研究情報
NTT、DHAやEPA等5種の機能性脂肪酸量を同時に高めた珪藻の育種に成功。次世代養殖飼料の開発加速(2026.7)
2026年7月7日、NTT㈱は、独自の育種技術により、養殖飼料に重要なDHAやEPAなどの5種の機能性脂肪酸の含量を同時に高めた珪藻の育種に成功したと発表した。これまで、特定の脂肪酸を増加させると他の脂肪酸とのバランスが損なわれるという課題があったが、本成果により、そのバランスを低下させずに複数の重要脂肪酸量を向上させることが可能となった。本成果は、藻類由来飼料素材の実用化を促進するとともに、魚粉や魚油に依存しないサステナブルな水産養殖飼料の開発に向けた基盤となる。

<背景>
現在、世界人口の増加や食文化の変化を背景に、水産物の需要は拡大を続けている。一方で、地球温暖化などの環境変化により、天然資源に依存した漁獲は安定性を失いつつある。こうした状況の中、養殖による水産物生産は急速に拡大し、現在では世界の水産物供給の約60%に達すると言われている。
養殖には飼料が不可欠ですが、その主要な原料である魚粉や魚油の多くは、天然の小型魚に由来している。小型魚は海洋生態系を支える重要な生物であり、その過度な利用は環境負荷の増大につながる。こうした背景から、魚粉・魚油に代わる、サステナブルな飼料原料の開発が求められている。
珪藻と呼ばれる藻類は、天然の生物資源に依存せずに生産可能であり、養殖飼料として重要なDHAやEPAなどの機能性脂肪酸を生成するため、有望な代替候補の一つである。しかし、珪藻を代替原料として実用化するためには、これらの脂肪酸の含量をさらに向上させる必要がある。本研究ではこの課題を解決するため、魚粉・魚油を代替し得る珪藻の育種に取り組んだ。
<本技術のポイント>
これまで、珪藻の育種研究では、主にDHAやEPAなど特定の脂肪酸の量を遺伝子組換え技術によって個別に向上させる試みが行われてきた。一方で、脂肪酸は細胞内でつくられる過程が相互に関連しており、特定の脂肪酸を増加させると、他の脂肪酸の量や組成に影響を及ぼすことが一般的に知られている。その結果、飼料としてのバランスが崩れてしまうことが懸念される。
本研究では、養殖現場で餌料として広く利用されている海洋性珪藻であるキートセロス・グラシリス(Chaetoceros gracilis)を対象とした。本珪藻に対してNTTの独自技術により遺伝子変異を導入し、その中から特定の脂肪酸に限定しない選抜基準を新たに設定することで、候補となる株を取得した。
<育種の成果>
得られた候補株について脂肪酸の組成および含量を解析した結果、魚介類にとって重要な脂肪酸であるDHAやEPAに加え、α-リノレン酸(※10)、ジホモ-γ-リノレン酸およびリノール酸といった成長や生理機能に関与する複数の機能性脂肪酸の含量が同時に増加しており、細胞当たりで最大1.8倍まで向上させることに成功した。また、これらの育種株は遺伝子組換え技術を適用しておらず、遺伝子組換え生物に課される規制の対象外である。そのため、商用化において審査・届け出などの制約が大幅に低減し、実用展開や社会実装に向けたハードルが低いことも大きな特長である。
<今後の展開>
今回育種した珪藻株は、天然資源に依存した飼料からサステナブルな飼料への転換を促す重要素材となるものである。今後はこれらの藻類を用いた飼料の性能評価を加速していく。さらに、本珪藻株で増加した脂肪酸は高機能性サプリメントなどにおいても重要なため、養殖飼料以外での幅広い領域での応用が期待される。また、本育種技術は藻類の栄養価を高める共通基盤として、他の藻類にも展開可能と考えられる。今後は、対象とする藻類種の拡大と用途開発を進めることで、多様な産業における高機能素材としての利用を広げ、さらなる環境負荷の低減に貢献していく考えだ。
詳しくは、→https://group.ntt/jp/newsrelease/2026/07/07/260707a.html
