研究情報

産総研・東大等6者、植物を用いた有用タンパク質生産の研究開発拠点を横浜国大内に設置(2025.7)

 NEDOの「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」において、国立大学法人横浜国立大学は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、鹿島建設㈱、デンカ㈱、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科、国立大学法人北海道大学と共同で、「遺伝子組換え植物を利用した大規模有用物質生産システムの実証開発」プロジェクトに取り組んでいる。このたび、本プロジェクトの成果を活用し、物質生産用に開発した植物を用いて、栽培から遺伝子発現、目的物質の抽出精製までを一気通貫型に実施可能な世界初の植物バイオものづくり研究開発拠点を横浜国立大学内に設置した。

 本拠点では、宿主植物の育種、栽培、生成物の分離・精製などの研究開発のみならず、実証・製造への取り組み、技術情報の発信、人材育成までを包括的に連携させた運用体制により、国内における植物を用いた有用タンパク質生産などの新産業の創出を推進することで、次世代の植物バイオものづくりの中核拠点としての役割を果たす。

<背景>
 植物バイオテクノロジーの分野では、遺伝子組み換え技術などを利用して、多様な有用タンパク質を生産することが可能である。しかし、現在、産業利用されている有用タンパク質のほとんどは微生物や動物細胞を用いて生産されている。温暖化の影響が懸念される近年、光合成により二酸化炭素(CO2)を吸収し多様な有機物を生産できる植物の活用は、温室効果ガス(GHG)の削減や炭素循環型社会の実現のために欠かせない手段である。さらに、この植物を用いた有用タンパク質の生産では、人獣共通病原体や毒素の混入リスクが低いこと、生産の低コスト化や初期設備投資が低く抑えられることなど利点も多く、世界的にも医薬品原料などを製造する技術として研究開発が進められている。特に欧米では、わずか数日で多量のタンパク質が生産できる一過性発現系を用いた方法が主流になりつつあり、数万平方メートル規模の事業用植物生産工場の開発、建設が進められてきた。一方、本プロジェクトでは、日本が有している優れた基盤技術を活用して同規模の生産能力を、より小規模な施設設備で実現可能な技術の開発に取り組んできた。

<本拠点の概要>
 このような背景の下、NEDOは2020年度から本事業にて、バイオものづくりを推進する研究開発および拠点整備に取り組んでいる。本事業では、2020年度から開始した、産総研(代表機関)、鹿島、デンカ、東京大学、北海道大学による本プロジェクトで、植物の一過性発現系を用いた高効率な実用化規模の有用物質生産に関する技術開発に取り組んできた。本プロジェクトでは、植物改変から栽培、抽出精製に至るまでの各プロセスで、事業として成り立つ生産規模として解決が必要な技術的な課題について研究開発を行い、最終的にこれらを融合・統合することで一気通貫型システムの開発を進めている。これは世界的にも初の試みであり、日本独自のプロセスを構築することで、国内で、植物を用いた有用タンパク質生産の新規産業創出につながることを目指している。

 その一環として、2024年度から横浜国立大学が産総研の再委託先となり、これまでの本プロジェクトの成果を集約した拠点を同大学内に設置することにした。本拠点では、植物の栽培、目的物質生産遺伝子の導入、目的物質を生産している植物体の破砕から精密ろ過に至るまでの一貫抽出・精製システムおよび不純物混入を抑え目的物質だけを高純度に抽出可能な抽出装置を整備するとともに、関連する研究開発・生産実証に向けて取り組んでいる。併せて、技術の紹介だけでなく、座学や実習などを通じて産業人材育成にも活用する考えだ。

詳しくは、→https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101866.html

2025-07-10 | Posted in 研究情報 |