。その日を挟み、コロナ禍の中ではあったが、日本国内全国各地では海に関連する様々のイベントが開催された。その様子は、「海と日本PROJECT」サイトで紹介されている。東京オリンピックやコロナウィルス感染を巡る報道が主軸になっているが、海は我々の生活と密接に結びついており、一方、プラスチックごみ問題、地球温暖化、気候変動の問題とも関係している。このPROJECTは、海で進行している環境の悪化などの現状を、子供たちをはじめ全国の人たちが「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、日本財団、総合海洋政策本部、国土交通省の旗振りのもと、オールジャパンで推進しているプロジェクトである。

https://uminohi.jp/

 国際レベルでは、the Virtual Ocean Dialogues(バーチャル・オーシャン会合)が、5月25~26日、World Economic Forum(世界経済フォーラム)、同フォーラムが主催するFriends of Ocean Action(フレンズ・オブ・オーシャン・アクション)の共催で開催された。この会合は海洋と地球環境を向上させるための行動を迅速に進めることを目指す、政府関係者、ビジネス界のリーダー、市民、科学者が集まってのオンライングローバルサミットだ。気候変動への対応において、海の重要性、海の生物多様性を守るための解決策、海洋科学をいかに主流化するか、海洋から持続可能な食料供給を確保する方法などのセッションが行われ、まとめとして、Ocean Declaration to Fast-Track Ocean Health in 2021が発表された。

 その中では、2021年を海洋にとって重要な年と位置づけ、海洋の保護のための緊急の行動を呼びかけ、夏以降開催されるBBNJ(国家管轄圏海域外の海洋生物多様性政府間会議)、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)、CBD COP15(生物多様性条約第15回締約国会議)などの主要な国際会議などで議論を推進していくとしたOcean Super Year Declarationに、世界の多くの指導者たちは署名した。
https://www.weforum.org/press/2021/05/ocean-declaration-to-fast-track-ocean-health-in-2021

 世界経済フォーラムは、世界官民両セクターの協力を通じて世界の現状の改善に取り組むことを目的とする国際機関であるが、このフォーラムの海洋プロジェクトであるフレンズ・オブ・オーシャン・アクションは、海洋が直面している喫緊の課題の解決を急ぐ、65人のグローバルリーダーによる連合体で、ビジネス界、市民社会、国際機関、科学技術者などから構成されている。そして、このディレクターである Kristian Teleki氏は会合の中で「健全かつ強靭な海洋の実現に向け、解決策を導き出すことが急務となっている。この会合は、気候変動への対応、世界の食料システムの支援、健全な自然界の再構築において、海洋が果たす役割を改めて認識する機会となる」と語った。

https://www.weforum.org/friends-of-ocean-action

 また、この会合の中で、同アクションのフィジー出身のメンバー、国連事務総長の海洋特使兼共同議長のPeter Thomson氏は下記のように述べている。
 COP26は、気候変動の緩和と適応に対する海洋の貢献を強化し、気候変動関連資金を割り当てる絶好の機会である。また、UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の協議は、海洋問題を中心に据えることで締結国の団結を高め、各国の気候戦略に海洋関連対策を盛り込み、実行に移す力になるだろう。詳細な海洋の課題に関しては、下記の点について、言及している。

●海洋の温暖化
 地球の気候は、海洋の水循環、海流、生物体ポンプシステムなどによって調整されている。海洋はCO2の年間大気排出量の約23%を吸収しており、これまでにGHGによる過剰な熱の90%超を吸収している。そして、地球の大気の熱と同量の熱が、海面から数メートル下までの表層に蓄積されている。気候問題において海洋のこうした能力には限界がある。 
 2020年には、80%以上の海洋域において、海洋熱波が1回は発生しており、現在水深1,000メートル地点においても海洋温暖化が観測されている。多くの閾値や臨界点が明らかになり、海洋の生物多様性と生態系に対して、悪影響を及ぼしている。

●海洋の酸性化と脱酸素化
 CO2の過剰排出により、海洋の酸性化が地球史上最速のペースで進んでいる。多くの海洋生態系や海洋生物種にとってこのような急速な変化に適応するのは極めて困難であり、サンゴ礁の存続は海洋温暖化と海洋酸性化が重なって脅かされている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告では、地球温暖化による気温上昇を1.5℃に抑えても、熱帯サンゴ礁は最大90%消滅すると予測されている。また、海洋では酸性化と同様に、脱酸素化、海流循環の変化、海氷の急速な融解が拡大しており、海洋生物は熱帯地域から移動している。また海面温度上昇により、熱帯低気圧の頻発とその強度が増大、海面レベルの上昇などが進行している。IPCCの「海洋・雪氷圏特別報告書」では、海面上昇はかつてない速度で加速しており、2100年までに2m上昇する可能性があると指摘されている。

