研究情報
産総研、機能性タンパク質を大量生産する植物開発。RNAサイレンシング機構を抑制し正常な形態形成維持(2025.10)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)バイオものづくり研究センターは、RNAサイレンシング機構を抑制することで機能性タンパク質を生産する高い能力を持ちながら、正常に成長して種子も作ることができる植物体を作出したと発表した。
遺伝子の情報を生物に導入して生産される機能性タンパク質は、ワクチン抗原や酵素などとして幅広く利用されている。機能性タンパク質は主に動物細胞や微生物を用いて生産されているが、近年、安全性や生産コストの面で優れていることから、植物を用いた生産法が注目を集めている。ところが、植物にはウイルスなどの外敵から身を守るため「RNAサイレンシング機構」という外来遺伝子の発現を抑制する仕組みが備わっており、この仕組みによって目的とする機能性タンパク質の生産効率が下がるという問題がある。これに対して産総研ではこれまでに、RNAサイレンシング機構を抑制するために、その中心的な役割を担うRNA依存性RNAポリメラーゼ6(RDR6遺伝子)を壊したrdr6植物体を開発してきた。rdr6植物体は機能性タンパク質の高い生産能力を持つ。一方で、rdr6植物体は “野生型” と比較して大きく成長できず、種子も形成されないという欠点があった。
今回、RDR6と密接に関連して植物の形態形成に関与するTAS3というDNA配列に注目し、TAS3の逆反復配列をrdr6植物体に導入する遺伝子組換えを実施した。その結果、高い機能性タンパク質生産能力に加え、野生型植物と同程度の大きさに成長して種子も形成される実用性を兼ね備えた「TAS3i植物体」を作出することに成功した。この植物体は、機能性タンパク質の効率的かつ実用的な生産を可能にする。例えば再生医療や培養肉産業では、細胞培養に用いる高価な機能性タンパク質が大量に必要とされており、それらの供給コストが課題となっている。この植物体で機能性タンパク質を生産・供給することで、細胞培養にかかるコストの大幅な削減が期待される。さらに、医薬品や研究試薬・診断薬などを製造する産業分野においても、同様にコスト削減と安定供給への貢献が期待される。なお、この技術の詳細は、2025年7月18日に「The Plant Journal」に掲載された。

植物による機能性タンパク質の生産
詳しくは、→https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20251001/pr20251001.html