G&Bレポート

富山県射水市 「もみ殻循環プロジェクト」が推進するシリカテクノロジーで  新産業創出へ (2021.5.28)

 2021年3月3 日から5 日、東京ビッグサイトでは、スマートエネルギーWeekの中でバイオマス展が開催された。日本有機資源協会(JORA)のバイオマス産業都市推進協議会のブースエリアでは関係自治体、企業の展示やセミナーが行われた。富山県射水市(いみずし)による、「もみ殻シリカテクノロジー」-植物性非晶質シリカの大量生産-と題したセミナーは、籾殻バイオマスの利活用を大きく進化させた、都市鉱山ならぬ「田圃の鉱山」開発、工学技術を駆使したシリカマテリアルビジネス戦略であった。発表された富山県射水市産業経済部の竹内美樹氏は、3月末で射水市役所を定年退職となり、4月からは北陸テクノ(株)において引き続き、もみ殻循環プロジェクトに関わっている。取材、情報提供とともに、画像提供のご協力をいただきました。

バイオマス展でのセミナーと展示

 籾殻は、毎年日本国内で200万トン排出されるという。籾殻の成分は75%が炭水化物、20%がシリカである。シリカとは、ケイ素と酸素の化合物(SiO2)で、もみ殻の他、血管、毛髪などに含まれるミネラルとしても知られている。「籾殻に含まれるということは、お米栽培には必要な物質なのですが、籾殻をそのまま田圃に撒くことは現実的ではありません。非常に分解されにくい性質のため、籾殻を焼き「燻炭」にして圃場に戻す方法も利用されてきましたが、肥料的品質や効能は安定したものではありませんでした」(竹内氏)
 過去には、多くの農機メーカー等がエネルギー化や含有ケイ素の資源化による一獲千金を夢見て、研究に取り組んできた。しかし、エネルギー化に固執し高温で自燃させるとクリンカーと呼ばれる焼塊(鉱物質が半溶融状態で焼き固まった塊)が発生し燃焼反応を阻害する。また、シリカが結晶化し、水に溶けずその成分であるケイ酸を利用できない。「この2つの課題を同時に解決できずビジネス化を阻んでいました。近年では野焼きの制限や臭気等の問題により籾殻は廃棄が容易ではなく、農家にとっては費用のかかる重い廃棄物になっておりました」(竹内氏)

 

 射水市は富山県の西部に位置する。北部は低湿な平野で水田が多く、南部はなだらかな丘陵地が広がる。もみ殻循環プロジェクトは地域内で毎年 3,000 トンも排出されるもみ殻をベースにして、行政・JA・大学・企業の連携で行われている。もみ殻循環プロジェクトチームの2021年度の構成は、下記のようになっており、事務局は射水市役所農林水産課内におかれている。

●肥料分野
 いみず野農業協同組合: プラント運転・灰の製造
 元(独)農研機構 中央農研土壌管理研究室長 伊藤純雄氏: 研究指導・評価・製品分析
●工業分野
 早稲田大学理工学術院: 試験計画、ナノシリカ分析評価、製品開発、製造試験、製品評価
 京都工藝繊維大学: 材料工学、製品開発、製品評価
 小山工業高等専門学校: 燃焼工学、化学工学、燃焼評価、炉体構造評価
●産業化マネージメント、基礎技術分野
 (一社)日本有機資源協会: 研究監理・指導
 倉敷紡績㈱: もみ殻シリカ新素材開発
 北陸テクノ㈱: 設備設計・製造
 NSIC㈱: 広報・販路開発・知財マネージメント
 ウッドプラスチックテクノロジー㈱: 用途開発、資材販売
 射水市: 事務局

 もみ殻循環プロジェクトチームは、 産学官民による研究開発を通じて、非晶質シリカ灰を抽出する、産業化基盤となるリサイクル技術を産み出した。その有効活用、商品化などを含めた下記を柱として、農工連携の新産業創出を図る考えだ。
1)コントロールされた燃焼による残渣の発生しない籾殻非晶質シリカ灰の創出
2)非晶質シリカ灰、排熱も含めた有効活用による資源循環型農業の実現
3)籾殻燃焼炉の開発・実用化
4)高性能肥料、工業用製品、植物性シリカの開発、製造、販売等
 ここにでてくる非晶質であるが、原子(または分子)が規則正しい空間的配置を持つ結晶をつくらずに集合した固体状態のことで、ゴムやガラスなどがその例にあたる。古くから、結晶質シリカ(石英)の吸入による健康障害が知られているが、非晶質については報告はされていない。

もみ殻循環プロジェクト概要

 同市は、2009 年にバイオマスタウン構想を公表、農業系未利用バイオマスの利活用として、籾殻・稲わらを原料として燃焼させた後のシリカの抽出が、研究テーマとして掲げられた。2010 年に「もみ殻循環プロジェクトチーム」を結成し、籾殻の有効利用の技術開発、実用化の取組を産学官民の連携により進めてきた。その取り組みの中で、ブレイクスルーとなった開発は、地元の工業炉メーカーである北陸テクノによる、燃焼障害等を起こさないための燃焼温度や炉内圧力の調節など、きわめて難しい炉の温度コントロールノウハウを確立したことだ。

