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国際線の航空燃料SAF10%義務化へ。加速するSAF展開~リニューアブルディーゼル、バイオマスナフサ等並行して進む(2023.6.8)
欧米やアジアや日本において、持続可能な航空機燃料SAFについての政策、生産設備構築、導入、投資などの発表が相次いでいる。そういった中、持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進に向けた官民協議会・第3回会合が、5 月26日に開催された。同協議会は、航空分野の脱炭素化に向けて、将来的に最もCO2削減効果が高いとされているSAFの導入を加速させるため、技術的・経済的な課題や解決策を官民で協議し、一体となって取組を進める場として、国土交通省、経済産業省 資源エネルギー庁が合同で主催、2022年4月より開催している。
世界的にSAFの供給量はまだまだ少なく、製造コスト等も課題となっている。持続可能な航空機の動力源については、電動化や水素についても研究されているが、電池は植物油などに比べ、重量エネルギー密度が低く、また燃料と異なり電力を消費しても軽くならないため長距離飛行する旅客機には難しいといわれる。EUのエアバスが水素燃料の2035年の実用化を目指しているが、開発途上である。現時点の持続可能な航空機動力源は、SAFが牽引しており、植物油や動物油、廃食用油等を原料とした液体燃料HEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)が主軸、特に、食料との競合や生態系の劣化回避の観点から、廃食用油が中心となっている。しかし、この種のバイオ燃料だけでは、巨大な航空燃料市場への十分な供給は難しく、多様化の研究開発、実証が進められている。
5月26日の会合では、SAFの導入促進に向けた施策の方向性について中間取りまとめ(案)が示された。
まず、2030年までのSAFの利用量・供給量の見通し等について(2023年5月時点)は、下図のような概況だ。2030年における国内のSAFの需要量は、国内のジェット燃料使用量の10%、171万kL相当。2030年の供給見込み量は、石油元売り等のSAF製造・供給事業者における公表情報等から積み上げ、約192万kLとなる見込みだ。
また、SAFの利用・供給拡大に向けた規制と支援策のパッケージ案が提示され、議論された。供給エネルギー供給構造高度化法において、SAFの2030年の供給目標量を法的に義務化設定、需要側のニーズを踏まえ、少なくとも航空燃料消費量の10%とし、政府による積極的な支援を検討するというものだ。2030年以降については、国内の需要見通しから判断する。また、国際線を発着する航空会社にも国土交通省に提出する脱炭素事業計画にSAFの10%利用について明記するよう求めるとしている。
また、原料・技術ごとの見通しについては、参考資料として発表された。
こういった動きと並行して、国産SAFの生産設備の構築について国内石油元売り各社や商社等から発表が行われている。HEFA・SAFは、バイオディーゼルの次世代型燃料、「リニューアブルディーゼル」と呼ばれる燃料と生産技術が近く、進み出している。水素化により窒素化合物を排出しない、車や建設機械など既存の流通インフラ・内燃機関を活用しながらGHG排出削減を可能にするものだ。また化学品の原料となるナフサとも製造技術が近く、化学品、プラスチックの持続可能性ニーズが高まっており、バイオマスナフサの生産開発も動き出している。
●コスモ石油、日揮ホールディングス、レボインターナショナル、合同会社SAFFAIRE SKY ENERGYの4社は、国内初となる廃食用油を原料とした国産SAFの大規模生産実証設備の建設工事を開始するにあたり、2023年5月16日にコスモ石油堺製油所で、起工式を実施した。本設備では、100%国産の廃食用油を原料とした年間約3万kLのSAFを生産する。2024年度内に完工・運転開始を見込んでおり、大阪・関西万博が開催される2025年にSAFの供給を開始する予定だ。また、本設備からはバイオプラスチックの原料となるバイオマスナフサや、リニューアブルディーゼルも生産する考えだ。
