研究情報
理研・東大研究G、強靭ながら海水中で原料まで分解される超分子プラスチックの開発に成功(2024.11)
理化学研究所と東京大学の国際共同研究チームは、強靭でありながら海水中などで容易に原料にまで解離し、生化学的に代謝される「超分子プラスチック」の開発に成功したと発表した。
本研究成果は、プラスチックの代替材料として、固体の超分子ポリマーの可能性を初めて示唆し、マイクロプラスチックによる環境汚染の抑制に貢献すると期待される。
今回、国際共同研究チームは、食品添加物や農業用途に広く用いられている安価な生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを用いて、高い物質代謝活性を持ちながら、優れた成形加工性、耐熱性、高い力学特性など、従来のプラスチックに匹敵、あるいはそれらをしのぐ性能を備えた無色透明で超高密度のガラス状超分子プラスチックを得ることに成功した。
現代社会に欠かせないプラスチックは巨大分子であるポリマー(重合体)で構成されている。ポリマーとは、重合反応によって多数のモノマー(単量体)が安定的な共有結合で結ばれたもので、そのほとんどが化石資源を原料としている。プラスチックは現在世界で年間4億3千万トン生産されているが、そのうち、リサイクルされているのはPETを中心にわずかに9%以下で、燃焼も含め、他は廃棄されている。日本では燃焼による廃棄が中心で、これは温室効果ガスの発生につながる。一方、カーボンニュートラルを実現する再生可能資源から成るプラスチックは全プラスチックのわずか1.5%にとどまっている。プラスチックを自然環境に投棄すると、次第に分解してマイクロプラスチック(5mm以下の微細なプラスチック)となって蓄積し地球環境を汚染し、生態系や人の健康への悪影響も懸念されている。
そこで、注目されるのが超分子ポリマーである。超分子ポリマーは結合の可逆性から原料モノマーに簡単に戻すことができる。しかし、この可逆性が故に、超分子ポリマーはゴムのような柔らかい材料にしか使えず、プラスチックの需要を満たす代替材料になることはできないと長い間信じられてきた。
研究チームの相田グループディレクターは、2種類のイオン性原料モノマーが架橋すると同時に相分離するという特性を生かして結合の可逆性を押さえ込むという新しい着想を基に、原料モノマーが可逆的な非共有結合で接着されている「超分子ポリマー(液体・固体両方の状態を取る)」が廃プラスチック問題の解決の鍵を握ると直感した。そこで、国際共同研究チームは、超分子ポリマーから堅固なプラスチックの作製に挑んだ。
●研究手法と成果
今回、国際共同研究チームは、生化学的な物質代謝を受ける2種類のイオン性モノマーを室温の水中で混合した。水素結合で強化された静電相互作用(塩橋)により2種類の原料が互いに接着し、架橋構造体を形成すると同時に、この混合物は上相と下相に相分離を起こす。上相(水相)は高密度の水にモノマーの無機対イオンを取り込み(脱塩)、下相は静電相互作用(塩橋)によって接着した架橋構造体を形成して凝縮相を作る。この相分離により、架橋構造が安定化して、塩を外部から添加しない限り、架橋構造体から原料への解離ができなくなる。そして、凝縮相を分離して乾燥させると、無色透明で超高密度(1.71gcm-3)のガラス状超分子プラスチックがほぼ定量的に得られることを発見した。
詳しくは、→https://www.riken.jp/press/2024/20241122_1/index.html