G&Bレポート,藻類バイオマス

進み出す「MATSURI」  ちとせグループの藻類を活用した新産業を構築するプロジェクト。産業化への意志と役割分担、不都合な真実をパワーに  (2022.6.30)

 藻類を活用した新産業を構築する企業連携型プロジェクト「MATSURI」の第1回ワークショップが、2022年1月21日、佐賀市で開催された。コロナ禍でオンラインイベント開催が続く中、10団体21名が参加する初の対面ワークショップとなった。排CO2利活用において世界最先端ともいわれる実証を進める佐賀市とMATSURI事務局が共同でCCU設備、微細藻類培養設備の現場視察会が実施された。

(第1回ワークショップ 佐賀市CCU設備視察)

 初の対面ワークショップを佐賀市で開催した理由について、MATSURIを運営するちとせグループ藤田CEOに尋ねると、「MATSURIはちとせグループが発起したプロジェクトでありますので、実は第1回のワークショップは、私どもが藻類の大規模生産実証を進めるマレーシアで行う予定でありました。しかしながら、コロナ禍での海外実施はなかなかハードルが高く、そういった中、さが藻類バイオマス協議会のアドバイザーを務める等、かねてより深いご縁のある佐賀市さまのご厚意により、佐賀市で実施することになりました」と語った。

 ワークショップの開催延期となったマレーシアのプロジェクトとは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業としてマレーシア・サラワク州で推進する藻類大型培養プロジェクトである。このプロジェクトにおける藻類の生産規模は5haであるが、MATSURIでは2025年以降に、まずは2,000ha規模にまで拡大する予定で、年間約14万トンの藻類を生産し、化学品、機能性食品、化粧品、燃料等の原料とする考えだ。

(NEDO「バイオジェット燃料生産技術開発事業 微細藻類基盤技術開発」にて実施)

 国内に戻り、佐賀市のプロジェクトについて、簡単に紹介すると、スタートは2014年のごみ焼却場の統廃合による異臭や騒音等、地元住民からの不安の声であった。佐賀市では、清掃工場から出るCO2や熱を有効利用し地元に還元できないかと考え、「迷惑施設から歓迎される施設に転換を!」をコンセプトに掲げたバイオマス都市構想の実現に向けて動き出した。佐賀市清掃工場より得られる排ガス中のCO2を分離回収する日本初のCCUプラントを建設、そのCO2を活用した㈱アルビータのヘマトコッカス藻類生産、商品化につなげている。その間、さが藻類バイオマス協議会も組織された。詳しくは、佐賀市等のホームページにおいて紹介されている。                   →https://www.city.saga.lg.jp/main/401.html                                    →https://www.saga-abc.jp/main/657.html

 対面ワークショップの成果について、ちとせグループプロジェクト担当の勝山氏は「COVID-19の影響で、懇親会など参加者同士の交流の時間を十分に設けることはできませんでしたが、最大の成果は藻類バイオマス事業の現状から課題まで、佐賀市さんには不利なこと、不都合な真実も隠さず、オープンに、正直に情報提供いただけたことですね」と語る。自治体の事業と企業の事業を融合し、構築しているモデルは日本に例がなく、自治体として多くの規制などの障壁にぶつかり、乗り越えた秘話、CO2回収だけでなく資源として有効利用するための技術課題、CCUプラントのコスト回収に対する自治体としての考え方や企業誘致の課題、また情熱を共有できたことは貴重だったという。

 

 MATSURIとは、バイオベンチャー企業群「ちとせグループ」がカーボンニュートラルの実現に向け、微細藻類を活用した新産業の構築を目指した日本発の企業連携型プロジェクトだ。藻類には海藻のような大型藻類と微細藻類があるが、後者が主体。2021年4月、9業種20機関と共にスタートをきった。MATSURIは”MicroAlgae Towards SUstainable & Resilient Industry”の頭文字をとっている。そのゴールについて藤田CEOの佐賀市ワークショップでの言葉を借りると、世界初となる藻を基盤とした社会の構築を、日本の企業と共に力強く進めることで、次の時代の日本の産業力の向上、日本の経済的発展に寄与することだ。参加機関は、スタート当初からパートナーも増え、2022年5月末時点で計36機関となっている。(詳細は、→https://matsuri.chitose-bio.com/partner) スタートから約1年経過したところで、その独自の推進手法や考え方、進捗について、ちとせグループ藤田CEOとプロジェクトリーダーの勝山氏に伺うことができた。

