研究情報
理研、京大研究G、光合成細菌を窒素肥料として、無機肥料の代替利用可能性明示(2024.6)
理化学研究所と京都大学の共同研究グループは、破砕・乾燥処理した海洋性の非硫黄紅色光合成細菌のバイオマスが作物栽培の窒素肥料として利用可能であることを明らかにした。
本研究成果は、既存の窒素肥料に替わる持続可能な窒素肥料の開発に貢献すると期待できるとした。
海洋性の非硫黄紅色光合成細菌であるRhodovulum sulfidophilumは窒素とCO2の固定が可能であり、これを破砕・乾燥処理したバイオマスは11%(重量比)もの窒素を含有している。共同研究グループはそのバイオマスを肥料として利用し、植物がバイオマス由来の窒素を直接的に取り込んでいることを確認した。このバイオマスは無機肥料の4倍に相当する量を施肥しても植物の発芽や生育に悪影響が見られなかった。
<背景>
植物の成長には窒素が不可欠だが、空気の約78%を占める窒素を直接利用できる植物は多くない。空気中の窒素を利用しやすい分子へと変換するプロセスを、窒素固定と呼ぶ。マメ科の植物の根には空気中の窒素を固定できる細菌(根粒菌)が共生していることから、古くはマメ科であるレンゲソウを育て、それを田畑へすき込むことで肥料にする(緑肥)という手法も行われていた。食糧生産を担う現在の農業は化学合成された無機肥料に大きく依存しているが、無機肥料の製造と使用は環境へ多大な負荷をかけている。過剰に施肥され余剰となった無機窒素は環境中へと流出し、一方で炭素が供給されないため土壌の有機態炭素を枯渇させる。また土壌中の余剰窒素はGHGである一酸化二窒素(N2O)へと変換され、農業分野からの排出の一因となっている。堆肥などの有機肥料は植物に栄養を補給し土壌構造を向上させるが、その効率は炭素(C)と窒素(N)の比(CN比=C/N)に依存する。一般的に用いられる有機肥料は窒素含有量の低い場合が多く大量の施肥を必要とするため、含まれる塩分やその他成分により土壌塩分や栄養毒性の問題を引き起こす。CN比が高い有機肥料は土壌中の有機態炭素を増加させるものの、一酸化二窒素の排出を増加させる可能性がある。そのため、窒素含有量が高く、CN比が低い有機肥料が求められている。一方、近年の政治情勢は無機肥料サプライチェーンの混乱を招き、食糧生産への重大な影響が予測されているが、このような状況下、環境負荷の小さい食糧生産のための持続可能な代替の窒素供給源が必要とされている。
詳しくは、→https://www.riken.jp/press/2024/20240611_1/index.html