G&Bレポート,海洋の持続可能性,藻類バイオマス

佐賀市/さが藻類バイオマス協議会~2023年の取組の概要 開催セミナーと講演から(2023.12.02)

 バイオジャパン2023は、横浜パシフィコにおいて、2023年10月11~13日に開催された。バイオ・バイオマスの分野を地域創成の核とするコンソーシアムなどの出展は増えてきているが、先駆者となってきた自治体の佐賀市は、地球環境の保全と経済的な発展を両立するサーキュラーエコノミーの実践をテーマに展示した。世界初の清掃工場から回収したCO2の産業利用、バイオマス由来CO2の付加価値化、藻類産業の推進、みどりの食糧システム戦略へ向けた施設園芸の取組などを紹介した。

 藻類産業の推進では、さが藻類バイオマス協議会、さが藻類産業研究開発センター、佐賀大学などの活動紹介が行われた。そういった中で、佐賀市の藻類産業に関する活動について、さが藻類バイオマス協議会でコーディネーターを担当する中溝氏に今年などの動きについて、情報提供やお話を伺うことができた。
 佐賀市の藻類産業に関する活動、さが藻類バイオマス協議会について、ゼロからの説明となると大変膨大な情報量になってしまうのだが、弊社Webレポートを2019年に1度まとめており、その続編として、特に今年の動きについて、活動とセミナー・講演分野でまとめていくこととなった。

 2023年には、MATSURIと共催のセミナーや定時総会の際の発表と講演会など、情報発信が行われた。定時総会の際の発表と講演会について、要約情報の提供をいただき、下記に紹介させていただきます。御礼申し上げます。

 

令和5年度定時総会

 6月26日、令和5年度定時総会が、対面とオンラインを併用して佐賀市のロイヤルチェスター佐賀で開催された。総会後半は、微細藻類研究と産業利用をテーマに発表と講演が行われた。佐賀大学農学部の出村幹英特任准教授による「佐賀大学における微細藻類バイオマス研究の状況」と題した発表が行われ、沖縄県の久米島で微細藻類事業を展開する㈱ロート・F・沖縄の中原剣代表取締役による「地域資源×微細藻類の新たな価値創造、事業化へ」、オーピーバイオファクトリー㈱の金本昭彦代表取締役による「海洋生物資源を活用したビジネスモデル」と題した講演が行われた。ロート製薬㈱は、昨年2月、オーピーバイオファクトリー㈱と共同で藻類研究拠点「AMU LABORATORY」を設立し、協業を開始している。
参考情報→https://www.rohto.co.jp/research/researchnews/technologyrelease/2022/0224_01/

佐賀大学が取り組むイカダモ

<発表概要>
 佐賀大学の微細藻類研究の目標は、CO2を使って微細藻類を育てて、薬品、肥料、飼料、工業材料などを作り出し、カーボンニュートラル社会、資源循環型社会につなげ、新しい産業をつくれればと考えている。今年度、μAB project(マイクロ・エービー・プロジェクト)という名前で研究体制を立て直し、さまざまな分野の研究者が協力して機動性を持たせて行おうとしている。今後、企業に提供できる新たなシーズを増やせると考えている。
 微細藻類への期待は現在、第三次ブームと言われるくらいに高まってきている。第一次はオイルショックの頃、第二次は京都議定書が出てCO2削減が問題となった頃だ。いずれも一時的だったが、今回は長く続くと考えている。理由は、ブームの背景にあるカーボンニュートラルにしてもタンパク質クライシスにしても、新しい生物資源を使わないと解決できないのが現状だからだ。微細藻類はその第一の候補だと考えている。これまでは燃料への応用で注目されていたが、食糧や工業材料など多岐にわたってくると考えている。
 佐賀大学の現在の研究についていくつか紹介すると、まず「育てる」分野では、私がイカダモという藻類の培養に取り組んでいる。イカダモはどこにでもいる藻類で、生命力が強くてよく育ち、一日で1㎡あたり森林の3倍のCO2を固定する。昨年は、この藻類の中にDHAを産生する新種を発見した。今年は100Lの水槽培養に取り組んでいる。成分分析をしたところタンパク質が50%以上含まれており、食品として優秀だと考える。
 ほかに医薬品利用の面では「血圧降下作用を持つ新物質」の発見もあった。理工学部の研究では工業利用の分野で、有用成分を取った後の残渣を利用した「貴金属吸着材」、「微細藻類を内包したナノファイバーの作成」などの研究が進められている。今後もさまざまな分野で、「微細藻類バイオマスを使う」というキーワードで新たな研究が出てくると思う。


