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浜田化学の展望する「廃食用油循環が生み出す未来」 バイオマス展・注目したセミナーより(2023.4.12) 

 本題にはいる前に、廃食用油の今後を予測するうえで、注目すべき報道、発信が昨今国内外では行われている。

廃食用油を高性能燃料化し、再生可能航空燃料のSAFや高性能BDFの分野で世界市場をリードするフィンランドのネステ社は、シンガポールに年産100万トン規模の世界最大級の工場を建設中だ。出荷も間近と見られ、アジア対応を強化する。また、同社は、米国Crimson Renewable Energy Holdings, LLCから米国西海岸の廃食用油の収集や集約事業と関連資産を2022年11月取得し、米国規制当局の承認により、取得を完了したと、今年1月発表した。                                              
3月25日、欧州連合(EU)欧州委員会とドイツ政府は、2035年以降も条件付きで内燃機関(エンジン)車の新車販売を容認することで合意したと発表した。当初、全てのエンジン車を禁止する方針だったが、水素とCO2を原料にした「e―fuel(イーフュエル)」と呼ばれる合成燃料を使用する新車に限り販売を認める。この背景、今後については、多くのメディアで論じられているが、EVを主軸とするものの、限定の方針を転換した。合成燃料については、研究開発は進められているが、商業生産、普及には時間を要するものと思われる。
三井化学㈱は、バイオマス化学品・プラスチックの原料となる廃食用油で東南アジア・中国地域最大級の集荷・販売会社であるApeiron AgroCommodities Pte. Ltd.(シンガポール)に、2022年6月、出資したと発表した。今回の出資により三井化学は、拡大するバイオマス化学品・プラスチックの需要に対応するため、バイオマス原料の調達拡大を図っていく。世界規模で石油由来からバイオマス由来への原燃料転換を推進する動きが加速しているが、バイオマス原料は需要の伸びに対して供給が限定的なため、今後ますます原料確保が重要になっていくとした。

(三井化学 2022.8.31プレスリリースより)

カネカ㈱は、JR西日本ホテル開発と共同して、JR西日本ホテルズが運営する施設から排出される廃食用油を用いた資源循環の取り組みを開始すると、3月31日、発表した。カネカ生分解性バイオポリマーは、通常は、植物油を原料に生産されるが、原料の多様化を検討してきており、廃食用油を原料に生産する技術を確立している。この技術を活かし、JR西日本ホテルズが運営する施設から排出される廃食用油を利用し、それを原料に製品を生産し、JR西日本ホテルズが運営する各施設へ還すことで、資源循環を実現する考えだ。

 脱炭素に向けて、バイオ燃料やバイオマス原料のマテリアル利用は主軸方策のひとつであるが、循環型経済、あるいは食料との競合の回避という考え方のもと、国内外において廃食用油が重要なポジションを担っている。

(バイオマス展バイオマスエネルギー利活用セミナーから)

 前置きが長くなってしまったが、2023年3月15日~3月17日、東京ビッグサイトでは春のスマートエネルギーWeekが開催され、その中のバイオマス展が開催された。その中で、「廃食油循環が生み出す未来」と題したバイオマスエネルギー利活用セミナーが、浜田化学㈱の岡野社長より行われた。なお、Webレポート作成においては、情報提供のご協力をいただきました。御礼申し上げます。

 まず、廃食用油とは、飲食店や食品工場で使用済みまたは賞味期限切れなどで廃棄された食用油のことで、世界的にはUCO(Used Cooking Oil)と呼ばれている。
 廃食用油の年間発生量は全国油脂事業協同組合連合会のホームページによると、日本全体で約52~54万トンと推定される。リサイクル用途として、飼料用、工業用(脂肪酸、石けん、塗料、インキ原料など)、燃料用(バイオディーゼル燃料、ボイラー燃料など)となっている。
 「国内での用途は、かつては飼料が大半を占めていました。食用の鶏や豚を育てるときに、早く大きく育てるために、油をエサに混ぜてカロリーをたくさんとらせるためだったわけですが、日本の人口減が進む中、食料生産は減少していく、行き場を失うという危惧の中、食用植物油の燃料利用が規制され、需要が高まっていた欧州に燃料用として輸出されるようになりました。そういった流れの中で、輸出BDF原料用廃食用油の相場は、コロナウィルス拡大の影響を一時うけたものの、2019年9月には、トン当たり650USドルだったものが、2021年3月には、1,070USドルと大きく上昇しました。これは、排出権取引をスタートさせた欧州において、廃食用油がその利用がクレジットとして認められるようになったことが要因です」(岡野社長)

(セミナープレゼンテーション資料から)

