研究情報
豊田中央研究所とトヨタ自動車、植物非可食部から高効率でエタノール生産する発酵プロセス開発(2025.8)
㈱豊田中央研究所は、トヨタ自動車㈱と共同で、植物バイオマスの非可食部から効率よくエタノールを生産できる発酵プロセスを開発した。豊田中央研究所技術が使われている酵母菌「TOYOTA XyloAce」(トヨタ ザイロエース、トヨタ酵母菌)を用いた発酵プロセスを、特定の植物バイオマスに最適化することで、非可食部の主成分であるセルロース/ヘミセルロースからのエタノールへの理論的な変換効率において、世界トップレベルとなる95%以上にまで高めることに成功した。開発した発酵プロセスは、2024年11月に竣工した次世代グリーンCO2燃料技術研究組合(raBit)のバイオエタノール生産研究事業所における技術実証で活用されている。この研究成果は、第77回 日本生物工学会および化学工学会 第56回秋季大会にて発表される予定。

取り組みの全体像/ トヨタ酵母菌の中でも高い能力を示す菌株をスクリーニングし、 生産効率の向上を実現
<背景>
植物などの生物資源(植物バイオマス)を原料として作られるエタノールはバイオエタノールと呼ばれ、化石燃料の削減と温室効果ガス排出の低減に貢献できる持続可能なカーボンニュートラル燃料として注目されている。バイオエタノールは酵母菌などの微生物が糖(グルコース)を発酵することで生産される。サトウキビやトウモロコシなどの可食部位に含まれるデンプンや糖を原料とする第一世代エタノールは、変換効率が高く生産が容易である一方で、食料と競合するという懸念も指摘されている。
そこで注目されているのが、非可食部に多く含まれる食物繊維の一種であるセルロースやヘミセルロースを原料とする第二世代バイオエタノールである。第二世代バイオエタノールは農林業の廃棄物や、食用作物の栽培には適さない土地で育てた植物を有効活用して生産できるため、第一世代バイオエタノールと比べてさらに環境負荷が小さくなると考えられている。
一方、セルロース系原料はそのままだと酵母菌が発酵に利用できないため、これらを前処理して酵母菌が利用できる形に変換することが必要である。しかし、このとき生産される一部の糖(キシロース)は酵母が利用できず、また前処理の過程で発酵阻害物が作られるため、第二世代バイオエタノールで第一世代と同等の生産効率を達成するのは困難であった。
豊田中央研究所はこれまでトヨタ自動車と共同で、キシロースを利用でき、かつ発酵阻害物に対する耐性も併せ持つ「トヨタ酵母菌」の開発を通じて、第二世代バイオエタノール生産技術の確立に取り組んできた。
<研究内容と成果>
このたび当社はトヨタ自動車と共同で、植物バイオマスとしてソルガム等の非可食部を活用した第二世代バイオエタノール生産において、トヨタ酵母菌の性能を最大化する発酵プロセスを開発した。トヨタ酵母菌に合わせて植物バイオマスを前処理・糖化することでその性能を最大限に引き出すことに加え、トヨタ酵母菌の性能自体の向上にも取り組んだ。
トヨタ酵母菌はもともと、通常の酵母が利用できないキシロースを高効率でエタノールに変換できることや、発酵阻害物に対する耐性を持っているのが特徴であるが、植物バイオマスの種類に応じて最適化することで、様々な植物バイオマスに対して高効率なエタノール生産ができる可能性がある。当社は、ソルガム等の植物バイオマス非可食部から、特に高いエタノール変換効率や発酵阻害物耐性を示す菌株をスクリーニングし、独自の育種技術によってこれらの性能をさらに高めることに成功した。
こうした発酵プロセスの最適化により、特定の植物バイオマスの非可食部に含まれるセルロース/ヘミセルロースを分解して得られるグルコース/キシロースからの理論的なエタノール変換 効率において、95%以上という世界トップレベルを達成した。
詳しくは、→https://www.tytlabs.co.jp/cms/news/news-20250826-3765.html