G&Bレポート
グリーンインフラ官民連携プラットフォーム 国交省 気候変動リスク高まる中、自然環境の機能の積極的な利用へ (2020.8.7)
梅雨明けはしたものの、豪雨の被害、その影響は続いている。長期の温暖化傾向により、豪雨の常態化は進む模様だ。政府は、7月17日、経済財政運営と改革の基本方針2020(骨太方針)を閣議決定し、国土強靭化や防災・減災を柱のひとつに加えた。また、環境省と内閣府は、6月30日、気候変動のリスクをふまえた防災・減災の戦略をまとめ、ダムや堤防などのハード対策の強化よりも「危ない土地には住まない」「自然の機能を活用する」などを重視するとした。環境省は河川流域の土地を災害時に水を逃す遊水地として活用できないか調査を始める。
「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」が、2020年3月19日に設立された。同プラットフォームは、関係府省庁、地方自治体、民間企業、学術団体、有志個人も含めた多様な主体が幅広く参画・連携する。各自の知見、ノウハウや技術を持ち寄り、 グリーンインフラの取組を発展させていこうというものだ。
(同プラットフォーム ホームページより)
第1回総会は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、書面開催。第1回シンポジウムは、2020年3月13日に開催予定であったが、新型コロナウイルスの影響で、6月30日~7月6日に「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム 第1回シンポジウム」が、WEB配信にて開催された。
同プラットフォーム会長の経団連自然保護協議会会長の二宮氏の挨拶では、気候変動に伴う自然災害の頻発、激甚化、また人口減少、少子高齢化に伴う管理放棄地や低未利用地の増加など多くの課題への対応が急務であり、同プラットフォームの意義を訴えた。東京都市大学の涌井特別教授による基調講演では「これまで我々は、災害や環境の劣化に対して技術や工学的な建造物で緩和するという手法をとってきました。地球環境の変化の中で、こういった考え方だけでは対応が難しくなっており、自然の力を借りる、あるいは我々のライフスタイルを変えることが必要になってきています。グリーンインフラは単に空間、ハードの問題だけではなく、公と私を結びつけた共をつくり、グリーンコミュニティとして人々がインフラに積極的に関われるよう整備し、社会システム化を目指すものです」と語った。建築・まちづくりプロデューサーの甲斐氏は暮らしの視点から考え、自分のこと化することの必要を発信、九州大学工学研究院の島谷教授は、雨水は貯留や浸透させ、一挙に地下、川に入れない分散型の水の管理、緑の利用を訴えた。兵庫県豊岡市コウノトリ共生部の宮下氏は、豊岡市での絶滅したコウノトリの保護増殖活動の取組を紹介した。上記の動画配信に加えて、有識者によるパネルディスカッション、質問に対する回答も含め、グリーンインフラ座談会がライブ配信された。
そもそも「グリーンインフラ」とは何か。2019年7月、国土交通省から発表された「グリーンインフラ推進戦略」によると、グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境(緑地、植栽、樹木、河川、水辺、森林、農地等)が有する多様な機能(生物の生育・生息の場の提供、雨水の貯留・浸透による防災・減災、水質浄化、水源涵養、植物の蒸発散機能を通じた気温上昇の抑制、良好な景観形成等)を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組であるとまとめられている。1990 年代後半頃から欧米が先行し、この語は使われてきたが、欧米間では進められてきた背景も異なり、考え方が合意されている状況ではなく、「グリーンインフラの明確な定義は現時点では行っていません」(国土交通省 総合政策局環境政策課)
日本においても、近年、その概念が導入され、様々な研究が進められてきた。行政分野においては、国土形成計画(2015年8月閣議決定)において、初めて「グリーンインフラ」 という用語が登場し、その後、社会資本整備重点計画、国土強靱化年次計画などにおいて盛り込まれてきた。
そういった経緯の中、2018年12月、グリーンイ ンフラ懇談会が設立され、今後の社会資本整備や土地利用等に際して、 グリーンインフラの取組を推進する方策について、欧米の事例も参考にして幅広い議論、 検討が始まり、2019年7月、「グリーンインフラ推進戦略」の発表となった。その中で、 「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」 の創設が提案された。
https://www.mlit.go.jp/common/001297373.pdf
グリーンインフラの「グリーン」は単に緑、植物という意味を持つのではなく、さらに 「環境に配慮する」、 「環境負荷を低減する」 といった消極的な対応を越え、緑・水・土・生物などの自然環境が持つ自律的回復力をはじめとする多様な機能を積極的に生かして環境と共生した社会資本整備や土地利用等を進めるという意味が込められている。また、グリーンインフラの「インフラ」は、従来のダムや道路等のハードと しての人工構造物だけを指すのではなく、その地域社会の活動を下支えするソフトの取組も含み、 公共の事業だけではなく、 民間の事業も含まれる。
既に、従来の社会資本整備や土地利用等の取組においては、グリーンインフラと称してはいないものの、自然環境が持つ防災・減災、地域振興、環境といった各種機能を活用した取組を実施してきている。社会資本整備において自然環境の機能が整備の前提条件として織り込まれている場合もあり、人工構造物とグリーンインフラは、 概念上も要素技術の上でも相互に関係しており、 双方を適切に組み合わせることが重要であるとしている。
