研究情報
農研機構、 酵素パワーで生分解性プラ製品の分解加速。農業用マルチフィルムの鋤き込みで効果実証(2023.7)
農研機構は、生分解性プラスチックを分解する酵素を用いて、野菜の栽培に使う耐久性の高い生分解性農業用マルチフィルムを、畑に敷いたまま、分解を加速させる方法を実証した。フィルムは、酵素を散布処理した翌日には強度が下がり、壊れやすくなるため、土の中へ鋤(す)き込み、分解を促す処理が容易になる。これにより、生分解性プラスチックを使用者が望むタイミングで分解を促進できれば、処理労力を画期的に低減できるため、利用場面が広がり、ごみの削減に役立つ。
生分解性プラスチックは、最終的には水とCO2まで分解される高分子化合物。生分解性プラスチックは、野菜を栽培する時に畑の表面を被覆する農業用資材であるマルチフィルムでの使用が増加している。栽培終了後に、畑に鋤き込んで土壌微生物により分解させる処理ができるので、従来の分解されないプラスチックで問題となっていた使用後に回収する労力と土で汚れたプラスチックの処理が不要となる。生分解性のマルチフィルムは、様々な環境下で多様な野菜の栽培に用いるために耐久性の改良が進められている。ただし、栽培期間中に壊れにくいように調節された製品は、使いやすい反面、使用後の分解が遅くなる。
農研機構は、これまでに、生分解性プラスチック分解酵素を用いて、使用後の生分解性マルチフィルムの分解を加速できるかどうかを実験で確認した。イネの葉や籾に常在する酵母菌であるシュードザイマ・アンタークティカ(Pseudozyma antarctica)が、生分解性プラスチックを分解する酵素(Biodegradable plastic-degrading Enzyme)を分泌することを発見し、その分解酵素をPaEと名付けた。また、PaEが、生分解性マルチフィルム開発当初の素材であるPBSAやPBS、非結晶のポリ乳酸を分解することを見出している。
最近の生分解性マルチフィルムは、分解が遅い素材であるPBATを主成分とする製品や、PBATよりさらに分解が遅いポリ乳酸(PLA)を添加した製品が増えている。農研機構は、今回、PaEがPBATを分解することも見出した。PBSA、PBS、PBATについてそれぞれの素材だけで作られたフィルムをPaE溶液に浸漬すると、フィルムは表面から分解されて、数時間以内にPBSA>PBS>PBATの順で薄くなり、重量が減った。これらの生分解性プラスチック素材を混合した市販の生分解性マルチフィルムも、PaE溶液に浸すと分解した。畑の畝に展張した市販の生分解性マルチフィルムの表面にPaE溶液を散布する処理方法でも、翌日にフィルムの強度が下がった。また、畑に鋤き込んだ後すぐに、土の中や表面から目視で回収できたフィルム断片は、酵素処理をしなかった場合に比べて、大きな断片が減り、総重量も減少した。生産現場においても、酵素処理によってフィルムの分解が加速されることを明らかにした。
今後、生分解性プラスチックと分解酵素を組み合わせて使用することで、使用者が分解のタイミングを調整することが可能となり、農業用資材などの野外で用いるプラスチック製品などを土に還すことが期待される。
詳しくは、→https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/158894.html