 浜田化学は、使用済みてんぷら油など使い終わった廃食用油の回収とリサイクル事業を主軸に展開する、兵庫県尼崎市に本社を置く企業だ。飲食店、学校、食品工場でご使用した廃食油を回収し、同社工場にて精製しリサイクルなどを行い、新たな資源として変換させて出荷する。捨てれば廃棄物となり、流せば水質汚染のもとだが、リサイクルすることによって環境改善に努める廃食用油リサイクルのリーディング企業だ。
 同社は、1970年、廃食用油リサイクル回収事業会社として兵庫県尼崎市にて先代によって設立された。1976年、尼崎市の産業廃棄物収集運搬業許可を取得し、1985年に尼崎に現在の本社・工場を建設した。油脂回収、再生処理、製品加工、製品販売を進化、推進し、営業所は国内には京都、名古屋、富山、静岡、千葉、川西、洲本に展開、日本全国とタイで回収が可能だ。年間約25,000klの回収量、全国シェア約7.6%。コンビニ店舗、外食・その他含め20、000件を超える店舗から回収を行っている。2003年店舗衛生メンテナンス・グリストラップ衛生事業を開始し、廃棄物と店舗衛生管理の一元管理提案が可能な体制を構築。お客様の廃油の排出量に応じて回収頻度を調整、必要に応じて容器・タンクの貸し出し等も行うなど、柔軟に清潔で安心安全な回収を強みにして回収店舗の拡大を図ってきた。

(セミナープレゼンテーション資料から)

 2003年以降、バイオディーゼル燃料製造および走行実験を開始以降、バイオディーゼル燃料製造体制を整え、操業。2007年4月には、環境省地球温暖化対策技術開発事業を受託、神戸大学と酵素触媒によるBDF製造法を確立させた。この製造装置を利用し、洲本市との共同事業としてBDF生産を行っている。現在は、本社工場にもB5製造・給油設備が設置され、回収車両、フォークリフトに使用されている。リサイクルハンドソープ事業は2005年より展開開始。2015年10月に設立したグループ会社の㈱フードイノベーションでは、飲食事業を展開、その店舗で新たな方法での廃食用油回収も試行している。
 また、同社では、大阪の西淀川菜の花プロジェクトの廃油回収に協力を行っている。地域の空き地や休耕地で菜の花を育て、収穫した菜種油を料理に使い、使った後の廃食油を回収し、バイオディーゼル燃料にして、さらに利用しようという試みだ。化石燃料の使用による地域温暖化などを抑止するとともに、持続的な地域循環型社会の構築と地域の活性化を目指すものだ。この取り組みは、公益社団法人「全国産業廃棄物連合」主催のCSRプロジェクト「地域貢献部門」で「環境省産業廃棄物課長賞」を受賞した。http://nanohanany.blogspot.jp/
 
 さて、廃食用油の今後のリサイクル展開において、同社が主軸と考えているのが次のSAF、バイオディーゼルなどの燃料、バイオプラスチック、ハンドソープの3つの事業分野だ。

(セミナープレゼンテーション資料から)

 「諸事情があり、あまり多くを語れず申し訳ないのですが、現在大阪府堺市では、廃食用油を原料とした国産SAF、バイオディーゼル等の生産を目指したプロジェクトが進んでおります。SAFは国内廃食用油の主要用途にひとつになっていくと考えますが、廃食用油だけでは生産規模が限られますので、プロジェクトでは海外あるいは他の原料の調達が検討されております。また、この設備からはバイオプラスチックの原料となるバイオナフサの生産も検討されています」(岡野社長)

(セミナープレゼンテーション資料から)

 同社は、廃食用油を精製してつくった脂肪酸を更に高度精製し、それを原料として生まれた純石けんタイプのリサイクル薬用ハンドソープを澁谷油脂㈱(神戸市)とともに開発した。殺菌剤(イソプロピルメチルフェノール)を配合し、殺菌効果を持ちながら、手荒れしにくい。合成の界面活性剤は一切使用せず、純石けん成分でできているため手肌にやさしく、生分解性など環境負荷も少ないという特徴をもつ。「店舗で排出した廃食用油がハンドソープとなって還ってくるという自己循環型リサイクルというコンセプトを提案し、サトフードサービス様、ファミリーマート様、ユニー様、びっくりドンキーのアフレ様、大阪の小中学校などで採用され、お客様トイレなどに設置され、累計の販売数は130万本を超えました」(岡野社長)

 セミナーのまとめとして、岡野社長は政府への提言を唱えた。
 EUなどではEU-ETS、UK-ETSなど排出権取引のルールづくりが先行している。このままでは、日本は取り残されるという懸念を訴えた。ASIA-ETS の創設など、EUのルール、CBAM:Carbon Border Adjustment Mechanism(炭素国境調整メカニズム)にアジアとして協調して対峙することが必要であるという。EUや米国の市場が非常に大きいということもあるが、日本の政策の多くはEUや米国の状況を見ながら決定されている点があることも事実で、今後の日本主導、アジア発の動きを推進していくことも重要だ。

 国内外の廃食用油は争奪戦の様相も呈しており、用途展開もより付加価値を高める方向に変貌していくことが予想され、今後の同社の展開に注目したい。

2023-04-12 | Posted in G&Bレポート, トピックス |