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IMAT基盤技術研究所、微細藻類由来SAF実用化へ始動    広島・大崎上島NEDOカーボンリサイクル実証研究中核拠点へ  (2022.5.31)

 一般社団法人日本微細藻類技術協会(IMAT)は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公募した「微細藻類技術開発/微細藻類研究拠点における基盤技術開発」事業内において活用を予定している、広島県大崎上島町でのIMAT基盤技術研究所の竣工が完了し、4月28日開所式が挙行された。

(開所式テープカットの様子)

 約50名が参列した開所式では、NEDO弓取理事は、CO2の削減目標達成には、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の実用化が必須であり、微細藻類由来のSAF開発の中核拠点として大きく飛躍することを期待すると祝辞を述べた。
 東京大学大学院農学生命科学研究科教授であるIMAT芋生代表理事は「微細藻類は、航空機の燃料として大いに期待されているが、微細藻類の安定した大量培養やコスト削減などの様々な課題があります。当研究所では、複数の微細藻類を用いて培養条件・分析条件等の標準化を行うことで、日本の微細藻類産業を支援していきたいと考えています」と研究所の使命を述べた。
 他、広島県商工労働局空田総括官、一般財団法人石炭フロンティア機構橋口専務理事からも祝辞が述べられ、IMAT研究担当者からは、導入された最新の設備の実働状況の説明と質疑応答および充実した研究環境の紹介が行われた。
 今後は代表的な微細藻類を対象にして、2024年度までの計画で、培養・分析に関する標準化手法の確立とCO2収支、コスト評価等を、カーボンリサイクル実証研究に取り組む大崎クールジェンプロジェクトとも協調し実施して行く。

 

 今回のプロジェクトは、NEDOが2020年に公募した「微細藻類技術開発/微細藻類研究拠点における基盤技術開発」においてIMAT(2022年3月末時点会員企業:㈱IHI、ENEOS㈱、㈱ちとせ研究所、㈱デンソー、マツダ㈱、三菱化工機㈱、㈱ユーグレナの7社)が採択され、微細藻類由来のSAFの生産およびCO2排出削減・有効利用に関する技術開発の効率化を目的とし、広島県豊田郡大崎上島町に基盤技術研究所が設立され、スタートした。
 同研究所は、「研究拠点の整備・運用」「標準化の推進」および「事業創出の支援」を行っていく計画である。微細藻類の培養システムとして、次の3種類(下記)を導入しており、それぞれに光環境・水温制御システムを導入することで世界各地の環境を模した条件下で微細藻類の培養試験が実施できる。また、培養後の微細藻類の収穫や濃縮、乾燥の工程、バイオマスに含まれる成分の抽出や分析等に用いられる装置類もそれぞれ複数種導入することで、微細藻類由来SAFの原料生産に関わる各種工程について複数のアプローチを用いた技術検証も可能だ。 

 開所式後日、研究所内を見学させていただき、培養システムや培養藻類については、解説の時間をいただきました。御礼申し上げます。

 3種の方式は、上右①オープンレースウェイ、下左②フラットパネル型フォトバイオリアクター、下右③チューブ型フォトバイオリアクターと呼ばれる。①は、シンプルで大型化が容易、初期投資が比較的少なく済むため、微細藻類の商業生産において広く利用されている。しかし、水面から入射する太陽光は培養液中を数センチしか透過できないため、深いところでは光合成効率が低い。開放系であることから、多種多様な生物のコンタミネーションリスクもあるが、3種の中では初期投資が最も低い培養システムである。②や③は、光合成効率を解決するべく、考案された方式で大型化も可能。培養容積に対して大きな受光面積を確保し、より多くの細胞に適量の光エネルギーを分配することで、光合成効率が改善される。また開放部が一部分なことから、コンタミネーションリスクの可能性は低いと考えられる。オープンレースウェイと比較して、設備投資は高くなるという。これらの培養システムは、各メリット・デメリットがあり、培養する藻類種によっても得られる結果が異なるため、同研究所では、各培養システムを比較することで、標準化の推進を行う考えだ。
 