 なぜ、藻類なのかということについては、MATSURIでは、次の4つの特徴を挙げている。①化石資源に代わり物質を作れるのは光合成だけ②光合成による物質生産効率ナンバー1③必要な水が少ない④必要な土地を選ばない。こういった利点に着目し、研究開発、事業着手は多くの国で進んでおり、農業・バイオ大国の米国では、2006年頃から産業利用の可能性に国家として着目し始め、藻類の専門組織ABO(Algae Biomass Organization:米国組織では大型藻類も含む)が2008年に組織された。飼料、栄養素、化成品、燃料などに転換する研究、事業化が推進され、世界最大級規模の Algae Biomass Summit が毎年秋に開催されている。2018年には、米国政府は藻類を農業と認定して農務省が主軸となり事業や研究開発を推進、エネルギー省が支援するという国家プロジェクトとなっている。ちとせグループでも、10年以上に渡り、研究、事業投資を進め、MATSURI発足に至った。
 藤田CEOは、藻類産業の立ち上げ方について、MATSURIのWebサイトにおいて、次のように記している。
「あちこちを駆けずり回る中で、本格的に藻類産業を立ち上げると言う壮大な目標を実現するためには、以下の3つが足りないということに気づきました。様々な立場の方の意見を集約したロードマップではなく、計画の遂行にコミットした組織体を明確にした形でロードマップを作ること。「カスケード利用」や「高付加価値からの実用化」などと肝の座っていないことを言わず、産業構造そのものを最初から作りきってしまうこと。「バイオ業界の研究者が集まり研究開発を共に行う」のではなく、「産業そのものを構築する」という意志を持った多くの立場の参加者を集めること。私が、MATSURIというプロジェクトを立ち上げたのは、この3つを一気に進めるための仕組みが必要だと考えたからです」

 藻類を活用した事業開発は世界的に動き出しているが、産業構築には、基礎的な生物学から、プラント規模での技術開発、抽出オイルの用途開発、製品化まで、多くの分野の知見と技術の融合、統合が必要となる。また藻類にも多くの種類がある一方、出口市場も、化学品、機能性食品、化粧品、燃料など多くの分野に渡る。単一企業だけの動きでは難しく、ダイナミックに、スピード感をもって産業展開を進めるという発想に多くの企業や自治体が賛同した。

 MATSURIは、多種多様な業界から様々な企業が参加し、藻類生産に関わる設備の開発や物流網の整備、最終製品の開発・販売など、藻類の生産から販売に至るまで、全ての段階でそれぞれの事業を展開し、パートナー企業が一体となって藻類産業の構築を目指す。推進する中で、連携・協力する部分と、個社の技術開発の交通整理ができる体制が必要であるという。また、明確な産業の絵を描き、産業の中での各社が担う役割分担を決める強い意志が必要だという認識の中で進められている。2022年以降、用途開発・デモ製品の発表、環境性、経済性の評価手法の確立を進める予定だ。

 プロジェクトではあらゆる分野での産業化、ごまかしをせず、正直に対処するという方針のもと展開している。

1)健康食品や化粧品といったいくつかの高付加価値製品の市場においては、藻類から得られる成分を用いた製品が既に販売されているが、 燃料やプラスチックなど、 比較的単価が安い製品は、藻類原料の生産コストと製品価格が折り合わないため、事業化が難しかった。
「産業を構築するため、販売価格に向けて最低生産量に達していることが必要条件です。それぞれ異なる分野で藻類製品の開発を志すパートナー企業と共に、藻類を構成するタンパク質・脂質・炭水化物など全ての成分のマテリアルバランスを考え、また最大限活用することで、あらゆる分野で収益性が確保できる産業構造を目指しています」(藤田CEO)

2)近年、 欧米を中心に、環境へ配慮していることを装いながらも、その実態はごまかしである「グリーンウォッシング」な取り組みが問題視され始めている。 藻類製品は、現在、チョコレート/準チョコレートのような定まった基準や規定は無く、 製品中の藻類原料の含有量や生産方式を明示する義務もないが、プロジェクトでは、これらの定量・定性的な情報を開示し、サステナブルな社会づくりに向けた透明性のある取り組みを徹底していく。同社によれば現時点では、藻類を培養することでCO2を減らすことができているプレイヤーは世界には、まだ存在しないという。また藻類の中には、CO2を吸収する光合成型と発酵のようにCO2は使わず養分で育つ従属栄養型の2種類が存在するが、培養方法が明記されないまま一律に”藻類=脱炭素、サステナブル”だと混同されることも多いという。

 昨今、報道で大きな話題となったが、ウクライナ情勢による食用油の逼迫、インドネシアのパーム油の輸出停止問題、また国産化の必要性が強く訴えられているSAFの問題など。こういった社会課題の解決にも注力したいと勝山氏は語る。「パームは扱いの難しい繊維質が多い一方、藻類は繊維質が少なく、パームの2倍以上のオイル含有量を誇ります。栽培のために農薬の投与などで劣化してしまったパーム農地を藻類生産に再利用することも可能なため、藻類由来のパーム油代替製品が世に出てくる日は近いでしょう」また、MATSURIは、ちとせグループも会員として推進する日本微細藻類技術協会(IMAT)とも連携しており、同協会は藻類の標準化を命題にして実証試験などを実施中だ。

 地球規模の生産事業の動きは、気候変動対策、脱炭素、人口増などの背景の中で、食料、マテリアル、エネルギーは、地下資源から地上資源へ、資源循環やエネルギー等の効率性重視、炭素を排出しない、炭素を固定する手法、光合成で炭素を固定し有用物質をつくる森林、植物、微生物などの活用や保全の方向に加速している。その流れの中で微細藻類は国際レベルで主軸のひとつになる可能性をもっている。MATSURIの今後の展開に注目したい。

2022-06-20 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |