G&Bレポート,海洋の持続可能性
ANA HD・BECS/紙のアップサイクル、DOWAエコシステム/バイオコークス、海藻バンクコンソーシアム/ブルーカーボン生態系拡大 エコプロ2024注目した展示から(2025.1.17)
2024年12月4日~6日、東京ビッグサイトでは、SDGs Week EXPOとしてエコプロ2024が、カーボンニュートラルテック、自然災害対策展、今回の新設のサーキュラーパートナーシップEXPOとともに開催された。脱炭素、気候変動対策等に加え、資源循環に向けた高度化・循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行に向けて動き出しており、実効性のある展開に向けて動き出した感があるが、その中から、バイオ・バイオマス分野において、注目した展示を紹介する。
■ANAホールディングス/BECS 紙のアップサイクル素材・製品
航空会社の環境対策というと持続可能な航空燃料(SAF)に関することが取り上げられることが多かったが、ANAホールディングス㈱とスタートアップ企業のBECS㈱共同ブースでは、紙を原料にしてまるでプラスチックのように格段に性能を上げた紙製品の展示を行った。
これまで、紙のリサイクルは、古紙(一度使われた紙)を原料として紙や紙板をつくり製品化することであったが、リサイクルされたものは紙としての性能であった。またPEやPPなどのプラスチックを混ぜることでプラスチックのような物性を出し製品化する企業はあったが、紙のアップサイクルプラスチックフリー素材「あっぷるん(Upplen)・kamimol」が注目を集めた。
「客室乗務員の「資源循環可能な世の中を作りたい」という思いから立ち上がり、ANAグループの新規事業提案制度「Da Vinci Camp」を通過した新規事業としてプロジェクトを推進してきました。新しい技術で、連携可能な企業様を模索する中で、BECS社の「紙でできなかったことを紙で」という技術に辿り着きました」とANAホールディングス未来創造室デジタル・デザイン・ラボの山地氏は語る。
この素材の特徴を整理すると、
●定義上は「紙」
プラスチックを一切使用せず、植物繊維とBECS開発の添加剤、溶剤を配合することで、植物繊維同士を組み合わせて生成。紙ならではの風合いで色鉛筆やクレヨン、水性ペンで着色が可能である。
●汎用プラスチック成型機を利用できる
専用資材汎用のプラスチック成型機が利用可能。プラスチックと同様の複雑な成型も対応できる。
●古紙リサイクルフローに適した素材
紙粉を取り出すことにも成功、紙としてリサイクルすることが理論上可能。資源循環にも適応した世界初の新資材である。
BECSの山本社長は新素材生成にあたって「独自開発のアルコール系可塑剤を使っており、これは現在特許を申請中です。シャルピー衝撃試験でプラスチックに比べて非常に高い数値を計測しており、精度の高い成型も可能で発泡スチロール物流資材や緩衝材等の代替材料として適していると考えております」と語る。
ANAホールディングスの中でのステップとしては、事業化を見据えた実証実験の一環として市場調査兼試験運用中の段階という。山地氏はプロジェクト担当であるが、未来創造室の専任ではなく、客室乗務員の業務も対応しながらという展開で、どういった製品化が有効であるのか現場のニーズも模索する。環境に負荷を与える企業から環境に貢献する企業へというテーマのもと、今後の製品化展開に注目したい。
■DOWAエコシステム バイオコークス
DOWAエコシステム㈱のブースでは、リチウムイオン電池や太陽光パネルのリサイクル、金属資源循環の取り組みが紹介されたが、化石燃料の代替として期待されるバイオマス固形燃料の一つである「バイオコークス」が展示された。
同社の環境技術研究所(秋田県大館市)において、化石燃料の代替として期待されているバイオマス固形燃料の一つであるバイオコークスの製造装置および燃料評価装置を導入し、民間企業としては初めて開発から製造・品質評価までを一貫して行える体制を2024年11月に構築した。今後、様々な原料を用いたグリーンな燃料の開発を加速させる考えだ。
近年、石炭コークスやその他の化石燃料の代替として、バイオコークスの本格的な実用化に向けた取り組みが進み出しており、同社においても、木質系、農業系、廃棄物系など様々な原料を用いたバイオコークスの製造に関する研究開発にこれまで取り組んできた。2023年にはDOWAテクノファンドを利用した近畿大学バイオコークス研究所の井田民男教授との共同研究により、グループ内の廃棄物処理施設(溶融炉)で実施した試験において、農業系残渣を原料としたバイオコークスが石炭コークスの一部を代替可能であることを確認した。
