G&Bレポート,藻類バイオマス

藻類バイオマス、期待される産業化  ISAP2020<延期にて2021年5月>日本開催(2019.6.26)

 ISAP2020(第7回国際応用藻類学会)が、2020年4月、幕張メッセで開催される。ISAP(International Society for Applied Phycology)は、1999年設立の藻類研究をテーマとした世界最大規模の学会。2002年のスペインでの第1回大会開催に始まり、3年ごとに世界各地で開催されているが、日本で初めて、またアジアでも初開催される。

●主催者:ISAP2020 日本開催組織委員会
(一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム,国立大学法人筑波大学,株式会社ユーグレナで構成)
●開催時期:2020年4月20日~24日(5日間)
●開催場所:千葉市・幕張メッセ
●参加者:約500名(うち海外参加者約400名)
●学会概要:藻類の研究発表、技術情報の交換                    

(注1)2020.3.19 同学会は、COVID-19の影響により延期、2021年5月23日~28日、つくば国際会議場で開催すると発表された。

(注2)2020.9.1 同学会は、COVID-19の影響により、オンラインで開催すると発表された。

詳しくは→https://isap2020-phycology.org/

(同コンソーシアムの南相馬藻類バイオマス生産開発拠点の藻類培養池)

 主催者は日本の藻類バイオマスの研究開発、産業育成、事業を推進する次の3組織だ。
●藻類産業創成コンソーシアムは、藻類産業の創成に寄与し、政府の進める低炭素社会の実現に貢献するため、2010年6月に設立、2013年4月に一般社団法人に移行。藻類の産業利用等の技術開発課題の探索、国内外の調査および情報の収集や提供、そして会員企業が参画する研究開発等の活動を通して藻類産業の早期確立を目指す。
●筑波大学は藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター(ABES)を、学内に2015年7月、設立。約50名の多分野の教員からなる国内最大規模の藻類バイオマスのセンターには、6つの研究分野が設置され、基礎研究から実証研究及び産業応用までを一貫して推進する学際的な体制構築を目指す。
●ユーグレナは、2005 年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養技術の確立に成功。ユーグレナを活用した機能性食品、化粧品等の開発・販売を行うほか、バイオ燃料の生産に向けた研究を進める。

 藻類には海藻類なども含め、多くの系統があるが、その中の微細藻類は、一般的には水中に存在する顕微鏡サイズ(直径10ミクロン程度)の藻。その多くは植物と同様に太陽光を利用し、CO2を固定して炭水化物を合成する光合成を行い、代謝産物としてオイルなどの有用物質を生産する。

 微細藻類利用の取り組みは2006年ごろ、米国エネルギー省が大学、研究者、企業に呼びかけ、エネルギー利用を目指したプロジェクトをつくり、それがEUや日本などの世界に広がってきた。「多くの微細藻類は油をつくるのですが、その多くは脂肪酸です。しかし、ボトリオコッカスという微細藻類は、大変有能で炭化水素をつくります。生産物の純度も非常に高いため、燃料として適しているのですが、燃やすのがもったいないと、ワクチンや化粧品に利用されています。現在は、そういった様々な研究が進む中で、エネルギー分野だけでなく、健康食品、肥料、飼料、医薬品、化粧品、化学製品の代替など有用物質利用に広がっています」  (藻類産業創成コンソーシアム 井上理事長)

ボトリオコッカス(Botryococcus braunii)

 そもそも微細藻類バイオマスに世界の大学などの研究者、企業が注目する理由は次の点にある。
微細藻類によるオイルは、陸上植物由来のオイルに比べて、数十~数百倍と桁違いに生産効率が高い。航空機などの大型輸送には今後もエネルギー密度が電池に比べてはるかに大きな液体燃料が不可欠といわれるが、再生可能エネルギーの中で液体燃料を供給することができるのはバイオマスに限られる。
食料利用との競合もなく、アブラヤシなどのように、森林や生態系破壊などの問題もなく、耕作地を必要としない。
微細藻類は下水排水の処理として下水・排水含有有機物を培養に利用ができ、有機物窒素・リンの循環を支えることが可能である。

 日本国内での研究開発は、大学では筑波大学が主軸となっている。企業ではユーグレナが横浜市や三重県多気町で、デンソーは熊本県天草市で、IHIは鹿児島市やタイで、大規模実証施設を作り取り組む。同コンソーシアムとしては福島県南相馬市に福島県次世代再生可能エネルギー技術開発事業で構築した生産開発拠点をもち取り組む。「藻類の産業創成には、基礎的な生物学から、プラント規模での培養、濃縮、収穫、精製などの技術開発、さらに抽出オイルの用途開発まで、多くの広い分野の知見と技術の融合、統合が必要です。米国が先行してきた研究開発ですが、日本の各分野の研究開発レベルはトップクラスにあると自負しています」(井上理事長)

 ここ数年、世界中で藻類の研究開発の取り組みが加速、米国では飼料利用を有望なマーケットとして研究開発が進みつつあるという。技術が熟していけば、下水処理施設などと合体した藻類バイオマスコンビナートの構築も夢ではないという。大きな可能性をもつ藻類バイオマス、企業がマーケットをどう創成するか、国家がエネルギー政策、農業・食料政策、環境政策などの中でどう位置づけるかでも発展の方向性は左右される。来年のISAP2020に大いに注目したい。

 

2019-06-27 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |