研究情報
東大・九大等の研究G、非生分解性とされていた市販釣り糸が海洋で生分解することを発見。漁業系プラごみ問題解決へ(2025.5)
東京大学、九州大学、一般財団法人化学物質評価研究機構(CERI)、長岡技術科学大学、愛媛大学の研究グループは、海洋では分解しないとこれまで共通認識されていた市販の釣り糸の中に、代表的な海洋生分解性ポリマーのセルロースと同等レベルで生分解する釣り糸が複数存在することを発見した。具体的には、市販されているナイロン6とナイロン6,6の共重合体の釣り糸の中で、共重合体の比率がある範囲に入る市販の釣り糸が、海洋中で生分解性ポリマーの標準物質であるセルロースと同程度の生分解性を示すことを世界で初めて明らかにした。これは、ナイロンを非生分解性ポリマーとして扱ってきた教科書の記述や、高分子分野・水産業分野の共通認識が間違っていることを示し、これまでの常識を完全に覆すものである。この発見を契機として生分解可能な釣り糸が世界中で盛んに利用されるだけでなく、漁網等の漁業系プラスチックの材料開発に展開が可能となることから、ゴーストギア問題の包括的解決が期待される。
<研究の背景>
東京大学の伊藤特別教授らは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)ムーショット型研究開発事業の中で、2020年度から「非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」というテーマで、強靭性と海洋生分解性を両立する釣り糸の開発を推進してきた。釣り糸のポリマー素材としては、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが利用されているが、これらのポリマーは非生分解性であるため、切れた場合には海洋中または海底に長期間とどまり、水鳥やウミガメなどに絡まることによる生態系への悪影響や、マイクロプラスチック化することによる海洋汚染が世界的な問題になっている。
詳しくは、→https://www.k.u-tokyo.ac.jp/information/category/press/11596.html