研究情報

東洋紡の中空糸型正浸透膜(FO膜)、デンマークSaltPower社が世界初実用化した浸透圧発電プラントに採用。(2023.2)

 東洋紡㈱の中空糸型正浸透膜(Forward Osmosis:FO膜)が、デンマークのベンチャー企業SaltPower社(デンマーク・セナボー)が世界で初めて実用化に成功した浸透圧発電プラントに採用された。デンマークのマリアージャにあるNobian社(オランダ・アーメルスフォールト)の製塩工場に設置され、2023年4月中に稼働開始の予定だ。

(浸透圧発電プラント)

 浸透圧発電とは、2種類の溶液の浸透圧差を利用して発電するシステム。地下岩塩層や地熱水などの天然資源が豊富に存在する欧州を中心として、天候や昼夜に関わらず安定的に稼働し、太陽光や風力と同水準のコストで発電が可能であることから、次世代の再生可能エネルギー発電システムとして注目を集めている。
 SaltPower社が実用化に成功した浸透圧発電プラントでは、製塩工場で使用するため地下の岩塩層からくみ上げられた飽和濃度に近い高濃度の塩水と淡水との塩分濃度の差を利用し、100kw規模の発電を実現する。水分子を通し塩分など一定の大きさ以上の分子やイオンを通さない性質を持つ当社のFO膜を隔てて高濃度の塩水と淡水を接触させると、浸透圧差により塩水側に水が移動し、流量が増加する。この流量の増加を利用してタービンを回すことで発電する仕組みだ。

(浸透圧発電のしくみ)

 東洋紡のFO膜は、円筒形の圧力容器に高密度に中空糸を充填した半透膜の一種で、クロスワインド構造をはじめとする独自の内部構造により、高濃度の塩水と淡水の双方がFO膜内部で均一に流れ、浸透圧差から生じる流量の増加を、高効率に発電量に転換できる。また、海水淡水化向けRO膜の開発で培った技術により優れた耐圧性能を備えるため、高効率な浸透圧発電に必要な高い運転圧力にも対応し、高い発電効率を維持することができる。これまで、SaltPower社などが運営する浸透圧発電のパイロットプラントにも採用されており、実証実験を重ねてきた結果、このたびの実用化に至った。
 SaltPower社は今後、地下から塩水を汲み上げる方式を採用する製塩工場や、塩の電気分解を伴うクロール・アルカリ製品のメーカー向けに応用可能な浸透圧発電システムを、欧州地域で積極的に展開していくことを計画している。また、SaltPower社は、浸透圧発電の過程で生じる岩塩空洞を、次世代クリーンエネルギーと期待される水素の地下貯蔵庫として活用することで、低炭素経済への移行にさらなる貢献ができると期待している。

(中空糸型正浸透(FO)膜)

 東洋紡は、1970年代に、繊維事業で培った紡糸技術を応用し、水分子を通す一方で一定の大きさ以上の分子やイオンを通さない中空糸型半透膜を開発。海水を淡水に変える逆浸透膜(Reverse Osmosis:RO膜)として、長年にわたり海水淡水化プラント向けに供給してきた。現在、中東地域において当社グループ製の中空糸型RO膜が作り出す真水は一日あたり約160万トンで、約640万人分の使用量に相当する。

詳しくは、→https://www.toyobo.co.jp/news/2023/release_1445.html                                 関連情報→G&Bレポート「海洋が創出する新たなエネルギー」https://greenproduction.co.jp/archives/3619

2023-02-25 | Posted in 研究情報 |