また、コスモ石油は三井物産とATJ (Alcohol-to-Jet)技術を有する米国ランザジェット社の技術をベースにした生産、タイのバンチャック社が生産するSAF、バイオマスナフサ、バイオエタノール等輸入に関する検討を行うと発表している。
●ENEOSは、ENEOS根岸製油所(横浜市)における将来的に国産SAFの年間30万トン(40万kL)の製造に向けて、三菱商事㈱、豪・Ampol社、TotalEnergies等と調査、検討が進められている。
●出光興産は、年産10万kL級ATJ製造商業機の開発に向けた取り組みを進めている。バイオエタノールを国内外からの調達し、2025年度に千葉事業所内にATJ技術によるSAF製造装置を建設し、2026年度から供給をめざし進めている。
また、豪州・Burnett Mary Regional Group、㈱J-オイルミルズと、非可食油原料樹である「ポンガミア」を同州で植林することによるCO2固定化や、植林を起点とした植物原料の確保によるSAFのサプライチェーン構築、バイオ化学品などの検討に共同での取り組みを発表している。
●富士石油㈱は、袖ケ浦製油所におけるSAFを目的生産物とするバイオ燃料製造事業を検討しており、製造プラントの基本設計を伊藤忠商事㈱と共同で開始したと発表している。袖ケ浦製油所で年間約18万kLのSAF製造および2027年度の供給開始を想定している。
●双日は国産のカテゴリーではないが、米国で次世代再生可能燃料の製造を目指す、HEFA技術有するNext Renewable Fuels社(テキサス州)に出資した。プラントの建設を計画しており、2026年に商業運転を開始する予定だ。
海外では、先行しているのは米国、欧州だ。米国は30億ガロンのSAFを生産し、2030年までに航空GHG排出量を20%削減することを発表、欧州議会では次のような案が発表、検討が進められている。
●EU は 2050 年までにカーボンニュートラルとするために、EUの空港で利用するSAFの最小割合を設定、発効に向け、検討、調整が進められている。具体的には、2025年、航空燃料の少なくとも2%のグリーン化を行い、この割合は5年ごとに増加させるもので、2030年に6%、2035年に20%、2040年に34%、2045 年に42%、そして2050年に70%としている。
SAFとして認めるものは、合成燃料、農業または林業の残留物、藻類、バイオ廃棄物、廃食用油または特定の動物性脂肪から生成される特定のバイオ燃料、および廃ガスと廃棄物から生成されるリサイクルされたジェット燃料が含まれるが、飼料および食用作物ベースの燃料、およびパームおよび大豆材料に由来する燃料は、持続可能性基準に適合しないため、見なさないとしている。また、航空輸送の脱炭素化に徐々に貢献できる有望な技術である、水素については別枠で組み込んでいる。
●英国運輸省は、SAFの急成長に絡み、利用上限を設けない限り、SAF集中により他の運輸部門等で炭素排出量が増加する可能性があると発表した。HEFA・SAFなどにおいて、原料が既存の用途から転用されたり、食用ベースの原料が使われたりすることの懸念を示した。
●フィンランド・ネステ社
海外企業の動きでは、フィンランド・ネステ社が廃食用油の調達、HEFAの技術で世界市場をけん引する。先月5月、シンガポール製油所の拡張工事が完了し、開所式が実施された。今回の拡張で、シンガポールでの生産能力は2倍、製油所の総生産能力は年間260万トンとなり、そのうち最大100万トンがSAFとして使用可能となった。生産能力の向上に加え、原材料前処理能力の強化を行い、これまで難しかった廃棄物や残留原材料を処理する能力を向上させた。同社は、シンガポールをアジアの物流機能の高い基地として重視しており、イノベーションセンターも設立している。
ネステ社の総SAF生産能力は、ロッテルダム製油所の改修が完了する2023年末までに年間150万トン、ロッテルダム製油所の拡張が完了する2026年上半期には220万トンとなる予定だ。また、同社は、米国Crimson Renewable Energy Holdings, LLCから米国西海岸の廃食用油の収集や集約事業と関連資産を取得、米国内の生産も強化する。また、日本国内の販売代理店となっている伊藤忠商事とともに、SAFだけでなく、ネステ社が「Neste MY Renewable Diesel」の日本国内での流通拡大に向けて商標ライセンス契約締結およびブランディングに関する協業契約を締結し、強化していくと発表した。
