G&Bレポート,藻類バイオマス

急務のSAF普及~微細藻類由来の競争力あるSAF生産体制構築に向け、標準化推進  日本微細藻類技術協会(IMAT) (2021.11.16)

 全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)は10月8日、代替燃料「SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)」の理解を広げるため共同レポート「2050年航空輸送におけるCO2排出実質ゼロへ向けて」を策定したと発表した。

 共同レポートでは、SAFは従来の航空燃料よりもCO2排出量を約80%削減でき、2050年の航空郵送でのCO2排出量実質ゼロの目標達成に不可欠なものであることを紹介。一方で、世界のSAF生産量は需要の0.03%未満にとどまり、価格も従来の化石燃料を大幅に上回る状態が続いており、量産と普及が急務であるとした。2030年には、最低でも使用燃料の10%をSAFに移行する必要があるという。
 日本の航空会社と日本へ就航する海外の航空会社が国内の空港で給油するために必要なSAFの量は、2050年にCO2排出量実質ゼロを達成するためには、最大2300万キロリットルだという。ANAによると、コロナ前の2019年1年間に国内で日系航空会社と海外の航空会社が消費した既存の航空燃料は1200万キロリットルだったといい、約2倍にあたる量になる。航空需要の拡大が今後見込まれるアジア圏のSAF市場は、2050年に約22兆円という巨大市場になるという。

https://press.jal.co.jp/ja/items/uploads/29b739f32e77631451b59a6c03bf77b906ac9e8a.pdf

 遡った2021年6月18日、木くずや微細藻類を原料とする国産のSAFの技術開発に取り組むNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、NEDOの事業で民間企業が製造、国際規格に適合したSAFを日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)が6月17日の国内線定期便に使用した。JAL便のSAFは木くずから製造されたものと微細藻類由来のものを混合し、ANA便のSAFは微細藻類から作られたもののみ使用した。木くずを原料とした燃料の生産技術開発は、三菱パワー㈱、㈱JERA、東洋エンジニアリング㈱、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、微細藻類を原料に燃料の生産技術開発は、㈱IHIに委託され実施された。

航空分野におけるCO2削減の取り組み状況(国土交通省会議資料より)

 ICAO(国際民間航空機関)は、CO2総排出量(2019年基準値)を2021年以降増加させない目標を決定、その手段のひとつとしてSAFの活用を掲げている。2027年には多くの国で航空会社が排出量の削減が義務化される予定で、多くのエネルギー企業などがしのぎを削る中、欧米が先行している。
 SAFは従来「バイオ燃料」と呼ばれていたが、これまでの植物油などに加え、さまざまな原料から製造されるようになり、IATA(国際航空運送協会)が呼称を改めた。電動化や水素についても研究されているが、電池は植物油などに比べ、重量エネルギー密度が低く、また燃料と異なり電力を消費しても軽くならないため長距離飛行する旅客機には難しいといわれる。水素はEUのエアバスが2035年の実用化を目指しているが、開発途上技術だ。ボーイングは2021年1月、2030年までに全ての民間航空機に100%SAFを使用できることを保証することをコミットすると発表した。そういったことから、陸上バイオマスに比べて単位面積あたりの生産性が高く、そのCO2固定能力により火力発電所などから排出されるCO2を再利用できる微細藻類が航空燃料の国際規格にも登録され、注目されている。
https://www.mlit.go.jp/common/001403137.pdf

BioJapan2021 NEDOブース

 BioJapan2021は、横浜パシフィコにおいて、2021年10月13~15日開催された。その中で、NEDOは展示出展、また「持続可能な社会実現に向けたバイオの貢献と可能性」と題したNEDOセミナーが開催された。SAFの製造プロジェクトについての解説の中では、バイオジェット燃料の普及に向け、昨年秋より始動している、市場形成や社会実装を後押しするサプライチェーンの構築と、カーボンリサイクルに寄与する原料の基盤技術を強化する研究開発6案件について発表された。またバイオジェット燃料の原料となる微細藻類について、安定的に大量培養する技術を確立するとともに、研究拠点を整備する考えで、これにより商用化にあたっての課題解決や標準化を進め、培養技術を活用したカーボンリサイクルの実現につなげていくと発表された。

 

実証を通じたサプライチェーンモデルの構築  
  テーマ名   実施先
(1)油脂系プロセスによるバイオジェット燃料商業サプライチェーンの構築と製造原価低減   ㈱ユーグレナ
(2)国産第二世代バイオエタノールからのバイオジェット燃料生産実証事業   ㈱Biomaterial in Tokyo
  三友プラントサービス㈱
微細藻類基盤技術開発  
  テーマ名   実施先
(3)海洋ケイ藻のオープン/クローズ型ハイブリッド培養技術の開発   電源開発㈱
(4)熱帯気候の屋外環境下における、発電所排気ガスおよびフレキシブルプラスティックフィルム型フォトバイオリアクター技術を応用した大規模微細藻類培養システムの構築および長期大規模実証に関わる研究開発   ㈱ちとせ研究所
(5)微細藻バイオマスのカスケード利用に基づくバイオジェット燃料次世代事業モデルの実証研究   ㈱ユーグレナ、㈱デンソー
  伊藤忠商事㈱、三菱ケミカル㈱
(6)微細藻類由来バイオジェット燃料生産の産業化とCO2利用効率の向上に資する研究拠点及び基盤技術の整備・開発   一般社団法人日本微細藻類技術協会

 下図は、バイオジェット燃料の生産コスト低減や副生物の有効利用にも取り組み、微細藻類の培養技術を活用し、カーボンリサイクルの実現を進めるイメージだ。

 

