G&Bレポート,藻類バイオマス

次世代食料資源の開発に挑む   アルガルバイオのマーケットイン型藻類事業 食品開発展2021セミナー・展示から  (2021.11.10)

 食品開発展2021(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン)は、2021年10月6日~8日、東京ビッグサイトで開催された。食品分野の研究・開発、品質保証、製造技術者向けの専門展示会であるが、2021年は、気候変動問題などの地球環境問題や人口増加に絡み、フードロス削減や、フードテック、プラントベースフードの潮流が起こる中、2021記念セミナーでは、「フードテックへの挑戦」「プラントベースフードの開発」と題したセミナーが開催された。セミナーや関係の展示を追った。

 「次世代食料資源としての藻類の可能性」と題したセミナーは、(株)アルガルバイオ(千葉県柏市)の木村代表取締役社長より行われた。なぜ今藻類が注目されるのか?藻類市場や藻類を用いたアプリケーションの解説が中心に発表された。また、出展した同社のブースでは同社の取り組みついても、お聞きすることができた。

展示ブースから

 今年の7月29日は、アース・オーバーシュート・デーであったという。「地球全体の生態系が赤字になっている状態を「オーバーシュート」と呼びます。地球には資源の純輸入がないため、地球レベルでは生態系の赤字とオーバーシュートは同じことになりますが、この日は、地球が1年間に再生する生物資源を人類がすべて使い果たした日として、国際シンクタンク・グローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)が発表しています。2021年の7月29日以降12月31日まで過去の遺産(貯金)を切り崩しながら人類は生き延びることになります。つまり私たちは1年で地球約1.7個分を消費している計算になります。地球が足りない、今後予測される人口増に対して、また温暖化による自然災害の増加などの中で、水、タンパク質、穀物が足りないというわけです」(木村社長)

 こういった状況の中で、藻類に着目する理由は、
●CO2と水から、光合成によって、糖、タンパク質、脂質などを生産する。
●炭水化物やタンパク質などを原料として必要としないため食糧との競合がない。
●健康機能性素材、食品原料、飼料やバイオ素材などを直接生産することが可能である。

また、藻類のいくつかの特徴として挙げられるのが、次のようなデータや事例だという。

1)藻類バイオマスは種によって脂質含量も高く、生物全体が可食と捉えることができることから、他の陸上作物に比較し、利用の効率性が高い。他えば、ダイズにおいては、植物体に占める可食部の割合は、約12,5%、藻類バイオマスは生物全体が可食となれば100%となるという。

2)どんな場所でも生産できるという特徴もある。例えば農業への利用が厳しい砂漠地等に位置するにも関わらず、海外では藻類の生産は行われている。土地の太陽光や気温に適応することが可能な株、水の効率的な提供という問題はあるが、栽培が可能という。

3)また、カーボンニュートラルの観点では、産業排ガス、産業排水などにおいて藻類を活用し、アンモニウムやリン酸塩を除去する例などもあり、廃棄物の浄化とCO2の吸収を同時に行い、発生するバイオマスや酸素を有効に活用していくことも検討されているという。

 同社は2018年3月、東京大学発のベンチャー企業として千葉県柏市で竹下毅氏が東京大学特任研究員を経て「藻類研究を社会に役立てたい」という思いで創業した。東京大学における20年にわたる研究の成果としての藻類株ライブラリーを基に、藻類由来のオイル成分(脂肪酸等)やカロテノイド類などの分野で様々な企業や大学等と、ウェルネス、フードテック、ビューティーといった人々の食と健康に資する藻類の共同開発を続けてきた。

同社の事業研究成果

 2020年には、リード・インベスターである東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)支援体制のもと、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2020年度支援事業において助成金の交付を受け、微細藻類の大量培養技術の開発を進めてきた。微細藻類は世界に数万から数十万種が存在すると言われているが、産業利用されている種は数十種に過ぎず、その理由のひとつとして、微細藻類は株毎に最適な培養条件が異なるため、実用化に向けた大量培養の技術ハードルが高いことが挙げられるという。

 創業4年目の2021年5月、更なる事業成長を見据えた組織構築とコーポレート・ガバナンス強化のために、商社でフードテック分野の事業経験のある木村氏が経営統括分野、竹下氏が研究開発分野を担い、育種・培養技術を組み合わせて「藻類」による「共生・循環型社会」の実現を目指す体制にシフトした。

 同社は新体制のもと、藻類の研究開発で、人々と地球の未来に貢献する」をスローガンに掲げる。「弊社の理念達成のためには、藻類の産業利用を加速させていく必要があります。その鍵となるのが、当社が描く「藻類プラットフォーマー」としてのマーケットイン型の研究開発経営です。 藻類の裾野を広げていくためには、ウェルネス、ウェルビーイング、代替タンパク質、循環型社会構築など市場のニーズに適したプロダクトやソリューションを開発することが不可欠ですが、藻類を扱う多くの企業が単一特定の藻類株を用いて用途開発を進めるプロダクトプッシュ型が主流です。弊社は、幅広い顧客ネットワークから得られた様々な市場のニーズ・ウォンツを実現するため、東京大学での長年の研究で培ったユニークな藻類株ライブラリー・スクリーニングや培養製法、育成技術といった技術ノウハウを掛けあわせ行くことを構想しております。共同開発あるいは自社開発モデルも織り交ぜ、最適なソリューションを提供したいと考えています」(木村社長)

 

 10月11日、1kL閉鎖型フォトバイオリアクター2基(上図)を新たに導入すると同時に、遠心分離機や殺菌装置、スプレードライヤなど藻類の一貫培養設備を備える「Clean Technology Lab+(クリーンテックラボプラス)」を千葉県・柏市に開所したと発表した。1kL閉鎖型フォトバイオリアクターの導入は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業化支援によるもので、同ラボは、藻類の培養から回収までを一貫して行える設備を備え、様々な藻類種における大量培養条件の検討をこれまでの約10倍のスケールで実施することができるという。

 単一特定の藻類株を用いて用途開発を進めるプロダクトプッシュ型に対して、同社の市場のニーズに適したプロダクトやソリューションを開発するマーケットイン型の研究開発経営。東京大学の長年の研究成果をベースに藻類事業の新たな事業手法を切り開くか、同社の今後の展開に注目である。

2021-11-10 | Posted in G&Bレポート, 藻類バイオマス |