研究情報
北大と三菱ケミカルG、海洋細菌から新たなPBS分解酵素の発見。海洋分解促進剤等への期待(2023.10)
北海道大学と三菱ケミカルグループ㈱らの研究グループは、海洋での分解性が乏しいポリブチレンサクシネート(PBS)に対し、分解性を示す海洋細菌ビブリオ・ルバー(Vibrio ruber)を発見し、さらに本海洋細菌から新たなPBS分解酵素の特定に成功したと発表した。
海のプラスチック汚染は世界規模課題の一つであり、様々な技術を駆使して解決策を見いだしていく必要がある。生分解性プラスチックの開発はその解決策の一つだ。ポリ3-ヒドロキシ酪酸(PHB)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等の海洋環境下で生分解するポリマーが開発されている一方で、土壌やコンポスト環境下などではよく分解されるにも関わらず、海洋域では生分解性が減弱すると評価されているポリマーも数多く知られている。PBSもその一つで、バイオ原料由来のコハク酸を活用したPBSは生分解性バイオマスプラスチックの一つとして知られているが、PBSの海洋環境下での難分解性の要因究明には、PBS分解性海洋微生物やそれら由来の酵素を特定し、それらの基本性質を解析することが必要だ。
本研究では、まず、北海道沿岸から採取した海水中にPBSフィルムを浸漬させて培養したところPBSの分解と資化が認められた。このフィルム上では、ビブリオ科細菌の存在量が高まっていた。次に、様々な細菌を探索し、V. ruberがPBSを分解できることが分かり、かつ、V. ruberのゲノム配列から新規のPBS分解酵素遺伝子を特定した。さらに、V. ruberのPBS分解酵素を、大腸菌を使って生産させ、この組換え酵素の高度精製にも成功した。このV. ruberのPBS分解酵素はPBSフィルムを分解可能で、既知のカビ由来酵素よりも分解活性が高いことが分かった。
本研究結果は、海洋細菌由来のPBS分解酵素を特定した初めての成功例で、このV. ruberのPBS分解酵素の三次元構造をシミュレーションしたところ、既知のPET分解酵素の構造と極めて類似しており、本酵素によるPET分解能も期待される。
詳しくは、→https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/10/pbs.html