G&Bレポート,海洋の持続可能性

経産省 海洋生分解性プラのロードマップ策定、カネカは資生堂と容器共同開発(2019.5.28)

 海洋プラスチックごみ問題を巡り、官民の動きが活発になってきた。特に6月G20サミットにおいて議長国となる日本。国際枠組みの構築ができるか。その流れを受けて海洋性分解性プラスチックの国際標準規格をリードできるか。そういった動きを睨み、企業も動き出している。

 経済産業省は海洋プラスチックごみ問題の解決に向け、イノベーションを通じた取組として、「海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及を図るための主な課題と対策を取りまとめたロードマップ」を策定した。官民一体で連携し、海洋生分解性プラスチックの開発・導入普及を促進していくため、海洋生分解性機能に係る新技術・素材の開発段階に応じて、技術課題だけでなく経済面や制度面にも及んでいる。基本的には、廃棄物の適切な管理が何より重要であることを前提に、3R (リユース、リデュース、リサイクル)の着実な推進を行い、それでもなお廃棄物が 海洋流出するリスクに対応していくため、新素材・代替素材の技術開発を促進する等、イノベーションによる解決で世界への貢献を目指す。

 今年6月のG20サミットでは、日本が議長国として、海洋プラスチックごみ問題を主要議題に取り上げ、各国による実効的な対策を促す国際枠組の構築を目指す。今年2月から内閣官房の下に「海洋プラスチックごみ対策の推進に関する関係 府省会議」が設置、議論が進んでおり、6月のG20サミットまでに、日本国政府としての具体的な取組を取りまとめた「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン(仮称)」も策定する予定だ。

(経済産業省ホームページより)

 洋生分解性プラスチックは新分野であるだけに普及と導入に向けた課題と対策は多岐に渡るが、国内市場だけでなく、国際市場をリードしていきたい考えだ。

技術評価手法の確立し、国際標準の提案へ

 生分解性プラスチックに係るISO策定の中核支援機関である産業技術総合研究所及び日本バイオプラスチック協会(JBPA)を中心に国内企業とのオールジャパンの策定体制を2019年夏までに構築し、海洋生分解性プラスチックが水とCO2に完全に生分解されることや、生分解途中に生成される中間体を含めた安全性を評価する新たな評価法を開発し、海洋生分解性プラスチックに対する科学的根拠に基づく共通の技術評価手法を2020年代初頭目処にISOへ提案する。

規格・標準化、分別回収・処理などの国内体制の整備

 現時点では国内の公的な団体規格等についても未だ存在せず、プラスチックの生分解性試験を実施する試験所の信頼性を確保する体制も確立されていない。また、生分解性プラスチックは分解しやすい性質の反面、再生樹脂として再利用は不向きであるため、現行のリサイクルシステムに影響を与える可能性がある。策定されたISOを踏まえ、日本バイオプラスチック協会(JBPA)等による識別表示制度を整備、構築していく。

 こういった動きを睨み、企業でも参入、取り組み強化、商品開発などが進む。

GSIクレオスは、イタリアの大手生分解性プラスチックメーカーのノバモント社と日本国内の代理店契約を締結、国内輸入販売権を持っていたケミテックの事業を継承し、デンプン・植物油等から製造する生分解性プラスチック「マタービー」の 販売を開始した。(2018年10月)

稲畑産業は、米国のバイオプラスチックメーカーのBiologiQ社が開発した生分解性バイオマスプラスチック「NuPlastiQ」のコンパウンド加工や加工品の販売を開始すると発表した。同製品は、ジャガイモ加工工場の廃棄物から抽出したデンプンが主原料。(2018年10月)

日本コーンスターチはとうもろこしデンプンをベースにしたバイオマス由来の生分解性プラスチックの共同研究を米国ミシガン州立大学と開始した。(2018年11月)

 5mm以下の固形プラスチック粒子で、角質除去または洗浄目的で使われるマイクロビーズが、米国の「マイクロビーズ除去海域法」などを始め、世界で規制の動きがでているが、同社は代替品として利用できるとうもろこしデンプンから作った化粧品用「パールスターチ」を発売、展開する。

(CITE JAPAN 2019の展示から)

蝶理グループのミヤコ化学は石油由来生分解性プラスチック(PBS,PBAT)の販売を開始。(2018年11月)

自然環境、特に海洋におけるプラスチック廃棄物を削減および除去するソリューションを前進させるため、世界的なアライアンス「Alliance to End Plastic Waste」(AEPW)が設立された。AEPWは、今後5年間で約15億米ドルを投じて自然環境中のプラスチック廃棄物をなくすことを目標としている。(日本企業は、三菱ケミカル、三井化学、住友化学が参加)(2019年1月)

ユニチカは、一定の柔軟性と剛性、及び加工性を併せ持つ生分解性バイオマスプラスチック「テラマック」のストロー向けグレードを開発した。もともとの「硬い・脆い」といった性質を、柔軟成分のポリマー及び無機フィラー等を適量付与した。(2019年3月)

福助工業は、海水中で水とCO2に生分解するプラスチックフィルム開発に取り組み始めたと発信した。(2019年3月)

カネカは資生堂と「カネカ生分解性ポリマーPHBH」を用いた化粧品容器を、またセブン&アイ・ホールディングスと同PHBHを用いた製品の共同開発を発表した。同PHBHは100%植物由来のプラスチックで、海水中で生分解する国際的認証「OK Biodegradable MARINE」を2017年に取得している。(2019年4月)

大八化学工業は、生分解性プラスチック用可塑剤「DAIFATTY-101」が、可塑剤自体も生分解する機能を有する、国際的認証「OK Biodegradable WATER」(淡水中生分解性機能)などを取得した。(2019年4月)

三菱ケミカルは、同社の生分解性プラスチック「BioPBS」を用いたストローが、京急電鉄の運営施設で、またワシントンホテルの飲食店等の施設において、既存のストローから切り替わったと発表した。「BioPBS」は、タイのPTT Global Chemical社と折半出資するPTT MCC Biochem社 (タイ・バンコク市)が製造する植物由来の生分解性プラスチック。(2019年3月、5月)

(ワシントンホテルで採用されたストロー)

 海洋生分解性プラスチックは、現時点では特殊な高い機能のもったプラスチックといえる。普及途上ではけっして安価なものではないだろう。また、プラスチック製品のすべてが海中に行くわけではない。除去なども含め、海中に行くリスクの高い製品や地域にどのような導入のシナリオを作り、海洋生分解性プラスチックの実効性を高め、海洋プラスチックごみの削減を進めていくか。人々の環境意識のアップにつなげていくか。世界レベルの海洋プラスチックごみ対策戦略がどのようにまとまっていくか注目だ。

 

2019-05-29 | Posted in G&Bレポート, 海洋の持続可能性 |