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ブルーカーボン生態系 海洋の地球温暖化対策 動き始める COP25は’Blue COP’に (2019.10.9)
地球温暖化の進行、世界各国の対策実行が叫ばれる中、CO2の吸収源の新しい選択肢としてブルーカーボン生態系が世界的に注目されている。地球の約7割を占める海、海洋プラスチックごみ問題なども含め、実態がなかなか掴めなかった海洋の環境問題への対応が始まったといえそうだ。
ブルーカーボンとは海洋生態系に蓄積される炭素のこと、そうした作用を有する生態系を「ブルーカーボン生態系」と呼ぶ。国内では国レベルの取り組み方を検討するため、国土交通省港湾局を事務局として有識者及び関係省庁で構成する「地球温暖化防止に貢献するブルーカーボンの役割に関する検討会」が、2019年6月スタート、議論が始まった。
ブルーカーボンを巡る世界的な動きは、2009年、国連環境計画(UNEP)の報告書に新しい吸収源の選択肢として盛り込まれたところが起点だ。海洋生物の吸収の実態は明確ではなかったが、既に京都議定書で示された森林などの「グリーンカーボン」に対して「ブルーカーボン」と名づけられ、次の内容などが報告された。
●マングローブ林(mangroves)、塩性湿地(salt marshes)、 海草藻場(sea grasses)その他の沿岸及び海洋の生態系に貯留された炭素を意味するもので、CO2の吸収源である。
●海表面の0.2%にあたる沿岸域にて50%以上を吸収する。
●陸より海の方が多くの炭素を吸収し、1.5倍程度と推定する。
地球における炭素循環のイメージ(出典:「ブルーカーボン」(地人書館))
※沿岸浅海域の海底堆積物には毎年1.9億トンの炭素が貯留、速度は沿岸沖合域や外洋域より速い。
2013年にはIPCCも、湿地を温室効果ガスの吸収源として、効果を算定するガイドラインを発表、任意の適応が認められるようになった。2015年のパリ開催のCop21で採択された、2020年以降の新たな法的拘束力を持つ枠組みであるパリ協定の後、「自国が決定する貢献案」(INDC:Intended Nationally Determined Contributions)においてブルーカーボンあるいは浅海域生態系の活用について具体的に言及、あるいは活動を始めている国は、米国やオーストラリアなど約60カ国となっている。
「現在のところ、ブルーカーボンについては一部の国で算定が始まったところで、CO2吸収量としての寄与、貢献がまだ不明確であることから、それぞれの国の取り組みは温度差があります。」(みなと総合財団 調査研究部/ブルーカーボン研究会)
そういった一連の動きの中、2019年12月、チリにおいてCop25が開催される運びとなり、テーマは‘Blue Cop’と発表された。「今回のCopは、Chile’s ‘Blue Cop’ will push leaders to protect oceans to heal climate と発表されています。ブルーカーボンについても、国内議論と合わせ、どのような議論となるか注目しています」(同調査研究部/同研究会) →https://www.climatechangenews.com/2019/04/25/chiles-blue-cop-will-push-leaders-protect-oceans-heal-climate/
(注)国内で大規模デモが続くチリ政府は安全確保が難しいことからCOP25を開催できないと判断。国連気候変動枠組み条約事務局は、11月1日、COP25について、スペインのマドリードで開くと発表した。 →https://unfccc.int/cop25
国内の動きとして、日本は海岸線の総延長が世界6位、コンブやワカメ、アマモ類などの藻場が広範囲に渡って分布しており、ブルーカーボンの活用の効果は高いと期待される。2015年には独立行政法人港湾空港技術研究所などの共同研究グループが、日本沿岸のアマモなどの海草場で大気中のCO2が効率的に吸収される仕組みを世界で初めて報告した。さらに、2017年には専門家や関係団体などで構成されるブルーカーボン研究会(事務局:みなと総合研究財団、港湾空港総合技術センター)が設立され、2018年3月、日本における2030年の吸収量見込みの試算を行い発表した。(下図) 2019年6月、閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において、ブルーカーボンによる吸収源の可能性について言及、それを受けて国レベルの取り組み方の検討が始まった。
※海草藻場:静穏で浅い砂泥性の場によく発達する、アマモ類などの海草類で構成された場
※海藻藻場:岩礁において発達するガラモ、コンブ、アラメやワカメなどの海藻類で構成された場
※プランクトンや微細藻類はこれらの中には含まれない。
自治体や企業の動きとしては、横浜市は、海洋資源から温暖化対策をする横浜ブルーカーボン事業を始め、独自のカーボン・オフセット活動に取り組んでいる。トライアスロン大会で発生するCO2を、海の活用により相殺するブルーカーボンオフセットを2014年から世界で初めて社会実装をスタートさせている。福岡市は、「博多湾NEXT会議」と称した組織を設置し、博多湾におけるアマモ場の育成に取り組んでいる。
日本製鉄は、北海道などで鉄鋼の製造時に出た副産物スラグを使用した肥料による藻場の再生を図っている。また、2017年度には製鋼スラグで浚渫土にカルシア改質を行い、CO2の固定化能力を算出するなどブルーカーボンの基礎研究を進めている。「企業では、製鉄会社や電力会社が取り組んでいますが、スタートはブルーカーボンの視点からというよりも、スラグの活用を模索した結果の展開になっている事情はありますが、動きが少しずつでも広がることを期待しています」(同調査研究部/同研究会)
2019年9月、モナコで開催されたIPCCの総会は、地球温暖化が海面上昇や生態系にもたらす影響を予測した特別報告書を公表した。その中では、2100年、沿岸の湿地は海面上昇により、2~9割消失し、被害を抑えるため、沿岸部のインフラ整備などに投資が必要であるとした。地球温暖化対策として海洋を巡る動き、ブルーカーボンを巡る国際的な取り組みの枠組みがどのようになっていくかは、国内活動を推進する上でも重要な鍵となる。12月開催のCop25に注目したい。