G&Bレポート
アルケマグループ、シンガポール等で高性能植物由来樹脂の生産拡大へ。関西・高機能素材Week2022 注目した展示から (2022.7.30)
2022年5月11日~13日、プラスチックジャパンやフィルムテックジャパンなどで構成された関西・高機能素材Week2022が大阪インテックスで開催された。また、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、海洋プラスチック問題対策としてのバイオマス、生分解性樹脂、リサイクル材料や製品などを集結した第2回サステナブルマテリアル展・関西も開催された。新型コロナウィルスの感染もピークを乗り越えたと思われる中、特にサステナブル分野の展示は、来場者の注目を集めていた。
■アルケマ㈱(東京都千代田区)
プラスチックジャパンに出展のアルケマ㈱は、非可食のトウゴマから採れるひまし油由来Rilsan® ポリアミド11を軸とする高性能ポリアミド製品群、同じくひまし油由来オレオケミカル製品Oleris®、リチウムイオン電池用フッ素系樹脂PVDFなどを展示、セミナーなどを行った。
主力製品のポリアミド11は、軽量、柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性や低吸水性をもつ。引張り強さと曲げ強さは多くの鋳造金属や合金に匹敵し、スマートフォンや小型情報機器端末、配管システムや医療用ツール類での金属代替、スポーツ用途等で採用が進んでいる。オレオケミカル製品はC7、C11、C18の材料を含み、化粧品、香料・香味料、潤滑剤、建設、および医薬品市場で採用されており、カーボンニュートラル、高純度、様々な規制への適合性などが特徴だ。
アルケマグループの本社・アルケマ(Arkema S.A.)は、2004年にフランスに本拠を置く石油メジャーのトタルが分離する形で設立された。パリ近郊のコロンブに本社はあり、世界50カ国以上で特殊化学・先端材料分野で競争力のある接着剤事業、先端材料事業、コーティングソリューション事業を展開しており、アルケマ㈱は日本法人となる。
また、同グループは東南アジア最大の化学・エネルギー産業の集積地であるシンガポール・ジュロン島において新しい生産拠点を建設しており、高性能植物由来オレオケミカル製品の生産を開始する予定だ。同社によれば、新型コロナウィルス感染拡大の影響で当初の予定が、2023年頃になるとの模様だが、この生産拠点が完成すると、生産能力が50%増強され、高性能ポリマーに特化した世界最大の総合バイオファクトリーになるという。また、シンガポール経済開発庁(EDB)は2021年11月に「サステナブル・ジュロン島」計画を発表、環境対応の研究開発やインフラ整備を急ピッチで進め、競争力強化をはかっている。 参考→https://www.edb.gov.sg/ja/newsroom/news-library/jurong-island-a-sustainable-industrial-center.html また、同グループは中国江蘇省常熟市の事業所でのポリアミド11の新生産も発表している。
専門技術セミナーでは、「植物由来から持続可能なスペシャリティ材料へ」というテーマで行われ、ひまし油由来の環境に有害な添加物を含んでいないポリアミド11を製造販売、2000年以降は植物由来としての用途開拓の展開が紹介された。サステナビリティや温暖化対策への関心の高まりを受け、持続的トウゴマ栽培への取り組みやリサイクルによるCO2削減等の取り組みも行っている。
特に持続的トウゴマ栽培については、同グループは、インドの農家1,000軒以上を支援する世界初の栽培プログラムをBASF社、ひまし油由来化学製品のパイオニアであるインド企業のJayant Agro-Organics社、国際NGO団体Solidaridadと共同で実施している。Pragatiプロジェクト(ヒンディー語で「進歩」及び「発育」)と呼ばれる活動は、トウゴマの持続的栽培の基盤を整備することを目的として2016年に発足。この活動は、トウゴマの持続的生産の基盤づくりを目指す「SuCCESS計画」(Sustainable Castor Caring for Environmental & Social Standards=持続可能なトウゴマ生産に向けた環境社会基準の確立)の一環として実施されたもので、トウゴマ生産の分野では過去に例のない取り組みとなっており、方針は次の内容だ。
●適切な農業手法を導入し収穫高と農家収入の向上を目指す
●水資源を効率的に利用し、土壌の肥沃度を維持する
●適切な廃棄物管理慣行の採用を推進する
●より良い健康と安全の実践を可能にし、人権を尊重する
トウゴマ農家の中から、農業技術の持続可能性向上に大きな貢献を果たした生産者グループの表彰式を行ったり、より持続可能な未来をテーマにした創作物コンテストで地域の高校生を表彰、顧客企業と共にトウゴマ奨学金を授与する活動も行っている。
■レッテンマイヤージャパン(東京都千代田区)
「ARBOCEL」のブランド名で展開する、プラスチック製品向け機能性セルロースファイバーをサステナブルマテリアル展で展示した。粉末セルロース、セルロースマイクロファイバー、セルロース顆粒、セルロース誘導体などがある。バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックへのバイオマスフィラーとして使用でき、剛性付与、意匠性付与、無機フィラーよりも軽く成形物の軽量化を実現できる。
CNF(セルロースナノファイバー)は、幅 3~100nm、長さ 100μm までのものとされているが、同社のセルロースファイバーは、木粉グレードのもので、平均粒子径は20~500μメートル、高純度・工業用セルロースの平均繊維径は18~35μメートル。
同社はドイツ・ローゼンベルグに本社を置くJSRグループの日本法人。JRSグループはセルロース、木材、穀物、果物等の植物などから作られる天然由来の繊維を医薬品、食品、飼料、その他各種産業の様々な用途利用に向け、生産、加工、開発を行っている。
■通用国際㈱(茨城県つくば市)
(展示ブースから)
通用国際㈱は、竹繊維を原料とした環境配慮型テーブルウェア製品を展示した。同社は、重慶瑞竹植物繊維製品有限公司の竹製品の日本輸入総代理店として、茨城県つくば市で食品事業も合わせて展開する。
重慶瑞竹植物繊維製品有限公司(中国・重慶市)は、上質な竹の育苗・栽培・竹繊維加工・竹繊維環境保護型食器及び高級工業包装などの製品の研究開発・生産と輸出を一体化した農業産業分野の重慶市リーディング企業であり、重慶市工業投資、中国中央政府投資重点工業プロジェクトにもなっている。製品は「中国食品包装新製品賞」を受賞した。
竹の繊維からつくられた、ナチュラルな風合いの食品容器は、耐水・耐油性に優れ、電子レンジも使用可能。物理的処理、無漂白、化学的添加物も無添加という。また、農薬や化学肥料の含まれていない、自生している竹材を原料にしている。竹は成長サイクルが早く、森林破壊に繋がらず、生分解性でもある。米国FDA及びドイツLFGB、ISO安全試験にも合格した。お椀・お皿・弁当箱・コップ・トレーなどのシリーズ製品があり、カスタマイズ設計、生産サービスも提供する。
竹については、日本国内各地域では竹林の荒廃が進み保全、利活用が課題となっている。かつて筍を採るために栽培されていたが、繁殖力の強い孟宗竹の竹林が放置された結果、周囲の植生に孟宗竹が無秩序に侵入する竹害という現象が起きている。輸入品の筍が出回り筍栽培が経済的に成立しなくなり、竹材の需要も減少すると、各地の竹林は荒廃が進んだ。竹の利活用については、林野庁も推進を行っているが、燃焼特性からバイオマス燃料にはハードルが高いと言われており、プラスチック代替工業用途の展開については動向を注目したい。
参考→https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take-riyou/index.html