G&Bレポート,海洋の持続可能性

長崎県五島市 脱炭素、磯焼け対策として、ブルーカーボンプロジェクト始動  五島市ゼロカーボンシティフォーラム等から (2022.4.21)

 年度が押し迫った3月29日、長崎県五島市の勤労福祉センターにおいて、地球環境に関するイベントが開催された。「五島市ゼロカーボンシティフォーラム~持続可能な島づくりに向けて~」、及び五島市ブルーカーボン分科会として実施された「五島市ブルーカーボンシンポジウム」だ。主催は、五島市再生可能エネルギー推進協議会と五島市ブルーカーボン促進協議会、五島市再生可能エネルギー産業育成研究会は共催した。同イベントは、地域の市民や企業が積極的に脱炭素化に取り組む意義と現場での実践について意見交換を行い、機運醸成を図ることを目的に開催された。                                                   

 こういった取り組みについて、関心を寄せる多くの関係者と情報共有を図るため、画像等含め情報提供のご協力を五島市産業振興部さまよりいただきました。御礼申し上げます。

(画像提供:五島市)

 五島市は、九州の最西端、長崎県の西方海上約100kmに位置する。大小152の島々からなる五島列島の南西部にあって、11の有人島と52の無人島で構成されている。五島市では、「世界遺産登録の推進」「再生可能エネルギーの島づくり」「マグロ養殖基地化」「日本一の椿の島づくり」の4大プロジェクトを推進し、島ならではの地域資源を活用して、活性化と交流人口の拡大に取り組んでいる。とりわけ、再生可能エネルギー分野においては、五島市再生可能エネルギー産業育成研究会が主体となり『五島版RE100』の取組みを進めている。『五島版RE100』とは、事業所等が使用する電力を「五島産」「CO2排出ゼロ」「再エネ100%」として供給することで電力の付加価値を高め、新たな産業振興につなげる取組だ。また、2021年3月には、五島版RE100認定委員会と五島市は、環境問題にともに取り組む協定を損害保険ジャパン㈱と締結した。

 特に五島市の貴重な地域資源である海を生かした海洋再生可能エネルギー分野においては、2014年7月、国の「海洋再生可能エネルギー実証フィールド」に長崎県海域が選定され、五島市海域では、浮体式洋上風力発電として椛島沖、潮流発電として久賀島沖の奈留瀬戸及び田ノ浦瀬戸が選定された。いずれも日本初の環境省の実証事業として、産学官民一体となって取組を進めており、海洋における国内最先端の再生可能エネルギーの情報集積地となっている。更に、本市独自の「漁業・地域協調モデル」の構築も掲げている。

(画像提供:五島市 左:浮体式洋上風力発電機、右:潮流発電機)

 洋上風力発電は近年、欧州を中心に急速に拡大しており、広大な国土を持たず、海に囲まれた日本においては、切り札ともいえる。「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」において促進の対象となり、発電設備導入に向けたインセンティブとともに、発電にかかるコストの低減が導入の追い風となっている。そういった中で、洋上風力の後を追い、潮流、波力、潮汐力なども進み始めている。太陽光発電や風力発電などは持続可能な循環型社会の構築に必要不可欠であるが、稼働率、設置場所の限定、生態系への影響等の問題が指摘されている。海洋が創り出すエネルギーは、この問題点の補完が可能でもある。またブルーカーボンの取り組みは、炭素吸収源確保としての位置づけだけでなく、海洋生態系の保全事業の一環でもある。そういった考えのもと、五島市ブルーカーボン促進協議会が昨年11月に設立された。

(五島市ゼロカーボンシティフォーラムから)

 五島市ゼロカーボンシティフォーラムでは、基調講演として、国立環境研究所 生物多様性領域山野領域長から、また福江商工会議所の清瀧会頭からの講演などが行われた。
 五島市ブルーカーボンシンポジウムでは、五島市ブルーカーボン促進協議会長 挨拶のあと、五島市ブルーカーボン促進協議会の取組について五島市産業振興部より概況解説があった。
 分科会講演では、 「Jブルークレジットについて」と題し、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)の桑江理事長より、 また「五島市の磯焼け対策について」と題し、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所研究員/一般社団法人磯根研究所の吉村代表からの講演が行われた。
 質疑の後、植食性生物を活用した商品試食会として、「五島の醤について」と題し、金沢鮮魚の金澤代表から、「五島のフィッシュハムについて」と題し、㈱浜口水産の濱口専務取締役から商品紹介が行われた。

(講演のスライドから)

 分科会講演の概要を簡単に紹介させていただくと、桑江理事長の講演では、ブルーカーボンに関連した国内外の動向を中心に解説があった。
 ブルーカーボンとは、大気中のCO2が海に吸収され、海底や水中生物などに貯蔵された炭素のことを指す。(上図参照)気候変動、対策の必要性などが訴えられる中、カーボンニュートラル、カーボンネガティブを目指す企業が目指すが増加している、また自然再生活動はボランティアベースではなかなか続かないという実態がある。そういった中で、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)は、下記を活動の柱として創設され、Jクレジットで運用されるグリーンカーボン/樹木バイオマスに加えて、新たな資金メカニズムとして「Jブルークレジット制度」の試行を開始、普及を目指している。
●次世代以降も持続的に海から恵みを受けられるようにする、新たな方法や技術の開発
●国の認可のもと、企業、自治体、NPO、漁協をはじめ、各法人や各団体の皆様と対等な立場、異業種連携
●科学技術的な根拠、数値、経済価値,具体的手法によってニーズに応える