もみ殻処理炉 (JAいみず野)

 2014年、同市はバイオマス産業都市に認定された。全国初のもみ殻処理炉はJAいみず野のカントリーエレベーター横に、2018年5月に設置され、クリンカーを発生させることなく籾殻灰を生成することで、水稲をはじめとする農作物の土壌改良肥料として注目される非晶質シリカを抽出することが可能となった。 また、発生した熱を隣接する園芸ハウスの加温に活用し、いちご栽培を行うことも実現した。(下図)

 非晶質シリカ灰の用途は、肥料の他、工業製品、植物性シリカがあるが、同市では資源循環型農業を目指し、肥料を重点ターゲットとして実用化に取り組んでいる。同プロジェクトでは、研究者の各種実験により、籾殻灰がシリカの他にも作物に有効な栄養塩類を含んでいることや、割れ籾率の減少や、斑点米の減少など、従来の肥料と比べて高性能であることを分析・証明しており、より効果の高い肥料として販売できるようにするため、(独)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)と調整し、肥料の新たな公定規格の設定に向けて、手続きを進めている。

 こういった動きの中、追い風となったのが、2020年12月、肥料取締法の改正、施行だ。農林水産省では産業副産物資源の有効活用、農家ニーズに応じた新たな肥料の生産・利用というテーマのもと、法律の名称も「肥料の品質確保に関する法律」とし、肥料配合に関する規制の見直し、肥料の原料管理制度の導入、肥料の表示基準の整備などを行った。

https://www.maff.go.jp/j/syouan/nouan/kome/k_hiryo/seidominaoshi.html#zentai

 「今までは、肥料規格になかった「籾殻シリカ灰」を法律改正により規格を設定し、籾殻シリカの効能を肥料としての利用できるよう進めてきましたが、本改正により、申請のみで「籾殻シリカ灰」を使用した肥料の登録ができるようになりました」(竹内氏)
 登録に際して懸念されたことは、籾殻を焼けば誰でも、ひとまずもみ殻灰を製造できることから、肥料原料として肥効がない粗悪なものが登録ライセンスを持った商品として流通することであったという。「農林水産省と協議を行い、第一にはシリカが非晶質であるものでなければ取り扱いできないこととすることをお願いしています。シリカが結晶化している場合はアスベストと同様に人体に悪影響を及ぼす可能性があるからです。第二に、シリカ活性の問題ですが、非晶質であっても、中には製造方法により活性が低くなって溶けにくい、植物が吸収しづらいシリカが存在します。肥料化する場合はやはり植物体が吸収できるもので、収量や草丈、植物体の健康状態等に良い影響や効果がある高活性なシリカであることが重要であることも併せて説明しております」(竹内氏)
 2021年12月には、改正された法律に基づく省令の要綱・要領の整備が終わり、申請の受付が始まる予定という。改正されれば、その他、バイオマスを原料とするものも可能となる。2021年、夏以降に、改正法の具体的な検査方法や判定に際の評価方法が公示される予定だ。

 平行して進めている分野が、次世代コンクリートとして注目されるジオポリマーコンクリート等の工業製品分野、植物性シリカとしての利用だ。ジオポリマーコンクリートは、セメントと性質がよく似ているが構造が全く異なるもので、高い耐久性や耐塩害性などがあることから、次世代の高機能建設材料として関心が高まっている。また、産業副産物の大量消費、CO2発生量の削減等が可能となるため、環境問題解決の有力手段として期待されている。   

ジオポリマーPCまくらぎ(公益財団法人 鉄道総合技術研究所)

https://www.rtri.or.jp/rd/division/rd49/rd4910/rd49100114.html

 また、ケイ素には、生体の再生・構築・補強・維持を手助けすること、不要物質の吸着排出、抗菌、抗ウィルスの作用も報告されており、鉱物性の非晶質シリカを用いて、化粧品や健康食品、薬の錠剤などが作られてきたが、籾殻の非晶質シリカは植物性であり、もみ殻由来の資材として同様な使用が可能だ。五洲薬品(株)(富山市)は籾殻由来の非晶質シリカを利用した「穂がらかスキンケアジェル」を2021年1月発売した。

穂がらかスキンケアジェル (五洲薬品)

 「最近は籾殻非晶質シリカ灰の用途についての問い合わせが非常に多くなっており、肥料化のほか化成品資材、吸着材、ろ過材、飼料、コスメ用等への利用に興味が示されています。また、加工や変換に有意な、カーボンレス高活性シリカ灰の製造に着手中です。現在販売されている、99%含有高純度の籾殻シリカパウダー等は酸洗浄や煮沸処理により、吸熱バッヂ処理(電気炉等での焼成)されることから少量生産となってしまい高価です。高品質でありながら低価格で販売流通できる非晶質シリカ灰の生産を検討しています」(竹内氏)

 循環型社会実現、脱炭素、地方創成などの風を背景に、もみ殻循環プロジェクトチームの今後の動きに注目したい。

2021-05-26 | Posted in G&Bレポート |