 そういった動きがある中、NEDOの研究開発案件の中でも発表された、一般社団法人日本微細藻類技術協会(川崎市高津区)の野村事務局長、松崎事務局長補佐、青木主任研究員に実証事業の概要、同協会の発足の経緯やミッションなどについて、お話を伺うことができた。

 同協会は、2020年5月、設立された。東京大学大学院農学生命科学研究科の芋生 憲司教授を代表理事とし、2021年10月末時点の会員企業は、㈱IHI、ENEOS㈱、㈱ちとせ研究所、㈱デンソー、マツダ㈱、三菱化工機㈱、㈱ユーグレナの7社で構成されている。
 「微細藻類はこれまで健康食品の原料などに利用されてきましたが、燃料利用としてはまだ事業化されておりません。燃料とするには、安定生産、CO2の排出削減が可能なことなどが必要条件となります。化石燃料とのコスト競争力についてもよく課題に挙げられますが、我々は、前述した条件を満たした燃料に対し、まずはそれらの価値を正しく評価し、その評価に見合った値段をつけることが重要であると考えています。また、個別の研究機関や事業者の努力でこれらの課題を克服することは容易ではなく、これまで得られた、また、今後得られる有用な知見、データを統合していく必要があると考えています」(野村氏)

●微細藻類研究拠点の整備
●試験方法や評価基準の標準化と普及
●研究者や事業者への交流機会提供による事業創出支援

 「上の3つは、当協会のミッションですが、日本の多くの産業が、世界レベルで競争力を発揮できるのはオールジャパンとして評価基準、規格が定まっているからに他なりません。微細藻類においては、これまでそのような評価基準が無いことが、新規事業者の参入や技術発展のハードルとなっていました。これらの課題解決のため、当協会は国内の研究者・事業者の知識や技術、意見を集約し、高度な研究開発に対応した微細藻類研究拠点の整備と試験方法や評価基準等の標準化をまず行っていくことを目的としております」(野村氏)
 

 2020年10月、同協会は、NEDOの公募において、「微細藻類研究拠点における基盤技術開発」に採択された。その概要は、上図のようなものだ。具体的には、微細藻類からバイオジェット燃料を製造する各種工程について、網羅的且つ高精度に技術検証が可能な屋内研究拠点を広島県大崎上島に建設し、運用を行う。
 「大崎上島の研究拠点には、微細藻類の培養システムとして、一般的に利用される3種類の異なる形状の培養設備を導入し、それぞれに光環境・水温制御システム等を導入することで世界各地の環境を模した条件下における培養試験を実現していきたいと考えています」(松崎氏)
 また、培養後の微細藻類の収穫や濃縮、乾燥の工程、バイオマスに含まれる成分の抽出や分析等に用いられる装置類もそれぞれ複数種類導入することで、微細藻類バイオジェット燃料の製造に関わる各種工程について複数のアプローチを用いた技術検証を可能とする研究拠点を整備する考えだ。


 「新研究施設は、今年5月に着工し、建設を進めており、11月末に竣工予定です。現在、培養設備を優先して移設を開始している状況で、2021年度中に研究拠点の本格稼働、準備完了を見込んでいます」(野村氏)
 また、研究施設は中国電力大崎発電所構内、中国電力と電源開発の共同出資により設立された大崎クールジェン(株)の敷地内に建設されるが、CO2分離回収技術などの実証試験が実施されており、新研究施設では、分離回収されたCO2も利用する予定。また、敷地内にはNEDO環境部が出資している、Gas to Lipids バイオプロセスの開発など別のカーボンリサイクル事業もスタートするという。
 「NEDOの実証事業の考え方でもありますが、カスケード利用、燃料のみだけではなく副産物と合わせた生産システムを試行していく考えです。また廃棄物系とのコスト比較の問題はありますが、微細藻類の場合は、まずは、CO2排出削減や量産体制、製品の評価体制を確立できるかということが鍵を握ると考えています。また、SAF、その中の微細藻類を利用した開発競争は既に世界で始まっており、米国はエネルギー自給、自国生産という方針がベースになっていますが、日本の場合は、四季があるという状況で、1年の中で大きな環境の差が生じるため、日照や気温などが微細藻類に適した海外生産も視野に入れています。EUの場合は、気候変動対策の先導的な役割を担う使命感があるといったところが特徴でしょうか。いずれにしても共通するのは、いかにCO2排出削減効果の高い燃料を量産し、それらをどのように評価するかということですね」(野村氏)
 
 COP26では、森林の壊滅的な喪失危機が議題となり、世界100カ国超の首脳は、2030年までに森林破壊を終わらせると約束する文書に署名した。バイオマスの燃料利用については、生産・輸送の過程で温室効果ガス排出が大きいケースがある、あるいは森林などの生態系の大きな劣化を伴うケースがあることから、再生可能エネルギーと認めるべきではないという議論が欧米では起こっている。多くのバイオマスは空気中から炭素を固定する。再生可能エネルギーであるとするのは、それを燃焼させて温室効果ガスが発生しても、カーボンニュートラルであるという考え方に立脚しているが、リカバリーに長い時間を要する場合もある。一方、微細藻類の燃料活用は工業的な生産のプロセスにおいて、発電所等から排出されたCO2を利用する方式をベースとしている。広島県大崎上島を拠点として、国内の微細藻類の環境性能や製造の標準化を推進し、業界の地力を高め、巨大なSAF市場にどう貢献するのか、今後の同協会の動きに注目だ。

2021-11-15 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |