G&Bレポート

持続可能なバイオ燃料の条件  ~パーム油バイオ燃料摩擦の行方~ (2020.1.15)

(WTO © Reuters/Denis Balibouse)

 ロイター共同通信によると、世界最大のパーム油生産国インドネシアは、バイオ燃料の原料となるパーム油に対するEUの輸入規制が不当だとして、WTOに提訴した。同国貿易省が2019年12月15日に声明を出した。声明によると、12月9日に提訴の最初の段階となる2国間協議をEUに要請した。EUの再生可能エネルギー指令(RED2)について、WTOの紛争解決機関に異議を申し立てると繰り返し表明していたが、インドネシアのスパルマント貿易相は、科学的な研究を考慮し、パーム油の業界団体や企業とも協議した後で決定したと語り、「提訴することで、EUのRED2と規制の見直しを求める」と語った。同国政府高官は、EUの政策はインドネシアのEU向けパーム油輸出に直ちに影響はないが、世界的なパーム油製品のイメージを毀損するだろうとしている。
 また、インドネシア政府は、EUがパーム油製品の使用を規制する政策をあくまでも遂行する場合には、EUとの包括的経済連携協定(CEPA)の交渉打ち切りやEU産の乳製品への補助金について審査を強化するなど厳しい対抗措置をとることを明らかにした。

 2019年2月、EU委員会によって決定された再生可能エネルギー指令(RED2)は、EUレベルでの、固体・液体・気体の全てを含む、初めての包括的な持続可能性基準の枠組だ。イギリスやオランダなど自国の持続可能性基準を持っている。また、FSC、RSPOなどの第三者認証などがある中、EUの独自認証基準で、パーム油の原料となるアブラヤシ栽培は過度の森林破壊をもたらすとし、輸送用燃料への使用を2030年までに段階的に禁止するとした。食糧・食用作物のパーム油・大豆油は、まず、その比率を制限し、2020年時点でのバイオ燃料の割合の原則として1%増加までとした。間接的土地利用変化リスクが高いバイオ燃料は、 2021~23年においては、2019年水準を超えてはならない。2023年以降、2030年までにゼロにするというものだ。特定の作物の使用を段階的に廃止する前例はこれまでにはない。バイオ燃料は、かつて再生可能エネルギー指令(RED)の下で大きな補助金を得やすい手段であったが、RED2においては持続可能性の考え方は大きく変化した。
 また、EU委員会は2019年8月、インドネシア産のBDFに対して、政府の補助金などによってEU域内に不当な安値で輸出しているとして、8~18%の相殺関税を適用すると発表。適用期間は5年間の予定で、EU域内の事業者を圧迫していることが確認されたとしている。

(アブラヤシの実 ©国際環境NGO FoE Japan)

 パーム油はアブラヤシの果実から得られる植物油。マーガリン、チョコレート、石鹸の原料として利用され、近年では、輸送用や火力発電の燃料としても利用される。主にインドネシアとマレーシアにおいて、世界で最も生産され、この2カ国で世界全体の生産量の約85%を占める。
 もともと西アフリカに生息、1800年中期にオランダ人がインドネシアに種を持ち込み、その後マレーシアなどへと持ち込まれたといわれる。1980年代以降、ゴム農園がアブラヤシ農園に急速かつ大規模に転換しはじめ、主にポテトチップスなどの揚げ油として、米国での輸入量が増加していった。また心臓病予防の観点で一部の脂肪酸を含む油が、健康面での問題が指摘されるなどの状況の下、パーム油使用は増大してきた。
 農園の無秩序な開発と劣悪な労働環境、児童労働などが横行するようになったため、農業の持続可能性の考えが起こり、2004年に「持続可能なパーム油のための円卓会議」(通称RSPO:Roundtable on Sustainable Palm Oil)が設立され、森林保護と人権の問題が提起された。2013年にはRSPOによってパーム油の認証制度が策定された。RSPOは、非営利組織であり、パーム油産業をめぐる7つのセクターの関係者の協力のもとで運営されている。また、EUでは、2015年に2020年に向けてEUの食品チェーン全体に持続可能なパーム油が100%になるよう求める「アムステルダム宣言」が発表された。
 近年、バイオ燃料用途の増加の中で、食糧との競合、温室効果ガス(GHG)を吸収する熱帯雨林や、GHGを地中に留める泥炭湿地を破壊して造成したプランテーションで採取したパーム油を使う輸送用燃料や火力発電での利用は環境面で批判議論が高まっている。またパーム油の大量輸入によって、EU産の菜種油の需要が落ち込むと、抗議活動も出る地域がある。

(泥炭湿地の転換により、蓄積炭素がCO2として排出される ©国際環境NGO FoE Japan)

 日本国内ではバイオマス発電においては固定価格買取制度(FIT制度)が運用されている。経済産業省においてEUなどのこういった動きを受けて、また多くの新規燃料を活用するニーズの発生、多様な燃料に対応する基準・認証の検討が必要となってきたため、パーム油含め、バイオマス発電に特化したFIT制度の在り方を審議するため、総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会の下部機関として、「バイオマス持続可能性ワーキンググループ」が2019年4月スタートし、議論を開始した。
 バイオ燃料の持続可能性については、国内燃料は森林法等に基づいて確認を行い、輸入燃料は第三者認証を用いて確認を行うこととしている。特に、バイオマス液体燃料(パーム油)については、RSPO などの第三者認証によって持続可能性の確認を行うこととし、より実効的な確認を行うため、認証燃料が非認証燃料と完全に分離されたかたちで輸送等されたことを証明するサプライチェーン認証まで求めている。こうした中で、FIT 制度で求める持続可能性について、環境問題や食料との競合の観点などを含めて議論を行っている。

バイオマス燃料のライフサイクルGHG排出量試算
(バイオマス持続可能WG第1回会合資料/石炭、石油、LNGとのGHG排出量比較)

土地利用変化とライフサイクルGHG排出量試算(バイオマス持続可能WG第1回会合資料)

 2019年10月、国際環境NGO FoE Japanなどバイオマス関連環境団体主催による、「温暖化対策効果のあるバイオマス発電に向けて固定価格買取制度(FIT)への提言」と題し、関係国会議員、関係省庁担当者も参加したセミナーが開催された。現行のFIT制度においては、GHG排出評価の基準がなく、ライフサイクルでのGHG排出 LNG火力発電の50%未満をFIT等の要件にすべきとした「バイオマス発電に関する共同提言」を発表、多くの賛同を得て、バイオマス持続可能性WGに提出された。「FIT制度が地球温暖化対策を目的とするものであれば、なんらかの形でGHG排出に関する評価基準を持つべきではないか」(同セミナー参加者意見より)
http://foejapan.org/forest/biofuel/191001.html

 2019年11月、経済産業省では、同WGの「中間整理」を公表した。
環境の影響という観点では、土地利用変化においては、天然林保全、生物多様性保護、また泥炭地の保全、保護、また栽培工程及び加工工程に係るGHG等の排出や汚染の削減などの確認が言及されている。バイオマス発電の主力電源化に向けた安定調達も念頭に置き、RSPOとそれと同等の評価基準をもつRSB (Roundtable on Sustainable Biomaterials)の第三者認証によって確認する考え方、5年を目途に持続可能性基準の見直し検討を行うことを示している。
「パブリックコメントへの対応や調達価格等算定委員会への報告、ガイドラインへどう折り込むかを検討していきますが、現時点における日本のバイオマスの持続可能性の考え方を整理したものです」 (資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 新エネルギー課担当)https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/biomass_sus_wg/index.html

 パーム油を巡っては、液体燃料の他、副産物のPKS、EFBペレット、パームトランクペレットなどの固体バイオ燃料も海外から動く中、持続可能性と関連し、バイオ燃料以外でも様々の動きが進んでいる。
 2019年4月、小売、消費財メーカー、NGOなど18社/団体は、パーム油生産における環境面などさまざまな問題を解決することを目指し、日本市場における持続可能なパーム油の調達と消費を加速させるため、「持続可能なパーム油ネットワーク(JaSPON)」を設立した。
 IHI(東京都江東区)はマレーシアなど東南アジアでパーム油産業の環境汚染対策事業化を目指す。パーム搾油工場排水は水質汚濁や腐敗によってGHGを放出する原因にもなっている。国際農林水産業研究センター(JIRCAS)と、2014年から、実証試験を行い開発中だ。「脱化石燃料の動きは加速しており、石炭火力発電用設備も転換の動きが進んでいます。弊社の排水の発酵反応器「ICリアクター」で処理し、メタンガスを回収する技術を活用し、対応強化を進めています」(IHI 資源・エネルギー・環境事業領域営業推進部)
 丸紅(東京都中央区)は、2019年10月、シンガポールの農業スタートアップ企業モビオールホールディングスとの業務提携を発表。同社は食品などに一般的に使われるパーム油の製造過程で発生する廃液から栄養成分のドコサヘキサエン酸(DHA)やタンパク質を抽出する技術を持つ。インドネシアで実験プラントを着工し、養殖魚向け商用化を目指す。

 「持続可能性」という言葉が、現状では地球環境軸、経済軸などにおいて統一されたものではなく国や地域、組織によって多様であるようだが、変貌していることも事実だ。有識者の中には、作物ベースのバイオ燃料から微細藻類のような第二世代のバイオ燃料にすべきとEUに促す動きもあり、パーム油代替を睨み研究開発を進める国内大手企業、またパーム油産業の環境対策事業に注力する企業もある。2018年発効された、EUの使い捨てプラスチック使用禁止の指令は世界の脱プラ現象の引き金となった。インドネシアのWTO提訴がどのような結果となるか、EUのRED2がどのような影響を及ぼしていくか、今後の動きに注目である。

 

2020-01-16 | Posted in G&Bレポート |