今回、グリーンインフラをさらに推進していく上で、昨今の社会的・経済的背景として、いくつかの柱が上げられるが、気温の上昇や大雨の頻度の増加などの気候変動への対応は重要な主軸となっている。一定程度の機能の発揮が想定されるグリーンインフラを既存インフラと相補的に活用して、 防災・減災対策を重層的に進める考えだ。具体的には、土壌や浸透性舗装等を活用した雨水貯留浸透施設等の整備による治水対策、 植栽による蒸発散効果を活用した暑熱緩和対策などである。安全な地域づくり、災害リスクの低減に寄与する生態系の機能を評価し、積極的に保全・再生し、より生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR:Ecosystem-based Disaster Risk Reduction)を含め推進する。
http://www.env.go.jp/nature/biodic/eco-drr/pamph01.pdf
また、グローバル社会における国際競争の激化やESG投資の広がり、人材を呼びこむなどの経済状況への対応、自然環境と調和した都市、オフィス空間、交通空間等の形成、持続可能な国土利用・管理、人口減少・少子高齢化など中長期的な課題への対応を踏まえ、下記の方向性を打ち出すものであるとしている。
●自然環境が持つ多様な機能の価値や効果の再認識 (グレー重視→グリーン重視)
●保全、保護のスタンスからより賢く使うという 「攻め」 の発想に転換
●時間の経過とともにその機能を発揮する成長する、育てるインフラの形成
●多様な主体の連携により、全国的な取組を積極的に応援
(国土交通省ホームページより)
グリーンインフラは、米国で発案された社会資本整備手法で、欧米で先行して取組が進められてきた。導入目的や対象は、国際的に統一されておらず、非常に幅広いのが現状だ。
米国では、管渠・ポンプ・貯留管、汚水・下水排水と組み合せて用いられてきたハードインフラの代替、若しくはハードインフラに付加するものとして土壌や植生を用いることとされており、それにより、飲料水の供給や公衆衛生の向上、下水道からの越流の軽減、雨水による汚染の削減を図っている。
欧州では、水質浄化、大気質、レクリエーション、気候変動緩和と適応のための広範な生態系サービスを提供するように設計され、管理されている自然環境や半自然環境の戦略的ネットワークと定義され、様々な取組が行われてきた。
●米国オレゴン州ポートランド市
(ポートランド市ホームページより)
自然環境では、土壌や植物が雨を吸収するが、通り、建物、駐車場が地面を覆っているとき、雨は、土や油などの汚染物質を川や小川に運び、浸食や洪水を引き起こして、特性や野生生物の生息地に害を及ぼす。雨水を下水に流さないため、当初は土壌を使った雨水の浄化対策に始まったが、やがて集中豪雨による下水道の内水氾濫に対応する手法として雨庭、バイオスエールなど、グリーンストリートとしての対策に力を入れ推進している。またこの考え方を市民に浸透させ、パートナーシップ制度など包括的なプログラム、政策として発展させてきている。
https://www.portlandoregon.gov/bes/34598
●米国ニューヨーク市
(グリーンインフラ懇談会資料より)
雨水対策はポートランド市同様に実施されているが、High lineは、全長2.3kmのニューヨーク市にある線形公園で、マンハッタンに所在した、廃止されたニューヨーク・セントラル鉄道の支線の高架部分に空中緑道および廃線跡公園として再設計された。ニューヨーク市の公園およびレクリエーション局と協力して、フレンズオブザハイラインがプログラム、維持、および運営する公共公園で、観光の名所にもなっている。一旦雨水を貯留しながらゆっくりと地面・地下に流すシステムも備えている。
https://www1.nyc.gov/site/dep/water/green-infrastructure.page
(rebuild by design ホームページより)
ニューヨーク市では、2012年のハリケーンサンディによる甚大な被害の教訓から、マンハッタン島の南端バッテリーパークを中心に”rebuild by design”という災害対策計画が進められている。この計画実施で採択されたBIG U計画は、マンハッタンのU字形沿岸部約10マイル(16キロ)を堤防の役割を果たす高台で囲み、洪水や海水面の上昇から守ろうというもの。緑の力を十分に活用しており、外観は堤防には見えない。気候変動対策と都市の活性化を実現している。
http://www.rebuildbydesign.org/
●英国ロンドン市
(ロンドン市ホームページより)
ロンドンオリンピックを契機として大規模な事業化が行われ、All London Green Gridと名付けられた プロジェクトを進捗させた。土地の管理コストを低減させる工夫を行うとともに、過去に損なわれた湿地などの自然環境の再生、地域の状況に応じた新たな用途の発見等をテーマにした。国土を荒廃させず、むしろ国民にとってプラスに働くよう、地域相互連携を促進し、緑や水面などのネットワーク化、空間高質化に取り組んだ。投資を呼び込むことにも成果を上げた。
https://www.london.gov.uk/what-we-do/environment/parks-green-spaces-and-biodiversity/all-london-green-grid
日本における集中豪雨などのリスクは高まっており、国土交通省は今年度から新たに開始する「先導的グリーンインフラモデル形成支援」の対象団体として、グリーンインフラに取り組む地方自治体、東京都多摩市、大阪府泉大津市の2地域を7月31日発表した。グリーンインフラの基本構想策定から体制づくり、各種計画への反映等、来年度以降の事業化に向けて専門家を派遣する等の支援を行い、取組を加速する考えだ。今後の動きに注目である。
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo10_hh_000225.html