研究情報
東大・SYSTEMIQ社研究G、日本の化学産業のGHG排出ネットゼロへの道筋と戦略を発表(2024.10)
東京大学未来ビジョン研究センターとSYSTEMIQ社の研究グループは日本の化学産業の温室効果ガス排出ネットゼロへの道筋と戦略を発表した。本研究は三菱ケミカル㈱との共同研究の下で、資金提供を受け行われた。
化学産業が生み出す製品は、現代の私たちの生活をさまざまな面で支えている。例えば、食品等の包装容器や感染防護に使われるプラスチックだけでなく、化学製品は多くの産業で原材料として用いられている。しかし、温室効果ガスに関しては、化学産業は日本の産業界では鉄鋼業に次いで排出量が大きい。世界が温室効果ガス排出のネットゼロを目指す中、日本でも多くの法律や政策が整備されてきたものの、日本を含む世界の化学産業は、使用する原料や製品の多くに炭素が含まれることなどから、ネットゼロの実現は困難とされている。加えて、化学産業はプラネタリー・バウンダリーズにおけるサステナビリティ関連のさまざまな課題(気候変動、プラスチック汚染、生物多様性の喪失など)にも、課題間で負荷を転嫁することなく対処しなければならない。
グローバル・コモンズ・センターとSYSTEMIQ社からなる研究グループは、世界の化学産業がネットゼロを実現するための道筋を2022年に提案したのに続き、今回は、日本の化学産業がスコープ1、2のみならず、スコープ3も含めたネットゼロを実現するための道筋と戦略を発表した。具体的には、最近公表された学術論文が示すネットゼロを実現するための定量的な道筋から得られる知見と、日本および日本の化学産業に関する知見を組み合わせることで、日本の強みと弱みを踏まえた戦略や行動方針を示し、現在の日本の化学産業と望ましい未来とをつなぐ架け橋となることを目指したものである。
<発表のポイント>
■化学産業において、温室効果ガスの排出量をネットゼロにすることは難しいとされているが、最新の学術論文に基づき、これを2050年までに達成するために日本の化学産業が進むべき道筋や、日本の強みと弱みを踏まえた戦略について研究報告書にまとめた。本報告書の提言は、日本と同様の課題を抱える他の国や地域にも適用できると考えられる。
■日本の化学産業はプラスチック等のリサイクルを最大化し、バイオ由来原料の確保や、CCS(CO2の地下貯留)技術等の活用を進めるべきである。なぜなら、これらによりネットゼロ達成下において、各化学企業や国が供給できる化学製品の総量が決まるからである。
■新たな設備や原料の導入によりネットゼロ化学品の製造コストは現状よりも大幅に増えるが、最終消費者向け製品の製造コストへの影響は極めて小さい。
詳しくは、→https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/z2101_00172.html