G&Bレポート,藻類バイオマス
仙台市 藻類バイオマスのエネルギー研究開発~エネルギー自律型まちづくり~ 仙台防災未来フォーラム2021から (2021.3.22)
「仙台防災未来フォーラム2021」が、仙台市の主催により3月6~7日、仙台国際センターで新型コロナウィルス対策実施のもと開催された。東日本大震災から10年の経過を踏まえ、「東日本大震災から10年 よりよい未来のために」をテーマとして、10年間の活動や記録を振り返るとともに、地震や津波のほか、水害や感染症等、様々な災害からの復興への取り組みを学び、防災、減災の未来を考える場とされた。復興庁の由木文彦事務次官の基調講演では、被災地の復興状況と課題を解説、またテーマセッションでは、伝承・経験を次の世代にどう伝えるか、また全国、世界へどう伝えるか等を議論、また、ブース出展、ステージショー、ワークショップ等が実施された。
同フォーラムは2015年の国連防災世界会議の仙台開催から1周年を機に2016年3月に初めて開催され、今回で7回目となった。2015年の国連防災世界会議は、政府代表団、政府間組織、NGO、国際機関等から6,500人以上が参加し開催され、防災に関わる国際的な取り組みの指針として「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。仙台市では、子どもから若者、高齢者まで、また性別や国籍の違い、障害の有無などによらず、地域のすべての関係者(ステークホルダー)が自助・共助を担う地域づくりを進めており、同フォーラムは、こうした防災の担い手たちが自分たちの取り組みを発表・共有・継承することで、国連防災世界会議での市民発信を一過性のものとすることなく、新たなネットワークや交流を生み出し、未来の防災に貢献することを目指して開催されている。
同フォーラムの中で、「仙台市のエネルギー自律型のまちづくり」と題するセミナーが、仙台市まちづくり政策局防災環境都市・震災復興室エネルギー政策グループにより行われた。上図が基本的な考え方であるが、具体的な取り組みとしては、防災対応型太陽光発電システム整備事業、エコモデルタウン推進事業、南蒲生浄化センターでの生活排水からオイル等を生産する藻類バイオマスの民間事業者との共同研究、2022年春に仙台市蒲生北部地区において稼働予定の東北バイオフードリサイクルの食品廃棄物によるバイオガス発電事業などが紹介された。
「市のエネルギー政策の方針は、東日本大震災において電力供給の途絶など大規模・集中型のエネルギーシステムの脆弱性が露呈されたことを出発点としています。災害に強くエネルギー効率の高い分散型エネルギーの創出、再生可能エネルギーの利用、次世代エネルギーの研究開発を推進といった3つの方向性を持って進めています」(同市エネルギー政策グループ)
藻類バイオマスの共同研究については、「微細藻類から創る画期的な次世代エネルギーの研究開発」~藻類バイオ燃料等の実用化に向けた取り組み~と題してパナック(株)より発表された。
このプロジェクトは、2018年4月より、次の6者体制で、産学官連携による「下水を栄養源とした微細藻類バイオマスに由来する藻類オイル等の実用化を目指した研究開発」というテーマで実証事業に取り組んでおり、その取り組みの分担は、
●仙台市 | 実験する場所の提供などの協力 |
●筑波大学 | 藻類を育てる技術の研究 |
●東北大学 | オイル取り出して使えるようにする技術の研究 |
●みやぎ生活協同組合 | オイルの実用化の検討 |
●ヤンマーエネルギーシステム | 燃焼試験などのオイル評価 |
●パナック | 燃料用途以外での藻類培養産物の活用方法の探索 |
発表したパナックはコア事業を機能性プラスチックフィルム分野とするが、新規事業として藻類などのバイオサイエンスに注力、微細藻類を活用した研究開発から事業化を支援しており、種の候補選定含め、このプロジェクトをとりまとめている。
実験施設については、2013年に仙台市の汚水の大半を処理する南蒲生浄化センター内に藻類バイオマス技術開発実験室が設けられ、研究開発がスタート。同浄化センターは東日本震災では壊滅的な被害を受けたが、屋外施設の中に150Lや2500Lのレースウェイ培養槽等が構築され進められている。現在の生産研究の考え方は、微細藻類がつくるオイルを抽出してバイオ燃料に、また培養上清液に含まれる多糖体(EPS:Extracellular Polysaccharides)を農業資材などの有価物を生産しようとするものである。
(同フォーラム パナック発表資料より)
また、今後の事業展開については、上図のような展開を構想し進められている。藻類がつくるオイルは廃食油に混合してマイクロコジェネレーションへの活用を進める考えだ。
「図中の環境にやさしい農業資材「バイオスティミュラント」とは、まだまだ聞きなれない言葉かもしれませんが、抵抗性誘導剤とも言われ、様々なストレスに対する抵抗力を付与し、植物が本来持っているポテンシャルを引き出す、環境にやさしい新しい農業資材です」(パナック バイオサイエンス事業推進グループ) 近年、EUを中心に世界中で注目を浴びており、これらの資材は植物やその周辺環境が本来持つ自然な力を活用することにより、代謝効率アップで収量と品質向上、植物耐性の増強、非生物学的ストレスからの回復、収穫後の糖度、色、結実などの、品質特性に良好な影響を与える報告がされている。
「現在、取り組んでいる微細藻類の種については、モノラフィディウム(Monoraphidium)を軸に進めています。同種は細胞の中に油滴を蓄積し、増えてくると葉緑体の部分が小さくなり、細胞内のほとんどの部分がオイルで満たされるという特徴があります」(同市エネルギー政策グループ)
仙台市の藻類バイオマスプロジェクトは、2012年度、東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトとして筑波大学、東北大学と連携し、オイル生産能力を有する微細藻類(オーランチオキトリウム、ボトリオコッカス)が下水等を浄化しながらオイルを生産する特性に着目してスタート、現在はその研究を土台として次のステップの研究が進められている。「2018年度以降、事業化に向けて下水を活用した藻類の新たな展開を検討してきました。藻類バイオマス事業については、活用用途により、最適な藻類の種を選定していく必要があります」(同市エネルギー政策グループ)
今回の取材は、新型コロナウィルス感染の影響などにより、南蒲生浄化センターの実験施設に足を運ぶことはできず、仙台防災未来フォーラム2021からのレポートとなったが、改めて東日本大震災とその後の10年を考える場ともなった。藻類バイオマスの研究開発を含めた防災環境都市・仙台市の今後の取り組みに注目したい。