G&Bレポート

メタンを巡る攻防始まる COP26 グローバル・メタン・プレッジ       東京ガス等のメタネーション実証試験  (2021.12.7)

 英国北部グラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)は、11月13日に閉幕した。気温上昇1.5度以内を目指し、2022年末までに2030年の排出削減目標を各国が再検討、石炭火力発電の段階的な削減、途上国への資金支援の拡充、国際排出枠取引ルールなどが全体で合意し、前進はしたが、力強く加速するには難しい実態を露呈した。そういった中で、賛同できる国だけで推進するテーマ別有志連合が数多く誕生した。

 バイデン米大統領はCOP26会期中の11月2日、温暖化ガスの一種であるメタン(CH4)の排出削減に向けて約90カ国・地域が加わる国際連携の枠組み「グローバル・メタン・プレッジ」を立ち上げると正式に表明した。2030年までに2020年比で30%減らすとし、「今後10年で最も重要な取り組みの1つになる」と呼びかけた。
 バイデン氏は、2021年9月の米国主催の「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」で、立ち上げに言及、EUと発足を表明し、COP26までに日本を含む90を超える国・地域が参加の意向を示していた。
 メタンは、油田やガス田から採掘される天然ガスの主成分であるが、天然ガスを採掘する時にも発生する。また、生ごみなどを嫌気醗酵させて得るバイオガスの主成分や海底などに存在するメタンハイドレートとしても注目される。また、自然の中ではメタン産生菌の活動により湿地や池、水田で枯れた植物が分解する際に発生、家畜のげっぷにも含まれているが、CO2に次いで地球温暖化に及ぼす影響が大きな温室効果ガスである。CO2の25倍の温室効果があるとされ、地球の気温上昇を産業革命前より1.5度以内に抑えるパリ協定目標の達成にはメタンの排出削減が欠かせない。
 米国では米環境保護局(EPA)が2021年11月、石油・ガス生産で発生するメタンの削減を企業に義務付ける規制案を発表した。メタンの発生状況をより厳しく監視するなど基準を設け、石油・ガス生産における2030年のメタン排出量を2005年比で74%抑える。米国のメタンガス排出規制はオバマ政権時の2016年に制定されていたが、トランプ前政権は2020年9月に廃止されたが、同規制を復活させた。

 国立研究開発法人国立環境研究所によると、グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)は、2020年7月、メタンの全ての発生源と吸収源をより詳細に網羅した最新版の世界のメタン収支「世界メタン収支2000-2017」を公表した。同プロジェクトは、2001年に発足した国際研究計画で、持続可能な地球社会の実現をめざす国際協働研究プラットフォーム「フューチャー・アース」のコアプロジェクト。グローバルな炭素循環にかかわる自然と人間の両方の側面とその相互作用について科学的理解を深める国際共同研究を推進している。

グローバル・カーボン・プロジェクトHP資料より

 「世界メタン収支2000-2017」の研究結果から明らかにされた直近10年間(2008~2017)の世界のメタン収支の全体像は上図である。メタンの発生源には自然起源と人為起源があり、メタンの総放出量に対する人為起源の割合は約60%と半分以上を占めている。この報告書によると、世界のメタン放出量は、過去20年間に10%近く増加したという。主要発生源は、農業及び廃棄物管理、化石燃料の生産と消費に関する部門の人間活動という結果であった。一方、湿原、湖沼、貯水池などの様々な自然発生源から放出されるメタンの放出量はほとんど変化していないという結果であった。

 

 温室効果ガスのメタンの排出を抑える動きがある一方、日本国内では、2021年6月、経済産業省資源エネルギー庁の中にメタネーション官民協議会が立ち上がり、議論が進められており、専門サイトも構成された。東京ガス㈱、大阪ガス㈱、アサヒグループなどではCO2から都市ガス原料、企業内エネルギーのメタンを合成するメタネーションの実証試験が始まっている。

メタネーションによるCO2削減効果(経済産業省資源エネルギー庁HPより)             https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/methanation.html                        

