G&Bレポート

新たな考え方のバイオマスプラスチック マスバランス方式、ISCC PLUS認証 エコプロ2021注目した展示から (2022.1.29)

 SDGs Week EXPOが、オンラインで2021年11月25日~12月17日、リアル展示は東京ビッグサイトで12月8日~10日において開催された。SDGs Week EXPOは、サステナブル経営推進機構、日本経済新聞社主催による「エコプロ2021」とインフラ対策、気候変動リスクへの対応や脱炭素推進支援がテーマの「社会インフラテック2021」「自然災害対策Biz/ウェザーテック2021」「カーボンニュートラルBiz2021 」からなるSDGs Week EXPO for Business 2021で構成された。

 豊田通商(株)と福助工業(株)はサトウキビ原料のバイオポリエチレンの輸入・原料供給、製品開発において連携しており、その普及に向けた展示、また両社の独自事業も含めた共同展示ブースをエコプロ2021において構成した。福助工業は、バイオポリエチレンを使用したレジ袋や食品容器等の製品、再生原料を使用した製品、機能面に特化した軟包装製品等の展示を行った。

(福助工業の展示より)

 豊田通商は、バイオポリエチレンの持続可能性面の概要や日本初となるバイオマスナフサによるマスバランス方式による国産バイオマスプラスチックのサプライチェーン構築に向けた取り組みを開始したことを展示した。
 後者の取り組みはフィンランドのNeste Oyj(ネステ)から廃食油や植物油製造時の残渣、動物性油脂を主な原料に製造されるバイオマスナフサを輸入し、三井化学(株)がマスバランス方式による国産バイオマスプラスチックやバイオマス化学品を製造するというフォーメーションだ。2021年12月、バイオマスナフサを三井化学大阪工場に初回納入、販売を開始した。両社は、共同でブランドオーナー、大手流通とともに日本国内における国産バイオマスプラスチックの用途開発・新市場創出を推進していく考えだ。このプロジェクトではバイオポリエチレン(PE)、バイオポリプロピレン(PP)をコアにマーケティングを進めるとのことだ。

(豊田通商の展示より)

 このマスバランス方式による国産バイオマスプラスチックについては、これまでのバイオマスプラスチックとは異なる、新たな考え方であり、石油化学工業の複雑な工程も絡むので、同社より情報提供いただき、お聞きした。用語の説明なども含めて詳しく紹介したい。

●バイオマスナフサ
 石油化学工業会のホームページによると、ナフサとは石油化学の出発原料とされており、原油を常圧蒸留した際、沸点範囲が30℃から170℃位の温度範囲で得られる軽質留分である。この原料ナフサを800℃程度に加熱されている管状炉中に水蒸気とともに通して熱分解すると、様々な石油化学製品の基礎原料が生成される。日本の石油化学工業における最も主要な原料であるエチレンの他、プロピレン、ベンゼンなどが生成される。
https://www.jpca.or.jp/index.html
 環境対応を重視した試みとして、植物油や廃食油等の再生可能原料から作られるバイオマスナフサの他に使用済みのプラスチック製品をオイルに戻し、これを熱処理してナフサを製造することも始まっているという。

(情報提供:豊田通商より)

●マスバランス方式(物質収支方式)
 この方式は、原料から製品への加工・流通 工程において、ある特性を持った原料(例:バイオマス由来原料)がそうでない原料(例:石油由来原料)と混合される場合に、その特性を持った原料の投入量に応じて、製品の一部に対してその特性の割り当てを行う物質収支方式の手法だ。石油由来原料とバイオマス原料の両方を使っているが、第三者機関の認証を受け、一部の製品を100%バイオマス由来と見なすという考え方で、環境配慮型製品をより魅力的な形で販売できる利点がある。
 この方式は既に紙(FSC認証)、パーム油(RSPO認証)、電力(グリーン電力証書)など多様な業界で適用されており、バイオマス原料の割合を認証済みの手法で最終製品に割り当てることで、顧客は自身の意志で使用原料がバイオマス化された商品を選択することができる。

(情報提供:豊田通商より)

 既に海外で製造されたマスバランス方式によるバイオマスプラスチックは、日本に輸入され始めているが、輸入プラスチック特有の使いにくさ(物性・加工特性・リードタイムなど)や、石油化学製品の複雑なサプライチェーン構造によって、持続可能なバイオマス原料から製造されていることのトレーサビリティ確保が難しい場合が多いという。そういったことから、バイオマスプラスチックの国産化ニーズは次第に強くなっており、豊田通商と三井化学は2社間でバイオマスナフサの売買契約を締結、日本初の国産バイオマスプラスチック(汎用樹脂)のサプライチェーン構築を開始した。

●ネステ(フィンランド)
 同社は、Renewable Diesel(発展型再生可能ディーゼル)では世界トップシェアを占めるバイオマス燃料のサプライヤーであり、同社のバイオマスナフサ は植物油や廃食油等の再生可能原料から製造される。バイオマスナフサを使用することで、原料からプラスチック製品が廃棄されるまでのライフサイクルにおけるCO2は、石油由来ナフサ使用時に比べて大幅に削減されることが見込まれる。また、上流原料のみをバイオマス化するため、国産バイオマスプラスチックの品質は石油由来の既存品と変わらず、国産化によって持続可能なバイオマス原料から製造されていることのトレーサビリティも向上する。

●ISCC PLUS認証
 ISCC(International Sustainability and Carbon Certification)が展開するISCC PLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)を、豊田通商は2021年6月、三井化学は11月に取得した。同認証は、EUのバイオマス燃料などの認証として既に広く認知されており、複雑な生産工程のサプライチェーン構造を持つ化学産業、石油化学製品に有効なマスバランス方式に対応した認証制度だ。
「認証制度ということで付け加えますと、現在国内で普及するバイオマスプラマーク(JBPA)、バイオマスマーク(JORA)は、バイオマス由来原料の実測値が求められるため、マスバランス認証製品には、現時点で使用はできない状況です。また、まだまだバイオマスナフサの生産量が限定的である、日本のGHGインベントリに含まれないなど課題はありますが、この方式は複雑な原料体系と誘導品、複雑なサプライチェーンを持つ化学業界が、社会のカーボンニュートラル化に貢献するために必須のアプローチです。課題を克服しながら取り組んでいきたいと考えております」(豊田通商 環境・基礎化学品部 合繊・サステナブル原料グループ)

 マスバランス方式を取り入れているパーム油のRSPO認証(Roundtable on Sustainable Palm Oil)は食品、洗剤やバイオ燃料等の分野ではよく知られているが、管理方式の違いによって、4つの表示基準を定めている。WWFのホームページによればアイデンティティプリザーブド(IP)、セグリゲーシ ョン(SG)、マスバランス(MB)、ブックアンドクレーム(B&C)の4つで、IPは、認証された生産現場から最終製品製造段階に至るまで完全に他のパーム油と隔離され、どの生産農園から得られたのかが特定できる認証モデルだ。以降トレーサビリティの確かさの順となっており、マスバランスは認証農園からの認証油が流通過程で他の非認証油と混合される認証モデル。物理的には非認証油も含んでいるが、購入した認証農園とその数量は保証される。
https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3520.html

 レジ袋の有料化などでバイオマスプラマークやバイオマスマークの認知と普及が大きく進み始めたが、流通事業者や消費者にどのようにわかりやすい表示システムをつくるか、認知度向上が鍵と思われる。ISCC PLUS認証を取得する化学メーカーも増えており、今後の動きに注目したい。

2022-01-27 | Posted in G&Bレポート |