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Blue COPは次なる章へ 海洋資源活用の温暖化対策「横浜ブルーカーボン事業」 (2020.5.30)

 ロイター共同通信によると、国連は5月28日、2020年11月に開催予定だったCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議について、新型コロナウイルスの感染拡大を理由にほぼ1年延期し、2021年11月1~12日に開催すると発表した。開催地は英グラスゴーで変わらない。COPは毎年11~12月に開かれていたが、延期が4月に決まり、日程を調整していた。COP26の議長を務めるシャルマ英ビジネス相は、延期によって、温暖化対策を優先した経済再建のための時間が増えたと強調した。発展途上国からは、新型コロナウィルスを理由に気候変動への取り組みを先送りすることなく、景気回復のもとで再生可能エネルギーなどの活用を推し進めるべきだとの声が挙がった。COP26は、本格運用の始まったパリ協定の運用状況の確認、COP25の積み残し課題の決着をつける場であった。温暖化ガス排出量の削減で各国政府がより積極的な取り組みを示せるかどうかを試す場になるとみられていた。

https://ukcop26.org


(ロイター共同通信) 

 2019年12月、“Blue COP”と名付けられたCOP25がチリのサンティアゴに代わってスペインのマドリードで開催された。このうちパリ協定の実施指針の市場メカニズムの一部の課題については合意が図れず、次回に持ち越し。また、パリ協定の1.5~2℃未満目標に対し明確な文言で各国に行動強化を要請することには至らず、閉幕した。米国のパリ協定離脱、スウェーデンの16歳少女グレタ・トゥンベリさんの活動や日本の石炭火力発電所建設に対する2回目の化石賞受賞などが話題となったが、明快な合意ができたといえない苦しい結果であった。200近い数の国が集まる国際交渉の場は、数か国が反対しただけで合意が成立できない。今後は、自治体や産業界、市民といった国以外の意識の高いメンバーの自律的な動きが重要だということもグレタ・トゥンベリさんの活動が示していた。世界の情報は誰でも取得できる時代となり、何をすべきか、自らで判断し、行動する時代に移行しているともいえる。
 “Blue COP”COP25は、市場メカニズム合意などにおいては苦しんだが、統括したチリの環境大臣カロライナシュミット氏は、海洋と気候変動の関連性を強く訴え、今後の行動を明確にするために推進した。UNFCCC(国連気候変動枠組条約)は、海洋を炭素吸収源として言及、パリ協定は、海洋生態系を含む生態系を保護することの重要性を認めているが、協定の1つの柱として海洋と気候変動の関係性は明確に示されてはこなかった。2015年のCOP21で発足した海洋イニシアチブ(現在39か国署名)の事務局は、2019年10月にNDC (Nationally Determined Contribution)への組み込みも意図して”Ocean for Climate” を発表し望んだ。


 https://www.becausetheocean.org/wp-content/uploads/2019/10/Ocean_for_Climate_Because_the_Ocean.pdf
 「人工的な熱、排出するCO2により、海洋温度は上昇している。CO2濃度の増加により海はより酸性になり、極氷と氷河の融解により海面が上昇。海洋が影響を及ぼした異常な気候現象が人間、海洋生物、および生息環境に影響を与えている。海洋生物の種の30%以上が生息するサンゴ礁は、極度のストレス下にあり、脅威を受けている」とカロライナシュミット氏は、意義を訴えた。会場では、多くの海洋に関するIPCC特別報告や気候非常事態に関連するイベントや、イニシアティブや研究成果の発表などが行われ、米国政府はパリ協定からの撤退を表明したがカリフォルニア州、オレゴン州なども参加。特にUNFCCC策定における海洋問題の統合は、モナコ、コスタリカ、インドネシア、ノルウェーなどが率いるfriends of the oceansグループがサポートした。COP25の海洋関連問題の決定事項として、海洋と気候変動問題に関して有志国・自治体・団体などの会合を開催し、最新の知見をもとに、ブルーカーボン生態系の保護や輸送のCO2排出量の削減など、海洋の気候変動対策を検討し、COP26への提言をまとめることとなった。

※ブルーカーボン生態系については、下記を参照
https://greenproduction.co.jp/archives/530
※海洋酸性化については、下記を参照
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/db/mar_env/knowledge/oa/oa_index.html


 

 2020年1月、第8回横浜ブルーカーボン・シンポジウムが横浜開港記念会館で開催された。横浜市は海洋資源を活用した温暖化対策プロジェクト「横浜ブルーカーボン事業」に、取り組んでおり、ブルーカーボンにおいては国内の先駆的な役割を担っている。シンポジウムでは、国土交通省 国土技術政策総合研究所 海洋環境・危機管理研究室長 岡田氏による「ブルーカーボンを含む沿岸域の環境価値の総合評価」講演、カーボン・クレジット創出者、オフセット実施者の取組が紹介された。
 講演では、沿岸域の環境価値を多面的に評価でき、管理にも活用できる手法、IMCES(Integrated valuation Method for Coastal Ecosystem Services)が紹介された。この手法は、沿岸で考えられる 食料供給、水質浄化、ブルーカーボンなどの温暖化抑制、観光・レクリエーションなど、10のサービスを定義、得点評価と経済評価を設定し、その価値をわかりやすく「見える化」した。詳しくは、下記書籍に解説されている。                    

http://www.seibutsukenkyusha.com/publications/books/engan_teiryo_HB.html

 横浜市の取り組みは、横浜ブルーカーボン事業と呼ばれる。「ブルーカーボン」と呼んでいるが、海洋の海草・海藻等によって吸収・固定される炭素、生態系の中の「ブルーカーボン」だけではなく、海洋におけるエネルギー等の利活用「ブルーリソース」と一体として温暖化対策を進めている。COPなどでも議論されているように海洋と気候変動、温暖化は複数の要素が関係している。ブルーリソースとは海を利用した取組による省エネ効果・CO2排出量 削減効果をそう呼んでいる。そして、これらによる海辺環境の魅力の向上を環境教育につなげている。