 メタネーションとは、再生可能エネルギー等由来のCO2フリー水素とCO2を利用した合成メタンの呼称で、将来の都市ガスの脱炭素化に向けた有望な技術の1つと位置付けられる。合成メタンの利用(燃焼)によって排出されるCO2と分離回収されたCO2とがオフセット(相殺)されており、メタネーションされた合成メタンガスの利用ではCO2は増加せず、カーボンニュートラルメタンとなる。ガス利用機器も含めた既存の都市ガスインフラ・機器を有効活用でき、追加的な社会コストを抑制しつつ、都市ガスの脱炭素化を達成できるというものだ。第6次エネルギー基本計画には、天然ガスの代替として合成メタンを活用することがカーボンニュートラル化を目指す手段の一つとして掲げられ、また経済産業省が関係省庁が連携して発表したグリーン成長戦略では、2030年までに既存インフラへ合成メタンを1%注入することが目標に掲げられている。水素とCO2を高温高圧状態に置き、メタンと水を生成するサバティエ反応(下式)を用いる メタネーションは、基本的技術は確立されており、今後、合成メタン製造コストの低減、設備の大規模化等実用化に向けた技術開発が課題だ。   

 東京ガスは、都市ガスの脱炭素化技術であるメタネーションの実証試験を、2021年度内に開始すると7月、発表した。
 実証試験は、再生可能エネルギー由来の電力調達から合成メタン製造・利用までの一連の技術・ノウハウの獲得、水電解装置・メタネーション装置の実力値や課題の把握、システム全体での効率等の知見獲得を目的に横浜市鶴見区の同社敷地内で実施する。メタネーションについては、既存技術であるサバティエの実証に加え、より一層の高効率化を目指す「ハイブリッドサバティエ」、設備コスト低減が見込める「PEM CO2還元技術」(Polymer Electrolyte Membrane:固体高分子電解膜)やバイオリアクター等の革新的技術開発を、複数の機関と連携して進める。将来的には、地域のカーボンニュートラル化に向けた地産地消モデルの検討や開発した技術の実証を行うとともに、同社LNG基地などでのより大規模な実証試験、サプライチェーンの構築につなげていく。

実証試験の全体イメージ

 また、同社は11月、三菱商事㈱とカーボンニュートラルメタンである合成メタンのサプライチーン構築に向けた北米、豪州等における事業可能性調査を、さらに、マレーシアの国営石油会社 Petroliam Nasional Berhad(ペトロナス)、住友商事㈱と、マレーシアにおけるサプライチェーンを構築する事業可能性調査を共同で開始すると発表した。

 大阪ガス㈱と㈱INPEXは共同で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成事業のもと、ガスのカーボンニュートラル化に向けたメタネーションシステムの実用化を目指した技術開発事業を開始すると2021年10月、発表した。本事業の実証はINPEX長岡鉱場(新潟県長岡市)越路原プラントに接続して構築する場所にて行う。
 本事業では、INPEX長岡鉱場内から回収したCO2を用いて合成メタンを製造する実証実験を2024年度後半から2025年度にかけて実施すると共に、製造した合成メタンを同社の都市ガスパイプラインへ注入する。なお、本事業で開発するメタネーション設備の合成メタン製造能力は約400 Nm3/hを予定、これは現時点で世界最大級の規模になるという。
 INPEXは2017年から長岡鉱場でメタネーション基盤技術開発を行っており、その経験を活かし、本事業全体の取りまとめや設備のオペレーションを担う。一方大阪ガスは、省エネルギーで合成メタンを製造できる触媒技術やスケールアップに関する設計ノウハウ等のエンジニアリング力を活用し、メタネーション設備の設計とプロセスの最適化を担う。
 また、長岡鉱場での実証実験と並行して、オーストラリア等の再エネ由来によるグリーン水素製造が安価で行える国でメタネーションを行い、日本へカーボンニュートラルメタンを輸入する事業性評価や、CO2メタネーションを国外で実施した際の環境価値の国内移転に向けた制度検討等も実施していく。


 アサヒグループホールディングス㈱(東京都墨田区)の独立研究子会社であるアサヒクオリティーアンドイノベーションズ㈱(茨城県守谷市)は、アサヒグループ研究開発センターにメタネーション装置(上図)を導入し、2021年9月から国内食品企業では初となる実証試験を開始した。
 メタネーションで製造した合成メタンは、将来的には、ボイラや燃料電池などの燃料への使用を始めとした、工場内でのカーボンリサイクルへの展開の可能性を検討していく。今回のメタネーション実証試験では、CO2分離回収試験装置で回収したCO2の有効な用途を開発するために取り組む。回収したCO2をメタネーション装置内で発生させる水素と反応させ合成メタンを製造し、燃料としての利用を検討する。

 グローバル・カーボン・プロジェクトの発表では、自然界から発生するメタン発生量は大きな変化はしていないとはいうものの近年の温暖化の進行はメタン産生菌は増殖活性に影響を与える可能性もある。また、メタネーション技術は、既存のインフラや設備が利用できる、転換コストが抑制できるという点では加速がしやすい技術だ。今後の研究や動きに注目だ。

2021-12-08 | Posted in G&Bレポート |