http://www.env.go.jp/earth/ipcc/special_reports/srocc_overview.pdf

●ブルーカーボン生態系
 マングローブ、海草藻場、塩性湿地などの海洋生態系と、陸生森林の面積当たりのC02吸収効率を比較すると、前者は後者の数倍にも達する。海洋生態系がCO2を大量吸収する一方で、人間の活動は沿岸生息環境を驚くべき速度で破壊している。このようなブルーカーボンの保護は、気候変動、海洋問題両方への取り組みにおいて最優先されなければならない課題だ。海洋ブルーカーボン生態系の保全と修復への合意がCOP26には必要である。海洋については未知の部分が多いが、海洋は地球最大のカーボンシンク(炭素吸収資源)であり、海洋の自然環境の保護が喫緊の課題である。

●海洋生物多様性
 CO2排出量を削減することは不可欠だが、大気中や海洋の過剰炭素を今後も低減しなければならない。そのための最善策は、自然を活用することだが、現状では、計画を実行するためには豊かな自然は不足している。地球の自然環境を広範囲に保全し、元の状態に戻す必要がある。
 中国の昆明で10月開催予定のCBD COP15(生物多様性条約第15回締約国会議)で採択が予想される「ポスト2020生物多様性枠組」には、2030年までに海洋の30%を保護するという目標(「30 x 30」目標)の採択が見込まれている。一方、2021年8月開催予定のBBNJ (国家管轄圏海域外の海洋生物多様性政府間会議)では、海洋保護地域システム確立に向けた、十分な対策が合意されることが期待されている。

 日本国内での海洋の地球環境問題、海洋生態系に関する動きについては、国際的な動向をにらみながら2019年からの国土交通省港湾局を事務局として国レベルの取り組みの検討を経て、2020年7月、日本初となるブルーカーボンに関する試験研究を行う技術研究組合「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」(JBE)(神奈川県横須賀市)の設立を国土交通省は認可し、次のような事業活動を主要な柱として設立された。企業、自治体、NGOやNPOをはじめ、各法人や各団体の皆様と対等な立場で、異業種連携で調査研究を推進することを目的としている。

●沿岸域における環境価値の定量的評価に関する試験研究
●沿岸域における環境価値の創造と増殖に関する試験研究
●社会的コンセンサスの形成に関する試験研究
●新たな資金メカニズムの導入に関する試験研究
●試験研究の成果の管理
●各種技術指導
●環境に関する試験・研究・指導、市場調査・分析、コンサルティング、講演会・研修会・セミナーの開催

 
 2021年3月18日、JBEは、国交省と連携し、沿岸域の藻場・浅場などの沿岸生態系が吸収したCO2「ブルーカーボン」を対象に、カーボン・オフセット制度の試行を実施した。発行した「Jブルークレジット」を活用し、住友商事(東京都千代田区)、東京ガス(東京都港区)、セブン‐イレブン・ジャパン(東京都千代田区)がオフセットを実施した。
 JBEは、ブルーカーボン生態系のCO2吸収源としての役割、沿岸域・海洋における気候変動緩和と気候変動適応へ向けた取り組みを加速すべく、新たなクレジットとして「Jブルークレジット」の審査認証・発行へ向けた制度設計等に関する研究開発を進めてきた。そういった中、横浜市漁業協同組合、NPO法人海辺つくり研究会、金沢八景-東京湾アマモ場再生会議の三者が横浜港(横浜市金沢区)で実施した、「多様な主体が連携した横浜港における藻場づくり活動」が、JBEが設置した第三者機関による現地確認・審査認証を経て「J ブルークレジット」として認証された。

 海洋の地球環境問題の専門家による、国際的な議論においては、海洋の自然環境保護の気運を高め、注力する方向であるが、Blue COPとなったCOP25の流れを受けて、COP26において、どういった枠組みや仕組みがまとまっていくのか、注目である。また、日本においても、ブルーカーボンによる吸収量が、地球温暖化対策計画に基づくインベントリに登録されるには、国際的な枠組みがどのようになっていくかにもよると思われ、また具体的な手法の検討段階であるという。ブルーカーボン・オフセット制度について国内の排出量取引制度として組み入れを検討する考えもあるようだ。日本は、漁業や海草など海洋生物の食料利用はひとつの産業を形成しており、国際的な海洋の持続可能性議論の中で社会実装をどのように進めるか今後の動きに注目である。

 

※関連情報―G&Bレポートから

Blue COPは次なる章へ 海洋資源活用の温暖化対策「横浜ブルーカーボン事業」 (2020.5.30)

ブルーカーボン生態系 海洋の地球温暖化対策 動き始める COP25は’Blue COP’に (2019.10.9)

2021-08-06 | Posted in G&Bレポート, 海洋の持続可能性 |