(講演のスライドから)

 対象となるプロジェクトは、藻場、マングローブ、塩性湿地(干潟)、その他内湾等の自然海岸や自然海域、また人口基盤(構造物、養殖施設等)も含まれる。藻場については、日本独特のもので、海外では海の森林というような位置づけでマングローブが主体になっており、また養殖として多く行われているカキは、CO2を吸収しないので対象には含まれないとのことだ。
 また、グリーンカーボンとの比較で考えると、ブルーカーボンは、炭素貯留の持続可能性という観点で数百年から数千年レベルという。グリーンカーボンの場合は樹木の寿命ということになり、数十年程度、伐採時には排出として計上しなければならない。ブルーカーボンのCO2の回帰リスクは低く、担保も基本的には発生しない。土壌の撹乱などがあった場合でも大気への回帰は限定的だが、一方、グリーンカーボンの場合は、山火事、土砂崩れ、土地転用、不適切な伐採などリスクは低くはなく、非人為的回帰の場合は担保、人為的回帰は消失や補填義務などが伴う。
 国内では、年度末時点で、横浜港、神戸港、徳山下松港、北九州港の4プロジェクトにおいてJ ブルークレジットの証書が交付されている。スタート当初は各地域の多様な主体の連携によるものが主であったが、北九州港では、J-POWERによる企業単独プロジェクトも始まった。プロジェクトでは、各地域の多様な考え、利害の調整が必要となる。同じ土俵で議論できるような場、協議会のような組織設立が進めやすいという。                                                                なお、4プロジェクトの概要は、→https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001470186.pdf

 Jブルークレジットは、2021年度、譲渡総量64.5 t、平均単価は1t当たり7万円を超えた。始まったばかりで供給量が少ないということもあるが、高い評価、信頼を得てきており、今年2月に経済産業省が発表した国内排出量取引所の開設(GXリーグ構想)にも貢献できるよう進めていきたいと語った。

(講演のスライドから)

 吉村代表の講演は、五島市の磯焼け対策~五島市モデルの現在と今後~がテーマであったが、まず「磯焼け」について、まず水産庁のホームページをもとに概略をまとめておく。
 磯焼けとは、「浅海の岩礁・転石域において、海藻の群落(藻場)が季節的消長や多少の 経年変化の範囲を超えて著しく衰退または消失して貧植生状態となる現象」である。近年国内では各地にこの現象が発生し、大きな環境問題となっている。磯焼けが発生すると、磯根資源の減少や成長不良を招き、沿岸漁業に大きな影響を及ぼすという。
 藻場・干潟は、水産生物の産卵、幼稚仔魚の育成・餌の確保の場として水産資源の維持・増大に大きく寄与しており、海水中の有機物の分解や窒素、リン等の栄養塩の取り込みによる水質浄化機能に優れており、良好な沿岸域環境を維持し安定した水産資源を確保する上で重要な役割を果たしている。
 水産庁漁港漁場整備部では、これらの問題に対して、既往の研究成果や研究機関等の協力を得ながら2006 年度に磯焼け対策ガイドラインを策定、2007 年度からは、磯焼け対策全国協議会の開催に加え、漁業者への磯焼け対策の技術的サポートや技術開発を委託事業により行っている。得られた新しい知見を取り入れ、磯焼け対策ガイドラインは改訂が行われている。
https://www.jfa.maff.go.jp/j/gyoko_gyozyo/g_thema/sub35.htm
 磯焼けの発生原因については、各海域の地形、海洋学的特性、生物の種組成、沿岸利用・開発の歴史・現状など、各地域によって異なるとのことであるが、五島市の基本的な考え方は次のような構成だ。

(講演のスライドから)

 対策の柱は、仕切り網、植食魚駆除、ウニの駆除、母藻供給となっている。また、有志による磯焼け対策応援チーム“磯焼けバスターズ”が結成され推進中。カギケノリは牛の餌に混ぜると、温室効果が非常に高いげっぷ中のメタンが85%減るとの研究があり、オーストラリアでは、カギケノリの大規模養殖化が進められているという。

 ウクライナ情勢により、エネルギー市場が不安定化しているが、脱炭素の取り組みに立ち止まる余裕はないだろう。環境省による、2030年までに陸と海の30%の保全を目指す「30by30」の取り組みもスタートを切った。ブールカーボンに対する企業の関心も高まっており、五島市の今後のブルーカーボンの取り組み、COP26でも課題となったメタン排出削減の可能性をもつカギケノリについても注目である。

2022-04-19 | Posted in G&Bレポート, 海洋の持続可能性 |