研究情報
海洋研究開発機構等研究G、同位体モデルと精密観測でメタン放出足跡推定。農業及び廃棄物埋立における微生物排出対策の必要性(2024.4)
海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東北大学、気象庁気象研究所、国際応用システム分析研究所、国立環境研究所、国立極地研究所、コロラド大学、ユトレヒト大学の研究グループは、大気中メタン濃度の長期および短期的な変化に対して化石燃料および微生物起源のメタン放出がそれぞれどのように影響したかについて、放出インベントリや高精度のメタン濃度および安定炭素同位体比の大気観測データと全球大気化学輸送モデルとを組み合わせて解析する手法を新たに開発した。
本手法を用いて、過去30年間にわたる大気中のメタン濃度と安定炭素同位体比の変化を解析した結果、特に1990年代から2000年代初頭に化石燃料起源のメタン放出が顕著に減少し、その後はほぼ一定であったことが明らかになった。さらに1990年代から2010年代にかけて、微生物起源のメタン放出が顕著に増加しており、その大部分は廃棄物埋立と畜産によるものであることがわかった。また、湿地からのメタン放出は年々の変動には大きく寄与しているが、全放出量の増加に占める割合は比較的小さいこともわかった。
この結果は、1990年代から2010年代にかけて石油・天然ガス関連でのメタン放出量が増加した、あるいは、米国でのシェールガス採掘に伴うメタン放出量の大きな増加があったとする従来の報告とは異なるものである。これまでのメタン放出量の総量および時間変化をより正確に把握するためには、化石燃料インベントリの排出係数や統計情報をさらに精査していく必要があると考えられる。またこれらの研究成果によって、過去の放出トレンドがより良く理解され、将来におけるより効果的な温暖化の緩和策立案に資する情報が提供されることで、国際的なメタン放出量削減の目標達成を支援できると期待される。
<本研究の概念図>
安定炭素同位体比は、分子中の炭素同位体の存在量について標準試料の値との差異を相対的に表したもので、δ13C(デルタ13シー)と表される。メタン放出源は、それぞれ特徴的な安定炭素同位体比を持っているため、観測された大気中濃度と同位体比、および大気中での化学反応における同位体比の変化量と放出量のバランスをとることにより、メタンの総量と各放出源の寄与を推定することが可能になる。
詳しくは、→https://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20240418/ →https://www.nies.go.jp/whatsnew/2024/20240417/20240417.html