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藻類バイオマス産業化レポート MoBiol藻類研究所 パーム油生産工場廃液(POME)を利用しDHAを生産(2020.12.10)

 食品開発展2020は、11月16日~18日、東京ビッグサイトで開催された。同展示会では、気候変動問題や人口増加に絡み、フードロス削減や、従来食料とされていなかった未利用資源開発の分野が立ち上がった。新食料資源開発セミナーでは「新食料資源としての微細藻類の可能性」と題して(株)MoBiol藻類研究所・藻類産業技術D&Dセンター長の多田清志氏による講演が行われた。

 パーム油は植物油、マーガリン、チョコレート、石鹸等の原料として利用され、輸送用や火力発電の燃料としても利用されている。インドネシアとマレーシアはパーム油生産では世界の約85%を占める。その一方、農地拡大による森林伐採やパーム油生産工場廃液(POME; Palm Oil Mill Effluent)が引き起こす水質汚染やメタンガスの発生が重大な環境問題となっている。「POMEについては、上澄み液は肥料としての使い道がありますが、廃液処理の最中にCO2やCH4(メタンガス)が発生し、オゾン層破壊物質でもあるN2O(亜酸化窒素)も生み出しています」(多田氏)
(講演発表資料から)
 
 2018年に(株)MoBiolは、上記の環境問題解決を目標に掲げ、これらの問題を解決できる存在として、また筑波大学の藻類バイオマス研究開発成果を産業化する企業として設立され、2020年6月、商号変更し(株)MoBiol藻類研究所となった。
 同社は筑波大学の藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター長を務める渡邉教授の研究成果、微細藻類の専門的な知識と生産技術を強みに、様々な微細藻類に適した培養技術の開発、および微細藻類から生産される油脂の効率的な生産技術の開発を行っている。現在、MoBiolグループのグローバルビジネスを展開するMoBiol Holdings Pte Ltd (本社:シンガポール)を中心に、PT MoBiol Algae Indonesia(本社:インドネシア ジャカルタ)と共にそれぞれの強みを活かし、国内では、つくば市を拠点に事業を進めている。

(MoBiol藻類研究所ホームページより)

 同社の基本的なビジネスモデルは上記のような構成図だ。インドネシアには、2017年の統計では875に及ぶ生産工場がある。これらの工場は、1日当たり455,000トンを超える大量のPOMEを排出しており、大きな環境問題となっている。POMEは、BOD(生物化学的酸素要求量)値が高く、そのまま河川や海に流すと富栄養化によるプランクトンの大量発生など引き起こすので、ラグーン処理を行っているが、温室効果ガスであるメタンガスが大量に発生し、重大な環境・経済問題に発展しているが、効果的な解決策が見つかっていなかった。そこで、解決する手段として、微細藻類の機能を利用することに着眼した。生産工場からの廃液を、生育に必要な栄養源として藻類が利用することで、BOD値が低減され、水質改善につながる。さらに、藻類から抽出されるDHA(ドコサヘキサエン酸)含有オイルが、新たな事業利益をもたらすというものだ。「私たちは、パーム油生産工場から排出されるPOMEを、単なる廃液ではなく藻類の生育を促す有価物と捉えて、パーム油の副産物”ByLPO“(Byproduct Liquid Palm Oil)と呼んでいます」(多田氏)。

 DHAは人間に必須の栄養素で、EPA(エイコサペンタエン酸)とともにオメガ3とも言われている不飽和脂肪酸だ。人体では生成できないことから、EPA-DHAを多く含む青魚を摂取したり、これらを含んだ健康食品を利用したりして体内に取り込む必要がある。EUでは、DHAを1日100mg摂取することで乳幼児の正常な視力に発達に寄与するという研究結果などから、乳幼児用ミルクにDHAを入れることを義務化する動きを見せている。

 これらの課題解決に適した微細藻類として従属栄養性藻類に属する上図のオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)が利用されている。同種は、海産ないし汽水産の単細胞微生物で、光合成をせず、有機物を吸収して従属栄養で増殖する。栄養細胞は直径約5μmから20μm程度のほぼ球形で、運動性はないという。一般に、増殖が速く、また高い脂質生産能をもっており、多くは、DHA(ドコサヘキサエン酸)などの高度不飽和脂肪酸を産生することが知られており、摂取することでDHA増量効果があることから、養魚飼料、鶏飼料の配合飼料として使われてきた。近年、炭化水素を多く産生する株も発見され、軽油に混合し、バイオ燃料として利用できることも確認されてきたが、増殖においては糖類やアミノ酸などの栄養源が必要であった。
 「微細藻類は大きく葉緑体をもつ光合成型と葉緑体をもたない従属栄養型に分類されます。前者は光とCO2があれば増殖しますが、光合成のために光を当てる大規模設備が必要で、初期投資が大きくなります。一方、後者はノウハウが蓄積されたバクテリアや酵母などの高密度培養技術が適用可能で、設備を柔軟に設計することが可能です。栄養源にはランニングコストがかかりますが、再利用されていなかったPOMEを栄養源にすることで、コストの問題を解消しています」(多田氏)

(インドネシアに完成した実証プラント(左)  乾燥藻(右))

 同社は環境問題を引き起こすパーム残渣を微細藻類を用いて浄化、その過程で増殖した微細藻類よりオメガ3を含む油脂の効率的な生産及び抽出技術を開発し、特許化にも成功した。
 2019年10月、丸紅(東京都中央区)との資本提携、並びに戦略的パートナシップに係る契約を締結した。DHA の飼料原料としての販売可能性・テストマーケティングを含む事業化に向けた実証実験などを共同実施している。
 2020年3月、実証プラントをインドネシアに建設した。DHAの供給元として事業を展開する計画を進め、すでに実証プラントからはDHAの原料となる乾燥藻の取り出しに成功しており、商用培養プラントおよび抽出プラントを設置、事業化を急ピッチで進める予定だ。
 そして11月、鯖やグループ(本部:大阪府豊中市)は、「サバマーケット創造企業」として、さば寿司を製造・販売する「鯖や」、さば料理専門店を運営する「SABAR」、サバの海面養殖などを手掛ける「フィッシュ・バイオテック」を展開する企業であるが、持続可能で質の高いサバ養殖の共同研究を始めるにあたり、業務提携したと発表した。

 微細藻類の中の従属栄養型の種は下水排水の処理として下水・排水含有有機物を培養に利用しながら、有機物の資源循環システムを形成することも可能だ。国内外の応用の分野の開拓など今後の動きに注目だ。

2020-12-11 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |