研究情報
日立造船とNUProtein社、細胞増殖因子のコムギ胚芽抽出液の製造装置開発。遺伝子組み換え原料を使わず培養肉製造用 (2023.10)
日立造船㈱は、バイオ系スタートアップ企業であるNUProtein㈱(徳島県徳島市)と共同で、遺伝子組み換えを伴わない培養肉を作り出す「細胞増殖因子」の原料「コムギ胚芽抽出液」の製造工程を自動化する「コムギ胚芽抽出液自動製造装置」を世界で初めて開発したと発表した。(細胞増殖因子とは、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞や組織幹細胞の分化や増殖を促進させるために必要なタンパク質の総称)
現在、食肉を目的とした牛や鶏などの畜産分野からのGHG排出量は、世界全体で総排出量の約15%を占めると言われており、人口増に伴う食肉供給量の増加は、畜産動物の飼育数増加につながり、GHG発生量のさらなる増加が懸念されている。そのため、畜産に依らない、培養肉の製造技術が模索されており、環境意識が高く食料自給率の低いシンガポールでは一部のレストランで既に提供されているほか、米国などでも注目が高まっている。
培養肉の原料となる細胞を培養するためは、細胞増殖因子が必要で、細胞増殖因子は、動物細胞などを使用した遺伝子組み換え技術により作られていたが、近年には遺伝子組み換え技術を用いず、植物由来となるコムギ胚芽から抽出した成分で細胞増殖因子を作り出す技術「無細胞タンパク質合成法」をNUProteinなどが確立している。 無細胞タンパク質合成は、動物細胞を用いないため内在性ウイルスの危険がないなどのメリットがある一方、コムギ胚芽から必要成分を抽出するには熟練した作業者の手作業が必要で機械化が困難だったが、NUProteinと共同でコムギ胚芽抽出液自動生成装置を世界に先駆けて開発した。
培養肉の製造コストは細胞増殖因子が大部分を占めることから、細胞増殖因子の原料となるコムギ胚芽抽出液の製造を自動化することは、大きなコストダウンにつながる。 開発に当たっては、手作業を再現したロボット制御および装置の製作を日立造船が、原料や抽出プロセスの最適化をNUProteinが担当した。 本装置では、コムギ胚芽から培養液2,000Lに加える細胞増殖因子を1日で製造することが可能であり、1か月の稼働で約3トンの魚の培養肉を製造するために必要な細胞増殖因子を製造できる。
詳しくは、→https://www.hitachizosen.co.jp/newsroom/news/assets/pdf/FY2023-55.pdf