ネステ社は、バイオマスプラスチック分野では、日本国内では、豊田通商、三井化学グループ、また三菱商事、出光興産、奇美実業(台湾)と、バイオマスナフサを原料としたバイオマスプラのサプライチェーンの構築を発表している。
●ATJ (Alcohol-to-Jet)
国際的に最も流通量のあるバイオ燃料・バイオエタノールを変換する技術だが、インド国内においてATJ方式で生産されたSAFを混合使用したインド初の商業旅客便エアアジア・インディア便のフライトが成功した。この航空燃料は、インド石油公社 (IOCL) がPraj Industries社と提携して供給したもので、プネーからニューデリーへの飛行を行った。調達されたSAFは、ATJ技術を保有する米国・Gevo社 と提携して行われた。 https://www.praj.net/wp-content/uploads/2023/05/230519-Press-Release-Praj-IOCL-AirAsia.pdf
日本国内では、出光興産、コスモ石油も生産を検討中。また、三菱商事はスウェーデン・Swedish Biofuels社への出資を発表している。なお、Gevo社はSAF開発と平行し、ETO(Ethanol to Olefins)変換技術を利用し、韓国LG化学とバイオプロピレンの開発を共同で進めている。
●微細藻類
ネステ社も、微細藻類の研究歴は長く、スペインに微細藻類原料のパイロット生産設備の建設を検討中。米国では、ABOが生産のエコシステムづくりに注力する。社名改めた米国Viridos社が、海水による微細藻類の培養プラントで、SAFやリニューアブルディーゼルの生産を目指し、資金調達を強化した。
日本国内では、ユーグレナ社が、廃食用油と微細藻類ユーグレナの混合燃料でSAF・リニューアブルディーゼルを開発・販売を進める。IHIも炭化水素を生産するボトリオコッカスを使って実証・開発を進める。
ちとせグループは、マレーシア サラワク州にてNEDOの委託事業として建設を進めてきた世界最大規模の5haの藻類生産設備「CHITOSE Carbon Capture Central(C4)」が完成し、稼働を開始した。SAF等の製造に向けた藻類の長期大規模培養技術の確立を行なうと同時に、幅広い用途開発も視野に入れる。SAFについてはNEDOの助成を受けて広島県大崎上島に完成した日本微細藻類技術協会(IMAT)研究所とも連携して開発を進める。
●合成燃料
ノルウェー最大、徹底したサービスの効率化を進める格安航空会社Norwegian Air Shuttleは、Norsk e-Fuel(ノルウェー・オスロ)とのパートナーシップを発表し、ノルウェー北部のMosjøen(モショーエン)に世界初の本格的なe-fuel(合成燃料)プラントを建設すると発表した。このプラントは、SAF を生産し、同社の2030年までのSAFの総需要の約20%が確保できるとし、2030 年までに45%の排出削減という同社の目標に向けた重要なマイルストーンになるとした。
https://greenproduction.co.jp/archives/13197
現状、SAFの展開は、航空燃料市場だけでなく、製造技術の近い、車や建設機械等用のリニューアブルディーゼル市場、化学産業で進む持続可能な化学品、バイオマスプラスチック用のバイオマスナフサ市場も視野に入れ動きだしている。SAFの生産は、現在はHEFAが主体となっているが、廃食用油などは回収、供給には限りがあり、またパーム油等の食用油の転用の問題もあり、原料の多様化は急務と思われる。CO2などを利用したバイオや化学的手法、あるいはこれらを組み合わせた合成生物学的手法による効率の高い生産システムの確立が必要となるが、今後の動きに注目である。
IATA発表関連情報→https://greenproduction.co.jp/archives/13841 NEDO発表関連情報→https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101656.html