G&Bレポート

長岡バイオエコノミーコンソーシアムの取り組み~持続可能な地域循環型のバイオ産業づくり    長岡バイオエコノミーシンポジウム2023から (2023.3.19)

 長岡バイオエコノミーシンポジウム2023が、2023年2月22日、長岡市と長岡バイオエコノミーコンソーシアム主催、長岡技術科学大学共催のもと、アオーレ長岡において、オンラインも併催で開催された。このシンポジウムは、持続可能な地域循環型の新たなバイオ産業づくりに向けて、長岡のバイオエコノミーを考えるシンポジウムとして2020年に第1回を開催、2021年は新型コロナ感染拡大のため見送られたが、今回で3回目の開催となった。内閣府、経済産業省、産業総合研究所、バイオインダストリー協会、バイオコミュニティ関西、NaDeC構想推進コンソーシアムが後援、中央官庁、関係機関の参加も含め、会場には約170名、オンラインでは約140名が参加した。 

 開会のあいさつの中で、長岡市・磯田市長は長岡バイオエコノミーの実装、実験を重視していきたい、今年夏には、人づくり・産業振興の拠点として米百俵プレイス・ミライエ長岡が先行オープンすると挨拶した。
 内閣府の仁科氏は、2022年は、世界的にバイオ投資が大きく進展した年であり、米国バイデン政権はバイオテクノロジーとバイオものづくりのイノベーションを推進する大統領令を発出し、世界のバイオの市場規模は30兆ドル規模になると予測されている。日本政府においてもバイオものづくりが成長戦略の中に組み込まれ、1兆円規模の投資が見込まれているとした。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)についても推進していきたいと述べた。
 科学技術振興機構の中川氏は、COI-NEXT(Center of Innovation)について、SDGsに基づく未来のありたい社会像の実現に向けたバックキャスト型研究開発と、産学官共創システムの構築を一体的に推進するプログラムとして、共創分野、環境エネルギー分野やバイオ分野等の政策重点分野で採択されたプロジェクト活動が本格的に始まっていると述べた。

(開会の挨拶)

 なお、当レポートの作成にあたっては、長岡市商工部産業イノベーション課のご協力をいただきました。御礼申し上げます。
 
 シンポジウムの内容の話の前に、長岡市とバイオエコノミーについて確認しておきたい。
 長岡市は新潟県の中央に位置し、日本一の大河・信濃川が市の中央をゆったりと流れ、守門岳から日本海まで市域が広がる人口約27万人のまちだ。総面積890?のうち約50%が森林、約20%が耕地であり、豊かな自然環境と肥沃な土地を有する。この土地と水と空気からが生みだす「米」「日本酒」の他、日本三大花火のひとつ「長岡まつり大花火大会」、「錦鯉」も長岡が発祥だ。
 国内最大級の埋蔵量を誇る大型ガス田を有し、生産される天然ガスは、プラントで処理した後、沿線の都市ガス事業者及び工業用需要家へ販売されている。また、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)、CO2回収・貯留の実証が、地球環境産業技術研究機構(RITE)によって、2000年から2015年にかけて行われ、約1万トンの圧入、操業技術などの知見・データの蓄積が行われた。また、2013年から稼働している生ごみバイオガス発電施設は、自治体の生ごみ処理施設では国内最大規模であり、市内全域から収集された生ごみをメタン発酵処理し、発生するバイオガスを利用して発電を行うとともに、発酵残渣も資源循環の観点から有効に活用している。

(コンソーシアムの取り組み 発表資料から)

 次に、バイオエコノミーとは何か。〇〇エコノミーなどのワードが、Webや展示会では増える中、確認しておくと、バイオテクノロジーや再生可能な生物資源等を利活用し、持続的で再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させる概念だ。OECD(経済協力開発機構)が2009年の報告書「The Bioeconomy to 2030」で提唱された。バイオエコノミーは工業製品の35%、医薬品の80%、農業の50%の生産に貢献し、そのGDP総額はOECD参加国のGDP2.7%に相当(196兆円)と試算されている。米国やイギリスはバイオエコノミーを実用化するために具体的な目標や戦略を策定するなど、バイオエコノミーの拡大による新市場の形成を国家戦略に位置づけている。
 日本においても、2030年までにバイオエコノミー市場は40兆円まで拡大すると試算され、持続可能な新たな社会経済システムの要素として、内閣府が策定したバイオ戦略では、2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会を実現するという目標を打ち出している。その中では国際拠点を中核として各地域をネットワーク化し、世界最高レベルの研究環境と海外投資も活用できる事業化支援体制を組み合わせ、国内外から人材・投資を呼び込めるシステムを整備する「バイオコミュニティの形成」を掲げている。地域バイオコミュニティは、この国の施策に基づくもので、バイオコミュニティの活動を集中的に取り組む体制ができている地域に対して、「地域バイオコミュニティ」として認定する制度が設けられ、2021年6月に、長岡市は、北海道、鶴岡、福岡とともに地域バイオコミュニティの認定を、東海は育成バイオコミュニティの認定を受けた。また、2022年12月には広島と沖縄が地域バイオコミュニティに、群馬は育成バイオコミュニティの認定を受けている。