バイオコークスのさらなる実用化に向けては、バイオコークスに適した原料の選定・調達に加え、使用する設備や操業条件へ適合させるための特性評価や、評価結果を原料や製造方法へ反映させることが課題となる。
「今回、弊社ではバイオコークスの製造装置および燃料評価装置を導入し、開発から製造、品質評価までを一貫して行える体制を構築しましたが、社内設備での試験利用を行い、バイオコークスの開発を加速させることが目的です。また、バイオコークスはバイオマス原料以外に廃プラスチックなども原料として活用できることから、既存の廃棄物処理事業との連携をどう進めるか、重要な観点になっていくと考えております」(環境ソリューション室 市原課長)
今後は、DOWAエコシステム傘下の国内外拠点における将来的なバイオコークスの製造・販売事業の拡大、多様な原料サプライヤーやバイオコークスのユーザーとの関係構築も視野に入る考えだ。
■海藻バンクコンソーシアム ブルーカーボン生態系拡大プロジェクト
ブルーカーボン生態系の一つである藻場は沿岸の浅海域に分布しており、多様な海藻・海草類により構成されている。藻場は「海のゆりかご」とも呼ばれ、①魚介類をはじめとする水生生物に産卵場や隠れ場、稚仔魚の保育場など、生産活動の場を提供している。また、②海中の栄養塩やCO2を吸収・固定する光合成により、水質浄化と酸素供給を行うなど、沿岸の生態系にとって重要な役割を果たしている。さらに、③岩礁に分布する藻場は波浪を弱める天然の防波堤となり、砂泥に分布する藻場は土砂の流出を抑制して海岸浸食を防ぐといったように、海岸線の保全と防災にも貢献している。
しかし近年、藻場が衰退・減少する「磯焼け」が大きな問題となっている。磯焼けは、温暖化による海水温の上昇や栄養塩の欠乏、食植生物の食害(ウニ、食植性魚類)などの複数要因が挙げられる。水産資源の回復とCO2吸収源の確保、海岸線の保全と防災の観点から、藻場を回復させて維持管理していくことは重要な課題となっている。
<海藻バンクのシステムフロー>
このような状況の中、三省水工㈱、日建工学㈱、㈱アルファ水工コンサルタンツ、三洋テクノマリン㈱の4社は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)公募の グリーンイノベーション基金事業「漁港を利活用した海藻バンクによるブルーカーボン生態系拡大プロジェクト」に採択され、海藻バンクコンソーシアムを結成し推進している。この展開概況が展示された。
同コンソーシアムは、ブルーカーボンを推進するため、漁港を利活用して大量かつ安定的に海藻を育成し、海藻移植用カートリッジを用いて周辺海域へ効率的に移植することにより、広域な藻場の造成と回復を実現する海藻供給システム(海藻バンク)を構築することが目的であり、藻場を回復させるための技術開発に取り組んでいる。
実証実験を行う漁港は、農林水産省が策定した社会実装計画を基に各自治体で作成された藻場干潟ビジョン、地元関係者の事業への関心の高さなどを考慮した以下5漁港を選定している。
1)神恵内漁港(北海道神恵内村)、2)小波渡漁港(山形県鶴岡市)、3)只出漁港(岩手県陸前高田市)、4)保戸島漁港(大分県津久見市)、5)豊漁港(長崎県対馬市)
5漁港では地域資源をはじめとする強みを生かしながら、①軽量な海藻移植用カートリッジ、②海藻類の生育を促進する材料を混入した基盤ブロック、③フシスジモク、アカモク、アラメ、クロメ、南方系ホンダワラ類など多様な海藻種苗生産技術、④漁港内における中間育成技術の開発、⑤藻場造成適地選定技術、⑥ICT技術を活用した広域藻場モニタリング手法の開発を進めている。これらを組み合わせることで、藻場を効率的に回復・造成する海藻種苗供給システムの実現と社会実装を目指す。
開発したこれらの技術は、国や地方公共団体、洋上風力発電事業者等の民間企業、漁業関係者などに対して提案していきたい考えだ。また、ビジネス構造のイメージとして、主に現在の補助事業で実施されている藻場造成事業に対し、今後は民間資金を活用した藻場造成の取組みが増加していくものと見込んでいる。既に漁業関係者を中心に藻場保全に取り組んでいる地域や、ブルーカーボンクレジットの申請や検討を進めている地域もあることから、こうした地域をターゲットに事業化を検討する予定だ。
同コンソーシアム関係者によれば「現状は、概ね保全活動の推進が軸となっていますが、今後はビジネス投資の創出に向けて、次の展開に移行していくことが重要と考えております。水産資源の回復、CO2吸収によるブルーカーボンクレジットビジネス、業界の垣根を越えた製品開発などを推進する海藻種苗ビジネスの創出などが鍵を握ると考えております」と展望を語った。今後の展開に注目していきたい。