研究情報
国立環境研究所等の研究G、炭化水素産生する藻類ボトリオコッカスの衣に住み着く細菌発見(2023.3)
国立環境研究所、筑波大学および京都大学の共同研究グループは、緑藻の一種ボトリオコッカス・ブラウニー(Botryococcus braunii:ボトリオコッカス)の分離株から、ボトリオコッカスの「衣」に相当する細胞外マトリクス(多糖などから構成される細胞外層)にドリル運動で穴をあけて住み着くという、ユニークな運動・生態を示す螺旋(らせん)細菌を発見したと発表した。
本研究では、この新奇な共生細菌を新種記載するとともに、ゲノム解析、電子顕微鏡観察、培養実験等により、この共生細菌を含む近縁種が、多様な藻類がつくる「藻類ブルーム」に普遍的に存在することを明らかにし、藻類の大量増殖を制御する可能性を示した。
近年、CO2固定技術や高付加価値化学成分、代替タンパク生産のバイオリソースとして、藻類バイオマスが世界の産業界から注目されている。クロレラ、ユーグレナなどの微細藻類種はすでに産業利用されているが、これらの藻類は大量培養が比較的容易という特性がある。一方、有用化学成分の産生という点で有望であるものの、低コストでの大量培養が困難であることから産業化に至っていないという藻類も数多くあり、ボトリオコッカスもその一つだ。ボトリオコッカスはバイオ燃料の材料となる高純度の炭化水素を細胞外に大量に蓄積するという、他の藻類にはない珍しい特性を持っていることから、古くから注目されていた。分類学的にはクロレラと同じ緑藻というグループに含まれるが、増殖の速度がクロレラの10分の1以下と、とても低い。増殖速度が低い藻類の培養にはコストがかかるため、今日に至るまでボトリオコッカスのバイオマス燃料は実用化には至っていない。
自然界では、様々な微細藻類が大量増殖した「藻類ブルーム」と呼ばれる現象が頻繁に確認されている。単独では顕微鏡でしか存在を確認することができない微細藻類だが、藻類ブルームは地球観測衛星からでも見ることができるほど大規模なものになる。淡水の湖沼等で有名な藻類ブルームはラン藻がつくるもので、これは「アオコ」と呼ばれる。海で有名な藻類ブルームは「赤潮」であり、これは主に渦鞭毛藻や珪藻が原因になっている。アオコや赤潮に比べると稀ではあるが、淡水藻類であるボトリオコッカスの藻類ブルームも熱帯・亜熱帯地方で観察されている。これらの藻類ブルームをつくる藻類は、プール等で人為的に大量発生させることが困難であるという共通の特徴を持っている。自然環境で大量発生する微細藻類を人為的に大量増殖させることができない理由として、自然環境下では微細藻類は様々な微生物と共存し、相互作用をしているという環境の違いがある。実際に、海の藻類ブルームは、藻類と共生する細菌との相互作用によって発生・減衰を繰り返している、という仮説が提唱され、その証拠となるデータが蓄積されている。一方、淡水の藻類ブルームと細菌の相互作用についての研究例はとても少ない状況だった。今回、海の藻類と同様に、淡水藻類の共生細菌が藻類ブルームをコントロールしているのかという点に着目して研究を行った。
詳しくは、→https://www.nies.go.jp/whatsnew/2023/20230324/20230324.html