https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20210625biocom.html
 
 シンポジウムプログラムでは、次のような2部構成で行われた。COI-NEXTの取り組み報告の中では、内閣府が主催する今年度の第5回日本オープンイノベーション大賞の中で、内閣総理大臣賞の受賞となった、高専生の技術とアイデアでアフリカの社会課題解決を目指す 「JICA 高専オープンイノベーションチャレンジ」と題したプロジェクト(構成:国立高等専門学校機構長岡工業高等専門学校、国際協力機構(JICA)、NPO法人長岡産業活性化協会NAZE 、長岡技術科学大学、有限責任監査法人トーマツ)の概要紹介も行われた。→https://www8.cao.go.jp/cstp/openinnovation/prize/2022.html

●第1部 今年度の長岡バイオコミュニティの報告
 ・長岡バイオエコノミーコンソーシアムの取り組み、COI-NEXT の取り組み報告
●第2部 長岡のバイオエコノミーを流通や産業という観点から考える
 ・基調講演:「長岡のバイオエコノミー産業サプライチェーンをデザイン」(ベジタリア㈱小池社長)                                  
 ・パネルディスカッション:これからの長岡のバイオエコノミー産業をどう進めるか

大変密度の高い構成で行われたが、最初のレポートでもあり、長岡バイオエコノミーコンソーシアムに主軸を置き、紹介したい。
 
 長岡バイオエコノミーコンソーシアムは、バイオエコノミー社会の実現と長岡バイオコミュニティの定着、バイオ産業と既存ものづくり産業の融合による新産業の創出や地域資源循環の促進等を目的として、2021年に発足した。長岡市をはじめ長岡技術科学大学や長岡工業高等専門学校などの各種高等教育機関、その他民間事業者等が構成員としてコンソーシアムに参画している。

(コンソーシアムの取り組み 発表資料から)

 
 取り組みの構成としては、ビジョン会議、バイオサロン事業、プロジェクト事業の3つが柱だ。
1)ビジョン会議には、産総研やNEDO、グローバルバイオコミュニティの方をはじめ、バイオ有識者などの関係者が長岡の地に集い、コミュニティの形成や、ビジネス連携のあり方について議論を行った。長岡技術科学大学が採択されたCOI-NEXTについて紹介、意見交換を行った。
2)バイオサロン事業は、長岡バイオエコノミーコンソーシアムへの参画者を中心としたコミュニティ形成を行い、オープンイノベーションを促進している。多様な業種、業態の方々から異なる視点からの議論を深め、プロジェクトの項目出しや組成、マッチングを進めるもの。今年度は9、12、1月の計3回開催され、12月に行われた第2回は、「下水道由来資源の肥料利用」をテーマに、下水汚泥肥料の現状や全国的な取組を紹介し、議論された。この問題については、ウクライナ情勢などを受けて肥料の調達価格が高騰、また難しくなることも想定され、下水汚泥資源の肥料利用の拡大に向けて、農林水産省、国土交通省等が連携して推進策を検討するため、昨年秋に利用の拡大に向けた官民検討会が立ち上がり、議論検討が進んでいる。

(コンソシアムの取り組み 発表資料から)

3)プロジェクト事業は、長岡市をフィールドとしたバイオエコノミーに資する取り組みをコンソーシアムとして推進するもので、バイオ産業と既存のものづくり産業の融合による新産業の創出や地域資源循環の促進・高度化を通じた循環型社会の実現を目指すものだ。生ごみバイオガス発電センター発酵残渣肥料実証プロジェクト、また、取り組みの具体的事例としても詳細の発表があったが、㈱緑水工業の下水道汚泥のペレット化推進事業についても紹介された。同社は下水汚泥由来肥料を製造・販売し、自社農場でも利用し農産物を販売する、企業内で循環農業を実践し普及活動を続けている。

(コンソーシアムの取り組み 緑水工業発表から)

 長岡バイエコノミーコンソーシアムのWebサイトに相談役を務める、ちとせグループ藤田CEOが、同コンソーシアムに「長岡から世界へ」と題した寄稿文が掲載されている。また、農林水産省の中では、国内外の情勢の変化を受け、食料・農業・農村基本法の見直しが進められている。未来に向け新たなバイオ産業を、また新たな農業のスタイルをどう構築していくか、更に国内外にどう発信していくか注目である。

2023-03-15 | Posted in G&Bレポート |