G&Bレポート

バイオマス発電用植物「ソルガム」プロジェクト。東京大学、出光興産、日本郵船による共同研究動向 (2022.9.5)

 2021年11月、英国グラスゴーで開催されたCOP26では、気温上昇1.5度以内を目指し議論が行われたが、足並みを揃えて加速するには難しい実態を露呈した。そういった中で、100を超える国と地域の首脳や代表が、「森林と土地利用に関するグラスゴー首脳宣言」を発表した。これは、2030年までに森林減少を食い止めるために、各国が協力することを宣言したもので、森林保護の大きな流れが起こっている。今年2月に入り、ロシア・ウクライナ情勢により食料やエネルギーを巡る情勢が一転、多くの国がエネルギー危機、不安定状態に直面している。石炭などへの回帰も起こる中、カーボンニュートラルに向けた新たなバイオマス発電の実用化研究が進んでいる。

 COP26と同時期の11月、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科、出光興産㈱、日本郵船㈱の3者は、出光興産の操業する豪州クイーンズランド州エンシャム石炭鉱山の遊休地を活用して、石炭と混焼可能なバイオマス発電燃料用植物「ソルガム」の栽培試験に関する共同研究の実施について合意した。
 温室効果ガス(GHG)削減の観点から、今後石炭火力発電所において石炭とバイオマス燃料の混焼需要が高まることが予想され、3者はバイオマス燃料の原料としてイネ科の一年草植物であるソルガムに着目し、植生地の特性に合った最適品種の選定および栽培方法の確立に関する共同研究を実施するとした。品種の選定および栽培方法の確立には東京大学大学院農学生命科学研究科の持つゲノム育種技術・遺伝子解析・栽培技術知見などを活用する。

このたび、出光興産、日本郵船の関係の方々に、情報提供の機会をいただきました。御礼申し上げます。

(ソルガム)

 この3者共同プロジェクトの発端は、東京大学と研究検討を進めていた日本郵船が、別途2020年にエンシャムでソルガムの植生試験を進めていた出光興産に打診したことによる。

 出光興産でソルガム植生試験を主体となって進めていたのは、石炭・環境事業部グリーンエナジーペレットチームであるが、同部は、環境に調和した石炭事業の実現とお客様の様々な課題に対応する部門だ。石炭利用においては、CO2排出量削減に向けた取り組みが求められており、社内の専門研究部門である石炭・環境研究所とも連携し、バイオマス混焼等によるCO2排出量の削減に取り組んでいる。 
 同チームが現在検討しているブラックペレット(商品名:「出光グリーンエナジーペレット」)は、一般に普及している木質ペレットを蒸し焼きにした半炭化高カロリー燃料で、既存の石炭燃焼設備を改造することなく、そのまま石炭に混ぜて混焼使用することができる。また耐水性、粉砕性を有するため、既存の貯蔵設備が活用でき、最大で30%程度の石炭混焼試験を実施している。他のバイオマス燃料に比較して石炭との相性がよく、石炭に近いハンドリングが可能であることから、混焼比率をさらに高め、最終的には同ペレットのみの専焼の可能性も検討していく。同社は、ベトナムにおいて大型プラントの建設計画を推進しており、「Idemitsu Green Energy Vietnam Limited Company」も設立した。新プラントでは、現地で一般的なアカシアなどの端材や製材後の切れ端等を原料として進めている。

(ブラックペレット/出光興産 提供)

 同チームは、上記事業の新たな展開として2020年、出光興産の100%子会社である出光オーストラリアリソーシス(現:出光オーストラリア)を通じ、既存のエンシャム石炭鉱山(場所:クイーンズランド州)での資産(鉱山内遊休地、用役設備等)を活用して、石炭と混焼が可能なバイオマス発電燃料用植物「ソルガム」の植生試験を実施した。「オーストラリアのエンシャム鉱山では、この土地に合った植生を事前に調査した結果、草本系植物に着目し、ソルガムを生育しようということになりました」(出光興産グリーンエナジーペレットチーム)また、このプロジェクトは、当地が石炭の輸出基地に加え、バイオマス発電燃料の大規模商業輸出基地となる可能性があるとして、クイーンズランド州政府の補助事業にもなっている。

