G&Bレポート,藻類バイオマス
横河バイオフロンティア バイオマス事業、スマートセル事業を主軸に始動。サステナブルマテリアル展 注目した展示から(2021.7.15)
6月21日~23日、高機能素材Weekがインテックス大阪で開催され、その中でサステナブル材料を集めた第1回サステナブルマテリアル展が開催された。
横河バイオフロンティア(株)(東京都武蔵野市)は横河電機グループのバイオ分野の事業化を担い、横河電機(株)の100%子会社として、2021年1月に誕生した。横河バイオフロンティアは、サステナブルマテリアル展に出展し、セルロースナノファイバー、リグニンと日本初の微細藻類由来バイオスティミュラントを紹介した。横河電機グループの中で植物由来のバイオマス材料の製造と販売、それに関連するライセンス供与やコンサルティング事業などを展開、セルロースナノファイバーとリグニン(モノマー)を扱うバイオマス事業と微細藻類を扱うスマートセル事業を主軸として活動している。同社の事業フレームは次のような構成だ。
バイオマス事業の中のリグニンは、スイスのスタートアップ企業であるBloom Biorenewables SA (ブルームバイオリニューアブルズ 本社:スイス、マルリー市 以下、Bloom社)のバイオマスマテリアルの国内代理店として活動を開始。2020年8月に横河電機とBloom社が締結した出資および業務提携契約に基づき、石油化学製品の代替品に関心を持つ日本の化学、食品、化粧品、製薬業界の企業にBloom社製品を提案していく。提供するリグニンは、ポリマー、水溶性ポリマー、モノマー、オリゴマーと複数あるが、最大の特徴は、従来抽出するのが困難だったモノマーの形で提供できる点だ。用途に応じた選択もできる。
リグニンは、植物細胞壁を構成している陸上植物の主要構成成分の1つ。再生可能なフェノール化合物としては地上で最も多い化合物であるモノリグノールから構成されていて、石油から合成されているフェノール類を多く使用している化学製品、医薬品、プラスチック、インク、香料などの機能性化学品の主原料としての代替が期待されている。
しかし、リグニンを石油化学製品の代替品として使用するためには、リグニンをモノリグノールに分解する必要があるが、リグニンは多様かつ複雑な分子構造を持つため、これを商業規模で行うのは困難とされていた。
「Bloom社は、初めてリグニンをモノリグノールに高い収率で変換し工業用途とすることに成功しました。モノマーを軸に、香料、フレーバー(食品香料)、化粧品、医薬品などで使用されている化石資源由来の原料の代替を提案していきたいと考えています」と横河バイオフロンティア取締役の岡田氏は語る。
横河電機グループは、バイオエコノミー関連の事業基盤確立に向けて、このほかにも市場分析や市場開拓活動および先端バイオ関連技術の導入を迅速かつ積極的に行う目的で、子会社「ヨコガワ・イノベーション・スイス」を2020年6月に設立。子会社を設立したスイスのアルシュヴィル市は、欧州のバイオテクノロジーやライフサイエンス関連ビジネスの中心都市であるバーゼルに隣接しており、研究開発やパートナーシップ探索を推進し、研究テーマの発掘、オープンイノベーションの促進、および協業先の探索などを手掛けていくとの発表を行った。
硫酸エステル化セルロースナノファイバー「S-CNF」
バイオマス事業のセルロースナノファイバー(CNF)では100%植物由来の素材である硫酸エステル化セルロースナノファイバー「S-CNF」を提供する事業を6月に開始した。海外パートナーとの協業が主体のように見える同社の事業だが、「S-CNFは、横河バイオフロンティアが独自に開発した製品です。第一段階としてサンプル提供を開始、今後は商用生産にも着手し、化学・素材産業を中心とする企業向けに植物由来の多様性に優れた素材であるS-CNFを提供していきたいと考えています」(岡田氏)
CNFは、植物の主成分であるセルロースを加工した繊維状のバイオマス素材で、木材などから抽出し、繊維を細かくほぐすことで生産される。今回、同社がサンプル提供を開始したS-CNFは、一般的なセルロースナノファイバーの特徴に加え、ゲル状から乾燥させて粉末状にしても水分を与えることで物理的性質を再現できるという特徴がある。そのため、ゲル状に比べて体積と重量が100分の1程度になる粉末状にすれば輸送時や保管時のコスト抑制に大きく貢献することができる。また、この性質によって水分との配合比率も自由に変えることができるため、用途に合わせて素材の性質を変化させる柔軟な対応が可能だ。さらに、繊維をほぐす生産工程で必要なエネルギーが、一般的なCNFに比べ抑えられる試算となっており、製造コストの面でも大きな貢献が期待できるという。