 

 もともと横浜市では、森林に注目したCO2対策は2007年頃から行なっていた。山梨県道志村の水源林を涵養することで森林のCO2の吸収を活かす展開をしてきた。「目の前の海で何かできないか」という問いに、2009年、国連環境報告書に盛り込まれたブルーカーボンに行き着いたという。

 スタートは、自然海岸がある八景島シーパラダイスの協力の元、子どもたちを集めてのワカメの苗付けと刈り取り体験。とったワカメは味噌汁にした。現在、横浜市の一般社団法人の里海イニシアティブでは昆布も作っており、「ブルーカーボン昆布」としてブランド化も検討中。使いたいという食品会社やレストランもあり、他の地域から仕入れる必要がなくなり、輸送時に排出されるCO2が削減できる。これらブルーカーボン、ブルーリソース両者を活用した、横浜市独自のカーボン・クレジット、オフセット制度を運用、2019年9月には、海の公園の公園管理区域内に生息するアマモによるブルーカーボン(12.3t-CO2)をクレジットとして国内初となる認証を行った。

<横浜ブルーカーボン・クレジット 2019年度の取組>

    団体等の名称  主なモニタリング指標 単位[t-CO2] 
(株)新日本海洋社  LNG消費量   147.32トン 143.3
重油消費量   209kl 

89.4

電気使用量   138kWh 
横浜市  アマモ場面積  7.78 ha  12.3
横浜市漁業協同組合  コンブ生育量    129.65トン 5.4
わかめ消費量  5.38トン 4.9
わかめ生育量  22.79トン 0.2
(株)横浜八景島  わかめ消費量  1.00トン 1.4
海水温、気温  1.0
特定非営利活動法人 海辺つくり研究会  わかめ消費量    0.85トン 1.0
日向市  アラメ場面積  0.19 ha  0.5
一般社団法人 里海イニシアティ ブ  コンブ育成量  6.38トン 0.2
                クレジット創出  合計  259.6

 これらを使い、同市で行われた2019ITU 世界トライアスロンシリーズ横浜大会や横浜FC「2019ECO パートナーDAY」の交通移動に伴い排出されたCO2などがオフセットされ、総量は120.3トンに及んだ。 

 同市の制度は、好循環サイクル、連携を推進しているのが大きな特徴だ。
同制度では、削減したCO2はクレジット化して、ほかの企業や自治体がオフセットすることができるが、クレジット申請者が受け取る対価の使途を「ブルーカーボン又は ブルーリソースによる温暖化対策、環境保全、環境啓発の活動に活用すること」としている。食やエネルギー、資源としての利用など豊かな海づくり活動の活性化がもたらされ、オフセット制度による好循環サイクルを形成することができる。
ブルーカーボン(アマモ、わかめ、コンブ、アラメ場)のクレジット認証を実施するほか、ブルーカーボンで連携する他自治体からの申請についてクレジット認証を実施している。宮崎県日向市をスタートに、2020年4月現在では、 岩手県久慈市、普代村、大阪府阪南市、青森県横浜町と連携している。
個人による航空機での移動に伴い排出される CO2のオフセットを実施している。

日向市のブルーカーボンクレジット(東ソー日向(株)の護岸部のアラメ場)

「地球環境問題、地方創生、海を巡る経済情勢などが変化する時代の中で、多くの地域の方、地域の企業に取り組んでいただけるように、力を尽くしていきたいですね。課題もいくつかあり一筋縄ではいきませんが、まず動くことですね」(横浜市温暖化対策統括本部 担当)
日本の海は、ほとんどの海域で漁業法による漁業権が設定されており、他にも多くの法律が絡んでいてすぐに簡単には進められる状態にはないという。洋上風力発電なども同様の課題を抱えるが、港湾エリアと漁業エリアなどで多くの人の理解、協力が必要だ。
日本には独特の海藻を食べる文化がある。ワカメや昆布を育ててCO2を吸収させて、そのまま食べてしまうと排泄によって、CO2が固定されずに排出される。森林を伐採して燃やすのと同じである。海藻を育てて地元で消費すると輸送のコストやCO2を削減できる。加えて海藻を育てることで海の生態系を守るという考え方の啓蒙が必要だ。
クレジット化するには認証が必要で、現在は、国内に正式な認証団体がなく自治体同士がお互いに認証しあっている。統一の認証団体ができれば、より広がるという。
 
 海洋は、国、地域によって接し方、利害も大きく異なる。森林問題などと違い、大国であっても利害が薄い場合があることも事実だが、ブルーカーボンを軸にした海洋の気候変動対策に世界は具体的に動き出した。新型コロナウィルスの影響で多くの国は健康被害、経済の痛手を負ったが、海洋と気候変動対策をどのように推進していくか、COP26、そして横浜ブルーカーボン事業の今後の展開に注目である。