<講演の概要>
 私は子供のころに光合成に興味を持ち、奈良先端科学技術大学院大学で光合成の基礎研究で学位を取得した。その後、さまざまなことを経験したが、光合成を中心にキャリアを築いてきた。「光合成からの循環が生命の本質」という哲学を持って、地域の中で生産から加工、サービス、リサイクルが循環するエコシステムの社会構造を創ろうと挑戦している。ロート製薬は個人の健康と社会の健康をつなぐ「心身の充実」に需要が動いているとみており、その新規事業を沖縄の久米島で取り組むことになった。
 久米島で取り組む理由は、観光や文化、生物資源、海洋資源という資源があることが挙げられる。特に水深200メートル以下の海水である海洋深層水、だ。太陽光が届かないため冷たく、生物はいないが、栄養分は豊富。久米島はこの深層水の取水量が日本一で、海面との温度差を利用した海洋温度差発電が行われている。そして深層水を多段階に活用して車エビやウミブドウの養殖などを行い、30億円産業になっている。
 私たちはこのモデルに共感して2016年から参画している。その一つは冷熱農業。深層水の冷熱を利用して夏場に冬野菜をつくる農業で、ホウレンソウやイチゴで実証試験を進めている。もう一つが藻類農業。微細藻類30万種の中で、今までは培養できていたのは10種類だけだったが、フォトバイオリアクターの技術の進歩でほとんどの種類が培養可能になった。これにより食品、飼料、藻類が含む機能性物質を使ったヘルスケア製品などさまざまな事業展開ができる。
 私たちは久米島では、青い色素に着目して青いビールを作っている。久米島の青い海のイメージを重ねた。また地域特有の土壌藻類の培養上清の活用にも注力している。これには農産物の生育促進や肥料削減効果、土壌流出防止効果などがあるので、これを使った農法を久米島の農業に組み込んで、土着藻類を資材にするビジネスモデルを作りたい。「農産物が藻類を使ってつくられている」という形ができれば、事業の幅は広がる。いま「微細藻類ファーム(マイクロファーム)」をつくろうとしているが、これは藻類の生産自体をコンテンツにした農園。「新しい時代の農業」という見せ方でアピールしていく。
 藻類農業は、循環型でマルチな産業構造を持っている。これを、海洋深層水を中心にさまざまな事業を展開する久米島モデルと連携させ、産業自体が観光資源となるようにしたいと考えている。

<講演の概要>
 当社は、製薬や食品、化学関係をクライアントに、さまざまな海洋生物資源から抽出した機能性物質販売や、顧客が求める化合物の探索受託を業務としている。微細藻類も扱っているわけだが、政府のカーボンニュートラル宣言以降、微細藻類への注目度は高まっている。そこで、株の探索から機能性評価、育種、培養法検討、スケールアップ検討までをパッケージにした藻類特化型のパッケージもつくっている。
 自社開発株「パブロバ」も、当社事業の広告塔になる商品を作ろうということで開発した。自社で保有する1000株以上の微細藻類のコレクションの中から、健康食品向きでクライアントに好まれるアンチエイジング成分を持っているものをと考え、アミノ酸スコアが高いだけでなく、フコキサンチンやEPAなど数多くの栄養成分を含んでいるこの藻類を選んで商品開発することにした。
 微細藻類を商品開発する時に課題になるのは、対象となる株を安定的に継代維持するのが難しいことや、生産におけるコンタミネーション(不純物混入)の問題だが、対象株の問題については、選抜継代などの方法で解決した。生産方法についても、パブロバはコンタミに弱かったが、育種とガラスチューブ型のフォトバイオリアクターを利用することで高密度大量培養に成功した。
 パブロバは安全性についての各種試験や、フコキサンチンの安定性を損なわない原料化という課題もクリアして、サプリメントタイプの健康補助食品にすることにした。ブランディングについては、海のブルーの美しいイメージを出した。オメガ3脂肪酸を多く含むのでどうしても魚っぽい風味があるが、那覇の有名なイタリアンの店とコラボして逆にこれを生かした生パスタやドレッシングを開発し、セレクト系マーケットで展開している。知人のつてなどで著名なアーチストなどにアンバサダーになってもらい、SNSなどで発信してもらってもいる。さらにロート製薬と連携して化粧品原料エキスを共同開発、これを海洋深層水と組み合わせたヘッドスクラブも開発した。
 今後の課題は大量生産施設の整備だ。独立栄養と従属栄養を併用して生産受託できる施設を構築していく。また微細藻類事業を行う企業をコンソーシアム化して培養の受託や株を相互利用できる仕組みを構築できればと考えている。