 東京大学は、ソルガム研究を行っていた大学院農学生命科学研究科、日本郵船は燃料炭グループが主体となって構成されている。日本郵船は3者共同プロジェクトの発足について「燃料炭グループは、石炭の安全輸送に長く取り組んできており、石炭を利用される多くのお客様との取引があります。脱炭素という国際的な流れへの対応は、皆様検討されていますが、弊社として、お客さまに何ができるかを追求し、石炭火力発電のGHG排出削減貢献に向けて具体的な対応策を提案していくために共同研究を打診することになりました」(日本郵船・燃料炭グループ燃料炭チーム)

 ここで、ソルガムについて詳しい情報を確認しておくと、イネ科の一年生草本系植物であり、C4植物で光合成速度が高く、約6mになるものもある。ソルガムの種類としてはおよそ4万の野生種があるという。日平均気温15℃以上が確保できれば、種蒔きから約3ヵ月で収穫できるため年間複数回の収穫が可能だ。現在は実の部分を中心に家畜飼料が主用途となっている。干ばつに強く高い環境適応能力を持つことから、限界耕作地でも生育が見込め、限界耕作地における栽培では食料用途との競合も発生しないと考えられている。米国農務省の資料によると、世界的には年間約60,000千トン生産されている。米国、ナイジェリアが主な生産地であるが、気候条件の合う、世界各地で栽培されている。

 今回の共同研究では、2020年から2021年の試験をさらに発展させ、事前に選定したソルガム17品種の栽培試験を実施し、従来に比べ高収量・高発熱量となる発電燃料に適した品種の選抜を行い、同地における効果的な栽培方法の確立を目指す。共同研究統括、栽培試験実施主体、評価・解析 研究の実施主体は東京大学が担う。出光興産はプロジェクトの全体管理、エンシャム鉱山での栽培サポート、日本郵船はプロジェクトの全体管理という役割である。

(出光興産、日本郵船 提供)

 「バイオマス燃料の場合、リグニン量が多いほど発熱量が高く、燃料としての性能は高くなります。また、植物はカリウムなどを含むため、燃焼時にクリンカーが発生するという課題もあります。品種間の違いも確認していきたいと考えております。また、今後のスケジュールについては、今年9月下旬より本試験栽培を開始する予定です。2023年中に研究結果をまとめ、2024年以降事業化などに向けた検討を実施していきたいと考えています。将来的には共同研究の成果を活用し、石炭火力混焼用、更には専焼用のバイオマス燃料の製造・輸送・販売といったサプライチェーンの構築を目指していきたいと考えております」(出光興産)

 COP26を契機として、森林破壊、生態系劣化を伴う生産事業に対し、逆風が強くなっている。そういった中で注目されているもののひとつが限界耕作地でも育成が見込め、早生な草本系バイオマスといえる。イーレックス㈱もベトナムにおいて、CO2 の吸収が迅速、品質改良により貧困な土地でも栽培可能、伐採を伴わないニューソルガムを用いたバイオマス燃料事業展開すると2021年11月、発表した。
 日本国内では、Jパワーが、発電用燃料用としてイネ科のエリアンサス(多年生)の試験栽培を、耕作放棄地などにおいてこの夏スタートした。今後の3者チームによるソルガムの研究展開、また国内外の各動きにも注目していきたい。

 そして、このたびの取材テーマとは別件であるが、車、航空機に続いて、持続可能な航行燃料について、バイオ燃料を含めて活発な議論や調査、試行が始まった。どのような展開になっていくか、こちらも注目していきたい。

2022-09-01 | Posted in G&Bレポート |