Nannochloropsis oceanica 顕微鏡観察写真

 実証に向けて培養する微細藻類については、学名Botryococcus braunii、Chlamydomonas、Nannochloropsisの3種から着手するが、将来的には6種、9種と検討する藻類種を増やし、多種多様な藻類を検討する予定であるという。選定した藻類種について、野村事務局長は、「生成物がSAFのような燃料に向いている種について、過去の知見、論文などに基づき選定しました。選定した微細藻類種は今後の研究開発等の動向を注視しつつ柔軟に切り替えていくことも考えています。ボツリオコッカスはその高い炭化水素生産性や国内研究の実績を、クラミドモナスは生育速度や株の多様さを、ナンノクロロプシスは脂質生産能力と海水生産が可能な点を評価して選定しています」と種の選定について語る。
 「この研究所では、微細藻類由来SAFの原料生産に関わる様々な工程について、標準化の推進を目指していきます。それとともに、我々が保有している設備・人員リソースを活用し、産業の持続可能性評価や認証機関としての役割を担うことで、日本国内の微細藻類事業の中心地となるよう活動をしていきたい」と抱負を語った。

 さて、大崎上島について、少々遅れてしまったが、瀬戸内海のほぼ中央に位置する人口約7千人の島だ。JR広島駅から竹原港まで車で約1時間、フェリー30分程で島の港に着く。更に車を利用して10分ほどでNEDOカーボンリサイクル実証研究拠点に到着する。IMAT基盤技術研究所は先行して竣工したが、NEDOは、CO2を資源として有効利用するカーボンリサイクル技術の確立に向け、中国電力(株)大崎発電所内に実証研究拠点を整備、建設中だ。基本的なコンセプトは下記図に示されるが、中核研究拠点とする構想である。2020年8月に発表された5件に加え、2022年4月7日、新たに6件が採択され、実証研究エリア、基礎研究エリア、藻類研究エリアの3エリアを構成する予定だ。

(NEDO発表資料から)

カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発(2020年度~2024年度)

         採択テーマ名      委託先
(1)CO2有効利用拠点化推進事業 大崎クールジェン㈱
(2)基礎研究拠点整備・研究支援の最適化検討と実施 (一財)石炭エネルギーセンター

CO2有効利用拠点における技術開発(2020年度~2024年度)

         採択テーマ名      委託先

(3)CO2有効利用コンクリートの研究開発

 中国電力㈱
 鹿島建設㈱
 三菱商事㈱
(4)カーボンリサイクルを志向した化成品選択合成技術の研究開発  川崎重工業㈱
 大阪大学
(5)Gas-to-Lipidsバイオプロセスの開発  広島大学
 中国電力㈱

CO2有効利用拠点における技術開発(2022年度~2024年度) ※2022年4月7日発表

        採択テーマ名     委託予定先
(6)ダイヤモンド電極を用いた石炭火力排ガス中CO2からの基幹物質製造  慶應義塾大学
 東京理科大学
 (一財)石炭フロンティア機構
(7)大気圧プラズマを利用する新規CO2分解・還元プロセスの研究開発  東海国立大学機構
 川田工業㈱
(8)CO2の高効率利用が可能な藻類バイオマス生産と利用技術の開発  日本製鉄㈱
(9)CO2を炭素源とした産廃由来炭化ケイ素合成  東北大学
(10)カーボンリサイクルLPG製造技術とプロセスの研究開発  ENEOSグローブ㈱
 日本製鉄㈱
 富山大学
(11)微細藻類によるCO2固定化と有用化学品生産に関する研究開発  ㈱アルガルバイオ
 関西電力㈱

 SAFは、現段階では主に廃食油、動物性油脂などを原料として生成されているが、需要に対して供給量は大きな開きがある。国内導入促進、国産化に向けて官民協議会が立ち上がったが、全国油脂事業協同組合連合会ホームページによれば日本国内の事業系からの廃食用油の年間発生量は全体で約50万t程度であり、現状用途として飼料用(配合飼料に添加)や、工業用(脂肪酸、石けん、塗料、インキなどの原料)が約8割を占める。残りが海外輸出用や燃料用(バイオディーゼル燃料、ボイラー燃料など)となっている。国内外SAF用に回収を強化したとしても廃食油だけでは、十分な数字にはならず、またウクライナ情勢によるインドネシアのパーム油輸出停止のなどの状況もある。新たな方法でのSAFづくりが急務であり、IMAT基盤技術研究所の今後の実証結果に注目である。そして、大崎上島のNEDOカーボンリサイクル各研究動向にも注目していきたい。

2022-05-28 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |