G&Bレポート

仙台市の脱炭素都市づくりの取り組み ~みやぎ生協の取り組み/SVO発電機~仙台防災未来フォーラム2022から (2021.3.22)

 「仙台防災未来フォーラム2022」が、仙台市の主催により3月5日、仙台国際センターで開催された。このフォーラムは、東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、発表やブース展示、体験型プログラムなどを通じて市民が防災を学び、日頃の活動を発信できるイベントだ。今年のテーマは、「杜の都の未来につなぐ わたしたちの防災・環境」とされ、東日本大震災からの復旧・復興だけでなく、気候変動をはじめとした環境問題や水害など様々なテーマから広い意味での「防災」について知る・考えるプログラムが実施された。
 郡和子仙台市長による主催者挨拶や国連防災機関(UNDRR)駐日事務所 松岡由季代表からのメッセージは、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、動画で公開され、会場では感染対策のもと、セッション、ブース出展、ステージショー、ワークショップ等が実施された。

(画像提供:仙台市防災環境都市推進室)

 同フォーラムは2015年の国連防災世界会議の仙台開催から1周年を機に2016年3月に初めて開催され、今回で7回目となった。2015年の国連会議は、国内外6,500人以上が参加し開催され、防災に関わる国際的な取り組みの指針として「仙台防災枠組2015-2030」が採択された。仙台市では、子どもから若者、高齢者まで、また性別や国籍の違い、障害の有無などによらず、地域のすべての関係者(ステークホルダー)が自助・共助を担う地域づくりを進めており、同フォーラムは、こうした防災の担い手たちが自分たちの取り組みを発表・共有・継承し、新たなネットワークや交流を生み出し、未来の防災に貢献することを目指して開催されている。
 また、仙台市では、「世界防災フォーラム」も2017年から、隔年で開催されている。世界防災フォーラムは、スイスの防災ダボス会議と連携し、国内外から産・官・学・民の防災関係者が集まる日本発の国際市民フォーラムだ。防災ダボス会議が欧米の防災専門家中心であるのに対し、同フォーラムは、アジアに重点を置き、広く市民も参加できるものだ。2021年秋に開催予定だった第3回は、延期となり、2023年3月10日~13日 仙台にて開催となった。                              https://worldbosaiforum.com/

 同フォーラムの中で、「2050年カーボンニュートラルを目指した取り組み」と題するセミナーが行われ、「脱炭素都市づくりの取り組み」について仙台市環境局地球温暖化対策推進課より行われた。具体的な取り組みとしては、防災対応型太陽光発電システム整備事業、次世代エネルギー創出促進事業、エコモデルタウン推進事業などが紹介された。また、「カーボンニュートラルを実現する地域分散型エネルギーシステム」と題し、東北大学金属材料研究所河野特任教授より、「みやぎ生活協同組合における地球温暖化対策への取り組み」と題し、同組合環境管理室大原室長補佐より行われた。

(仙台市環境局地球温暖化対策推進課の発表資料から)

 「2050年カーボンニュートラルを目指す、脱炭素都市づくりに向けた、仙台市環境基本計画(杜の都環境プラン)は2021年3月に策定されました。仙台市は新たな目標を表明しましたが、防災環境都市・仙台市のエネルギー政策の根底は、東日本大震災において電力供給の途絶など大規模・集中型のエネルギーシステムの脆弱性が露呈されたことを出発点としています。特定のエネルギー源に過度に依存せず、災害に強くエネルギー効率の高いまちづくりを推進しています」(環境局地球温暖化対策推進課)
 
 「みやぎ生活協同組合における地球温暖化対策への取り組み」の発表は、次のような構成で行われた。
●みやぎ生協の脱炭素目標と結果
●その具体的な取り組み例、事例
 1)SVO発電機の導入
 2)再エネ発電所の開発とその電力活用による効果
 3)水素エネルギー利活用への期待
 みやぎ生協の脱炭素の目標は、パリ協定に基づく削減目標として、2030年までに2013年比で65%以上削減としているが、2020年度の目標は47%に対して60.8%削減実績を残すなど、順調な滑り出しができているとのこと。全国の生協の2030環境目標としても「再エネの電源開発を積極的に行い、事業からのCO2排出を限りなくゼロに近づけていきたい」と謳うなど、生協は数歩踏み込んでおり、推進は積極的だ。

(みやぎ生協の発表資料から)

 さて、事例発表の中で、参加者の多くが注目したのが、あまり耳にしたことがなかったSVO発電機である。フォーラムでの発表は上図のような内容に限られたが、後日、SVO発電機の取り組みについて、詳しくお聞きすることができた。

 廃食油を電気に変える SVOは、「Straight Vegetable Oil」の略で、ヤンマーエネルギーシステム㈱が開発したバイオディーゼルコージェネレーションシステムである。同組合では、ヤンマーと2015年に国内初の実証実験を開始し、25KW規模のものを順次設置、5台導入し現在4台(1台は2019年の豪雨被害で水没廃棄)が稼働している。全体の事業運用は次のような流れとなっている。

                 

(画像提供:みやき生協)

 バイオ燃料は、固体、気体、固体に分類されるが、液体では主に、バイオエタノール、バイオディーゼル(BDF)、SAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ばれるバイオジェット燃料が実用化されており、世界的にはバイオエタノールが最も普及している。
 SVOはこれらに続く液体バイオ燃料となるが、同組合のSVO発電機では、「FAME(脂肪酸メチルエステル、Fatty Acid Methyl Ester)」と「SVO」の2種類のバイオ燃料を使用する。この2種は、いずれも原料は植物性廃食油だが、生成プロセスが異なる。FAMEは植物性廃食油にメタノールを添加してエステル交換反応をさせて生成する。このとき、副産物としてできるグリセリンを除去しなければならないが、軽油と同等レベルの優れた燃焼性をもつ。ただし、酸化しやすく樹脂やゴムを劣化させるという課題がある。一方、SVOは不純物を取り除いただけの生の植物性廃食油。生成時の環境負荷が低いが、原料により燃料としての品質が異なること、常温で粘性が高いこと(軽油の約10倍)が難点で、国内での導入実績はほとんどなかったという。
 「2015年頃、他の生協で、ヤンマーさんがBDFに対応したバイオディーゼルコージェネの実証実験を行っていると伺った時に、SVOでの発電も可能かもしれないという話を聞いて進めることになりました。廃食油の利用は以前から検討していたのですが、化学反応を起こして精製するBDFではなく、不純物を取り除いただけのSVOでの発電は大変やりやすいと考えました。国内初の事例として、みやぎ生協の環境への取り組みのアピールにもなると考えました」(大原氏)
 ヤンマーは、実証にあたり、FAME燃料に対応するためにゴム部を劣化に強い素材に換装、SVOを使用するときには燃料切り替えユニットを燃料供給側に設置。起動時と終了時のみ軽油もしくはFAMEを使用し、またSVOタンクを保温することで、「SVOが常温で固形化する」という難点も克服し、国内で初めて、SVOによる安定した発電方式を実現した。

 廃食油は、SAFと呼ばれるバイオジェット燃料の原料にもなりうる。食料との競合を回避した、再生可能な廃棄物系バイオマス由来の燃料として、世界的に活用が進んでおり、JALやANAも積極的な利用、普及の推進を発表した。かつての国内バイオ燃料ブームにおいては、回収作業のコスト、不純物の目詰まりなど、評価が思うように高まらなかったが、近年大きく見直されている。「実はSAF関連の某プロジェクトから私どものところにも廃食油供出の打診がありましたが、私どもの事情や産出量が少ないことを説明し、ご遠慮いたしました(笑)」(大原氏)

 SVOの原料は、みやぎ生協の各店舗で販売する、お惣菜をつくる際に厨房から出る廃食油。加えて店頭に持ち込まれる生協組合員の廃食油も一部活用を行っている。みやぎ生協グループ店舗全体では、毎月約20トンの廃食油が集まり、SVO使用するために、不純物の除去を行う。廃食油に含まれる水分を静置分離により除去、遠心分離によるろ過で揚げかすなどの不純物を取り除き、さらに浄化フィルターにかける。これらにより、発電時の焼き付きやつまりのリスクを減少できる。SVOは低温で固化するので24時間約40℃のお湯で保温。フィルターの目詰まりが注意点という。

 

(みやぎ生協の発表資料から SVO・水素混焼発電機)

 2021年4月には、㈱日立製作所、丸紅㈱、宮城県富谷市と進める水素プロジェクトとも連携し、日立製作所とデンヨー興産㈱が開発した日本初のSVO・水素混焼発電機についても実証に取り組んでいる。
 水素プロジェクトとは、2017 年 8 月に環境省の「平成 29年度地域連携・低炭素水素技術実証事業」の事業者に採択され、2018 年から富谷市において低炭素水素サプライチェーン構築に向けた実証を行ってきたもの。昨年、停電時でも発電を可能とする水素混焼発電機を追加で設置し、本格運用を開始した。追加した水素混焼発電機は、水素と SVOを可変な割合で混合し、SVO・水素混焼エンジン発電機で発電することで、BCP(事業継承計画)対策を強化するものだ。今後設備の運用・実証を行い、成果を 2021 年度末までにまとめる予定だ。

 みやぎ生協の長年にわたる環境への取り組みと、創業以来、小型エンジンの開発に長く注力してきたヤンマーの思いが合致して生まれた廃食油を使ったSVO発電機の実用化。両社は2018年から始まっている仙台市、筑波大、東北大、パナックも加えた下水藻類油化の共同実験でも共同で参画している。また、つい先日の3月16日であるが、宮城県と福島県では最大で震度6強の地震があり、今も生活や交通への影響が続いている。被害に遭われた方へのお見舞いと、1日も早い復旧を願うばかりであるが、これらの取り組みが仙台市、宮城県、また日本の気候変動などによる災害を含めた防災環境都市づくりをどうけん引するか注目である。

2022-03-21 | Posted in G&Bレポート |