スマートセル事業では、スペインのAlgaEnergy社(アルガエナジー)が開発した微細藻類由来のバイオスティミュラント「Panacea(パナケア)」の国内販売を6月に開始した。
バイオスティミュラントとは、農業用生物刺激剤。植物が本来もつ生命力を高めて耐寒性や耐暑性などの環境ストレス耐性を向上させ、成長を促進して品質を高める物質や微生物の総称だ。今回、横河バイオフロンティアが販売を開始する製品は、制御した条件下で育成された光合成型微細藻類を原料としており、大気中のCO2の削減にもつながる。異なる多種の微細藻類を組み合わせ、炭素、アミノ酸、抗酸化物質などの植物の成長に必要不可欠な主要養分が最適な割合で抽出されるよう配合されている。
農業では、成分が偏った肥料の過剰供給、植物の成長に必要となる微量な成分の不足などが農作物の品質や収量の低下につながる。水で薄めて土壌、種子、葉面に散布することでバランスの取れた栄養素を植物に提供するものだ。
横河電機グループのバイオ関連事業は2018年に大きく進展した。同年、長期経営構想の注力分野にバイオエコノミー分野を掲げ、ライフイノベーション事業本部を設立。微細藻類の生産と活用に強みをもつバイオ関連企業AlgaEnergy社(本社:スペイン、マドリード市)に横河電機が資本参加するとともに、戦略的パートナーシップ契約を締結した。
AlgaEnergy社は、微細藻類関連のバイオテクノロジー分野のパイオニアとして2007年に創業。スペイン南部に商業用生産設備を保有し、微細藻類を使った農業用の高効率バイオスティミュラント製品を世界に先駆けて2015年に発売、微細藻類の可能性を世界規模で活用することを目指している。
AlgaEnergy社のカディス市(スペイン)にある微細藻類の生産施設
世界的に著名な微生物学者であり、またAlgaEnergy社の科学担当役員でもあるセビリア大学のミゲル・ガルシア・ゲレロ教授は、40年以上にわたり微細藻類の研究を行ってきた。AlgaEnergy社は、その蓄積された幅広い知見を活用している。一方の横河電機は、工業プロセスのオートメーションに関連した先進技術とノウハウをもち、世界61か国に119社の関係会社を展開するグローバル企業。両社共通のビジョンのもと、研究開発、生産、マーケティング、販売の分野で協力して微細藻類に関わるバイオテクノロジーの分野で業界をリードしていくことを目指している。
紹介が前後してしまったが、計測・制御機器事業を主業とする企業がなぜバイオ関連事業の展開に至ったのか。 「最初からバイオ関連事業ありきではありませんでした。地球規模の課題となった持続可能な社会の実現にグループとして、事業としてどう取り組むかということから、具体的な事業、協業パートナーなどを検討してきました」(岡田氏)
横河電機は1915年の創立以来、創業の精神として「品質第一主義」、「パイオニア精神」とともに「社会への貢献」を重要視して成長してきた老舗企業である。近年、社会が大きく変化するなかで2015年にSDGsとパリ協定が採択されたことを受け、持続可能な社会の実現に向けた横河電機の取り組みが大きく加速。2017年にこれらの採択を踏まえて策定した2050年に向けて実現を目指す3つのサステナビリティ目標「Three goals(3つのゴール)」を発表。トップのコミットメントとして持続可能な社会実現に貢献していくことを宣言した。翌年発表した長期経営構想では、「Three goals」を事業活動の根幹に据え、事業活動を展開。世界有数の企業約200社のCEOが率いる組織「WBCSD: The World Business Council for Sustainable Development(持続可能な発展のための世界経済人会議)」の一員としても活動している。また、2020年にはESG投資の世界的な株式指標である「ダウ・ジョーンズ・サスティナビリティ・ワールド・インデックス(DJSI World)」の構成銘柄にも選定されるなど、ESG投資の観点でも注目が集まっている。Three goalsの内訳は「環境(気候変動への対応=Net-zero Emissions)」「社会(すべての人の豊かな生活=Well-being)」「経済(資源循環と効率化=Circular Economy)」の3つだ。事業を通じた貢献、自社基盤を通じた貢献の具体化が進められ、これらのコンセプトのもとで検討した結果、バイオ領域の検討が行われ、バイオ関連事業の柱がかたちづくられていったという。
横河電機グループの持続可能な社会実現への貢献というテーマのもと、バイオ関連事業に取り組む横河バイオフロンティア。今後の展開に注目である。